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米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました

米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました
米・トランプ大統領は今年2月、国際刑事裁判所(以下ICC、オランダ)の職員やその活動を支援する人々の資産凍結と入国禁止を認める大統領令に署名しました。その後もパレスチナの人権状況に関する国連特別報告者やICCの検察官、パレスチナの人権団体などに対する制裁を発動しています。

こうした事態を受け、国際社会の中で日本が果たすべき役割を訴えるNGO共同院内集会を、10月9日、議院第二議員会館で開催しました。ピースボートも共催団体として参加したこの集会では、国際犯罪を裁くための砦であるICCを守るために日本政府に求められる役割について、NGO活動家や弁護士、国際刑事司法の専門家らが声を上げました。
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米・トランプ大統領は今年2月、国際刑事裁判所(以下ICC、オランダ)の職員やその活動を支援する人々の資産凍結と入国禁止を認める大統領令に署名しました。その後もパレスチナの人権状況に関する国連特別報告者やICCの検察官、パレスチナの人権団体などに対する制裁を発動しています。

こうした事態を受け、国際社会の中で日本が果たすべき役割を訴えるNGO共同院内集会を、10月9日、議院第二議員会館で開催しました。ピースボートも共催団体として参加したこの集会では、国際犯罪を裁くための砦であるICCを守るために日本政府に求められる役割について、NGO活動家や弁護士、国際刑事司法の専門家らが声を上げました。

合意は拘束する(pacta sunt servanda)

米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました
米国の制裁について解説する藤井広重准教授
集会では国際刑事司法の専門家である宇都宮大学の藤井広重准教授が、ICCの役割について解説しました。

「そもそもICCとは、国際的な出来事や国際法を扱う裁判所です。国際社会における法律は各国が有する国内法とは異なり、例えばある条約を国連でつくったからといって、それをただちにすべての国々が守らなくてはいけないわけではありません。大原則として、自分たちの国が合意できる条約のみをきちんと守るというのが国際法におけるルールになります。これを『合意は拘束する(pacta sunt servanda)』と呼びます。現在125カ国がICCのローマ規程(ICCの構成、管轄犯罪、手続きなどを規定する国際条約)に批准しています。パレスチナも締約国のひとつです。一方で、米国や中国、ロシア、インド、イスラエルなどはローマ規程に加盟していません」

米国の制裁について解説する藤井広重准教授

続いて藤井准教授は、今回の制裁の経緯やその内容について話します。

「ICCと米国との関係を振り返ってみると、ローマ規程が起草される段階からすでに様々な摩擦が潜在的に存在していました。ただ米国が根本的にICCを嫌っていたというわけでもなく、時の大統領の方針によってその関係性は変化してきました」

「しかし第一期トランプ政権が誕生すると両者の関係は顕著に悪化し、米国内でのやり取りに制限がかかったり経済的な不利益を被ったりと、直接的な影響が生じるようになりました。その後バイデン政権で大統領令を取り下げることにより関係は改善に向かいますが、第二期トランプ政権になり、ICCが米国や同盟国を不当に標的にしているとして再び制裁は強まります」

「現在では、ICCの判事18名のうち6名に制裁が課せられています。またICCを支援しているという理由により、パレスチナの人権NGO3団体についても制裁対象となり、資産が凍結され米国起点の資金・物品・サービスも遮断されています」

最後に藤井准教授は、「戦争加害者の刑事責任を問うことによって被害者を救済できる機関が国際社会から失われてはならない」と、被害者の存在に対してアプローチできるICCの重要性を訴えて話を締めくくりました。

日本に期待される役割

米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました
日本に期待する役割について提言するフィリップ・オステン教授
藤井准教授と同じく、国際法の専門家であるフィリップ・オステン慶応大学教授は、今回の事態に対して日本に求められる役割について話しました。

「ICC制裁の容認は、国際刑事司法に託された大規模な人権侵害に対する加害者の責任追及と被害者の救済という任務をないがしろにすることにほかならず、これを許してしまうと国際社会全体が大きく衰退する危機に直面する」と指摘しました。

「中心的な締約国として日本のリーダーシップが問われている」と語り、ICCの次期裁判官選挙への候補者擁立とサポート、ICCの広報活動を担うための日本事務所開設、国内法の整備、ジェノサイド条約への加入など、様々な手段でICCを支えることの重要性を訴えました。

ICC制裁とイスラエルによるジェノサイド

米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました
伊藤和子弁護士(右)と土井香苗弁護士(左)
この院内集会の主催団体の一つであるヒューマンライツ・ナウの伊藤和子弁護士は、米トランプ政権によるICC制裁とガザで起こっているジェノサイドの関連について解説しました。

伊藤さんは、「今回の制裁はイスラエル首相らに対する戦争犯罪の逮捕状を出したことに端を発する」と指摘。空爆などによる無差別大量殺人や戦争の手段として人為的に引き起こされた飢饉などに対し、適切に逮捕状を請求するのは国際司法機関として当然で、それに対して制裁を課すのは許されないことだと続けました。制裁に対して声を上げないことは国際社会による虐殺の容認にも通じるという観点からも、今回の米国によるICC制裁に強く抗議していかなければならないと述べました。

同じく主催団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗弁護士は、日本政府は深刻な人権侵害の被害者のために活動するICCを支持する立場を明確にしてほしいと訴えました。

ICCの危機は市民社会の危機

米国によるICC(国際刑事裁判所)制裁がもたらすもの――NGO共同集会を行いました
ICCの危機を訴える吉岡達也
ピースボート共同代表の吉岡達也も、ICCは人類の文明が編み出した非常に重要な財産だと語り、今回の制裁が国際秩序や市民社会への脅威であることを訴えました。

吉岡は、「ICCが機能しなくなったらどうなるかという例が、現在のガザの状況なのではないか」と見解を述べます。「制裁を加えICCを亡きものにしようとする行為は世界を構築してきた一つの論理を潰してしまうことだと思う」と続け、「官民学の垣根を超え団結してICCを守っていかなければ私たちの文明自体が危ういのではないか」と危機感をあらわにしました。

この院内集会の様子は下記URLからご覧いただけます。

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