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韓国の「慰安婦」裁判、徴用工裁判の判決を受けて~日頃、共に平和運動に取り組む皆さんへ~

韓国の「慰安婦」裁判、徴用工裁判の判決を受けて~日頃、共に平和運動に取り組む皆さんへ~
徴用工、「慰安婦」問題をめぐる韓国の司法判決について、「日韓和解と平和プラットフォーム」日本運営委員会が以下の声明を発表しました。「日韓和解と平和プラットフォーム」にはピースボートの野平晋作が共同代表として参加しています。
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徴用工、「慰安婦」問題をめぐる韓国の司法判決について、「日韓和解と平和プラットフォーム」日本運営委員会が以下の声明を発表しました。「日韓和解と平和プラットフォーム」にはピースボートの野平晋作が共同代表として参加しています。
韓国の「慰安婦」裁判、徴用工裁判の判決を受けて
~日頃、共に平和運動に取り組む皆さんへ~

2021年2月2日
日韓和解と平和プラットフォーム日本運営委員会

2018年、韓国の大法院(最高裁判所)は、日本製鉄と三菱重工に対して、強制労働被害者への損害賠償を命じる判決を下しました。日本による韓国併合は不法であり、その下での動員も不法行為であるという判断が、判決の根拠となっています。一方で、日本の司法は日本による植民地支配を合法として判断し、植民地出身者の国家総動員法への適用を合法と見なす立場で判決を下してきました。しかし韓国の大法院判決は、日本の司法判断は植民地支配に抗して立ち上がった3・1独立運動(1919年)や李承晩独裁政権を打倒した4・19革命(1960年)の精神に基づく大韓民国憲法の核心的価値に真っ向から衝突するものだと述べています。したがって、韓国大法院のこの判決は大韓民国憲法の基本原理に忠実な判決であり、韓国の民主化運動の成果であるとも言えるのではないでしょうか。

●真っ当な判決を受け止め、政府間の外交政策を見直すことこそ必要
これを日本の異なる事例に置き換えて考えてみます。日本において、日本国憲法9条を条文通り解釈した真っ当な判決を勝ち取ることは非常に困難です。例外は、駐留米軍の存在を憲法9条違反として砂川事件を裁いた東京地裁の伊達判決(1957年)や、自衛隊のイラク派兵を憲法違反とした名古屋高裁判決(2008年)など、ごくわずかです。最高裁でこのような判決を勝ち取る日が1日も早く訪れることを私たちは願っています。

もし仮に、日本の最高裁が米軍による人権侵害を裁く裁判において、判決の根拠として駐留米軍の存在自体が憲法9条に違反するということを根拠にした判決を下したとします。米政府が「その判決は日米安保条約に違反する。日本政府は国際条約をちゃんと履行できるよう責任をもって、司法を黙らせろ(そのような露骨な言い方はしないと思いますが)」と言ってきたら、私たち日本の市民は米政府の態度を不遜なものとして受け止めるでしょう。高度な政治性を有することを理由に司法判断を回避してきたこれまでの判決こそが間違っているのであって、真っ当な判決を厳粛に受け止め、今こそ日米の外交政策を見直すことこそが必要だと私たちは考えるのではないでしょうか。

こうして立場を変えて考えたとき、強制労働被害者に請求権を認めた韓国大法院の判決に対し、日本の河野外務大臣が駐日韓国大使を呼び出し、「国際法違反の判決だ。無礼である」と発言したことのあまりの不遜さに私たちも怒りを覚えます。

●被害事実は日本の司法も認定。日本政府に主体的解決を求める
2021年1月8日、ソウル中央地裁は、日本政府に対して、原告の元「慰安婦」被害者12名に賠償を命じました。

日本ではこの判決を不当判決だとする受け止め方が多数を占めています。それは日本政府ばかりでなく、民間のメディア、世論においても同じです。この判決は「主権国家は他国の裁判には服さない」という国際法上の常識である「主権免除」に反するということがその理由とされています。しかし、今日、反人道的行為を裁く裁判においては、「主権免除」が適用されないという事例もあり、決して「主権免除」を適用しないことが常識外れであるとは言えません。

また、日本の裁判所でも、「慰安婦」被害者への謝罪と賠償をめぐって、10件の裁判が行われています。10件のうち8件は、被害者の被害事実が認定されています。被害者への賠償を命じたのは、山口地裁下関支部の判決のみですが、他の判決も、被害者の人権回復のために日本政府が主体的に賠償することを禁じているわけではありません。被害者の被害事実と日本政府の関与は日本の司法も認めているわけですから、今回の韓国の司法判決に反発するのではなく、日本政府は主体的に被害者の人権回復のための措置を取るべきです。

●政府間合意は政治的妥協でなく、被害者の人権を尊重した見直しを
日本では、2015年に「慰安婦」問題について合意したいわゆる日韓合意を韓国政府は約束通り履行すべきだというような意見が少なくなくありません。しかし、この合意は被害者の意思を確認することなく決められたものであり、国連の人種差別撤廃委員会も日本政府に対して、「被害者中心アプローチで、あらゆる国籍の「慰安婦」被害者を包摂した永続的な解決のための努力をすること」を求めています。

日韓関係は1965年の国交正常化のときも、2015年の「慰安婦」問題に関する合意を発表したときも、歴史認識問題を人権問題としてではなく、日・米・韓の軍事的結束の阻害要因として見なしてきた米政府の圧力があったことが明らかになっています。米政府の圧力の下、両国が政治的妥結を図り、被害者が取り残されてきました。

被害者たちを今度こそ救済しようというのが、近年の韓国の司法判決です。とりわけ女性の人権に対する意識は民主化とともに高揚し、現在の#Me too運動まで引き継がれています。これまで被害者であるにも関わらず沈黙を強いられてきた被害者を二度と置き去りにしない、そして被害者の名誉回復を願う強い世論が、2015年の日韓合意を許さないという世論をつくりました。被害者の意思を尊重して日韓合意の見直しを図ることは、日本政府にとって人権を尊重する国として国際社会の信頼を回復することにもなるのではないでしょうか。

●沖縄県の仲井眞元県知事の辺野古埋め立て承認と、日韓合意
一度合意したことを見直すという点では、課題は異なりますが、沖縄の辺野古新基地建設をめぐる問題と比較します。2013年、沖縄県の仲井眞元知事は公約を破って、辺野古埋立を承認しました。現在、日本政府が基地建設を強行しているのは、仲井眞元知事の埋め立て承認を根拠のひとつにしています。その後の翁長元知事、現在の玉城知事も埋め立てに反対しています。2019年に行われた県民投票では、投票率52.4%で、72%の県民が辺野古新基地建設に反対しました。私たちは、日本政府とは異なり、仲井眞元知事が埋め立てを承認したことではなく、その後の県民投票など現在の沖縄の世論をより尊重し、また、これまで沖縄に犠牲を強い続けてきた歴史背景も踏まえて、沖縄県民とともに日本政府に辺野古新基地建設を見直すことを求めています。

政府と地方自治体の関係と、国と国との外交関係を法的には同次元に語ることはできないかもしれませんが、日韓関係においても、被害者と被害者を支える韓国の世論と私たちは連帯して、両政府間の合意の変更を求めることはできないのでしょうか。日本の圧倒的世論が辺野古新基地建設反対となったなら、日本政府も米政府と向き合い、日米両政府の合意を見直しせざるを得なくなります。現在、韓国政府が韓国の世論と日本政府との間で難しい舵取りを迫られているのは同じ構図です。問題は韓国政府にあるのではなく、日本政府の政策を変えることができない私たちです。

●歴史認識問題を棚上げにしてきた「1965年体制」の終わりの始まり
~当面の課題と今後の展望~
私たちは、被害者の意思とそれを支える韓国の世論、憲法に深く根差した判決を勝ち取った韓国の市民社会の力に敬意を表します。韓国の司法が日本による植民地支配を不法なものとし、強制労働被害者、「慰安婦」被害者の請求権が残っているという判決を下したことを「1965年体制の終わりの始まり」と表現した韓国の報道もありました。歴史認識問題を棚上げにしない、植民地支配の被害者を置き去りにしない新しい日韓関係の始まりだという意味です。

残念ながら、日本の市民運動はまだまだ非力で、日韓基本条約及び日韓請求権協定の見直しを日本政府に迫るほどの力はありません。当面は、日韓請求権協定で日韓両政府が放棄したのは外交保護権であり、個人請求権は消滅していないことを根拠に、強制労働被害者にも「慰安婦」被害者に対しても賠償するよう、それぞれ被告の企業と日本政府に求めていきます。しかし、いずれは日本政府に韓国併合が不法であったことを認めさせ、日韓基本条約及び日韓請求権協定に代わる新たな日韓関係を築きたいと思います。

日本にとって植民地支配を反省するということは、朝鮮民主主義人民共和国とも国交正常化し、過去清算に取り組むこと、そして、植民地支配の結果、日本に暮らすことになった在日コリアンへの差別的政策を廃絶し、異なるルーツをもつ人々が共に暮らすことができる社会を築くことを意味します。私たちも韓国の民主化運動に学び、植民地支配の下で過酷な人権侵害を受けた人たちの人権と尊厳を回復する努力を通じて、東アジアの平和の礎を築いていきたいと思います。

日韓和解と平和プラットフォーム日本運営委員会
【日本側共同代表】小野文珖(群馬諸宗教者の集い)/髙田健(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動)/野平晋作(ピースボート)/光延一郎(日本カトリック正義と平和協議会)
【日本側運営委員】飯塚拓也(日本キリスト教協議会東アジアの和解と平和委員会)/石川勇吉(愛知宗教者平和の会)/小田川興(在韓被爆者問題市民会議)/北村恵子(日本キリスト教協議会女性委員会)/金性済(日本キリスト教協議会総幹事)/白石孝(日韓市民交流を進める希望連帯)/平良愛香(平和を実現するキリスト者ネット)/武田隆雄(平和をつくり出す宗教者ネット)/中井淳(日本カトリック正義と平和協議会)/比企敦子(日本キリスト教協議会教育部)/飛田雄一(神戸青年学生センター)/渡辺健樹(日韓民衆連帯全国ネットワーク)/渡辺美奈(WAM<女たちの戦争と平和資料館>)
【日本側事務局】くじゅう・のりこ(東アジアの和解と平和ネットワーク)/佐藤信行(外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会)/潮江亜紀子(朝鮮学校と連帯しこども達の教育を考える会)/昼間範子(日本カトリック正義と平和協議会)/藤守義光(日本キリスト教協議会総務)/渡辺多嘉子(平和を実現するキリスト者ネット)

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