大学生だからこそできる地球一周の魅力(後)―学び編―
ピースボートに参加する大学生の多くが、地球一周しながらさまざまな国の文化や社会問題を学べることに魅力を感じています。学生たちの相談に乗り、地球一周へ送りだしてきたスタッフへのインタビュー後編は、教育プログラムとしてのピースボートの船旅について紹介します。
※前編は一番下にある「この記事を読んだ方におすすめ」のリンクからご覧ください。
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- プロジェクト: 地球大学
- 寄港地エリア: ヨーロッパ
- クルーズ: 第98回 地球一周の船旅
- 関連キーワード: 教育
船
2020.6.26
2023.12.22
ピースボートに参加する大学生の多くが、地球一周しながらさまざまな国の文化や社会問題を学べることに魅力を感じています。学生たちの相談に乗り、地球一周へ送りだしてきたスタッフへのインタビュー後編は、教育プログラムとしてのピースボートの船旅について紹介します。
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世界と自分自身を学べる場所
わたしは大学生の時に地球一周をして、スタッフとなってからは地球一周をめざす学生をサポートしてきました。その中で感じたことは、多くの学生が教育プログラムとしてのピースボートに魅力を感じてくれているということです。大学で得られる以上の学びを求めている人が多いのではないでしょうか。
自分を奮い立たせてくれるような刺激を探していたり、今まで知らなかった新しい世界を見たい、これまで関わることのなかった人と出会いたいなど、ただ勉強がしたいということではなく、これからの人生の道しるべになるようなものを探しているように感じます。
私が地球一周した中で一番印象に残っている、デンマークの社会制度について紹介したいと思います。デンマークにはギャップイヤーと呼ばれる制度があって、大学就学前に、正規教育から離れてボランティアや、インターン、旅、留学等を行い、自分を見つめ直したり、将来やりたいことを探す時間を持つことができます。
このギャップイヤーに通うことができる、フォルケホイスコーレという教育機関があります。私たちはここを訪れるツアーに参加して、教師の方や卒業生に話を聞きました。フォルケホイスコーレは、人々のための学校という意味です。学校は緑豊かな開放感あふれる土地にありました。ここでは、ジャーナリズム、社会学、写真や映像、世界情勢などを学ぶコースがあります。
試験や成績が一切なく、民主主義的な思考を育てる場です。対話を通して他者理解や自己理解を深めます。そして自分のやりたいことや将来を見つめなおす、自由な学びの場となっています。
フォルケホイスコーレは当初、デンマーク国内に192校ありましたが、現在は69校に減っています。減少の理由は、このフォルケホイスコーレの考え方が今では、学校や企業にも取り入れられるようになったからだそうです。フォルケホイスコーレのような制度が広まることは、1人ひとりの人生の選択肢を広げ、豊かな社会をつくることにつながるんだろうと感じました。
デンマークは、2012年から毎年行われている国連の幸福度調査(World Happiness Report)で過去3度、1位になっています。その背景には、ギャップイヤーやフォルケホイスコーレの制度が、社会に組み込まれていることが大きく関わっているのではないでしょうか。
ピースボートの船旅で行なっていることは、フォルケホイスコーレにとてもよく似ています。船内では日々、専門家による講座や、世界の国々の文化や社会問題を学ぶ企画があります。そして訪れた国々では、それらを自分自身で体験したり、人々と交流できる多くのツアーがあります。
自分が興味あることを学ぶ環境があるだけではなく、現地の人々や参加者同士が対話する機会がとても多くあります。自分の考えをまとめて他者に伝える、そして他者の話に耳を傾ける時間はとても貴重なものです。その経験から、自分は地球一周した後は何をしたいのか、それをどう実現していくかを考えることにつながっていきます。地球一周している時間は、その人にとってのギャップイヤーなのではないかと思います。
自分を奮い立たせてくれるような刺激を探していたり、今まで知らなかった新しい世界を見たい、これまで関わることのなかった人と出会いたいなど、ただ勉強がしたいということではなく、これからの人生の道しるべになるようなものを探しているように感じます。
私が地球一周した中で一番印象に残っている、デンマークの社会制度について紹介したいと思います。デンマークにはギャップイヤーと呼ばれる制度があって、大学就学前に、正規教育から離れてボランティアや、インターン、旅、留学等を行い、自分を見つめ直したり、将来やりたいことを探す時間を持つことができます。
このギャップイヤーに通うことができる、フォルケホイスコーレという教育機関があります。私たちはここを訪れるツアーに参加して、教師の方や卒業生に話を聞きました。フォルケホイスコーレは、人々のための学校という意味です。学校は緑豊かな開放感あふれる土地にありました。ここでは、ジャーナリズム、社会学、写真や映像、世界情勢などを学ぶコースがあります。
試験や成績が一切なく、民主主義的な思考を育てる場です。対話を通して他者理解や自己理解を深めます。そして自分のやりたいことや将来を見つめなおす、自由な学びの場となっています。
フォルケホイスコーレは当初、デンマーク国内に192校ありましたが、現在は69校に減っています。減少の理由は、このフォルケホイスコーレの考え方が今では、学校や企業にも取り入れられるようになったからだそうです。フォルケホイスコーレのような制度が広まることは、1人ひとりの人生の選択肢を広げ、豊かな社会をつくることにつながるんだろうと感じました。
デンマークは、2012年から毎年行われている国連の幸福度調査(World Happiness Report)で過去3度、1位になっています。その背景には、ギャップイヤーやフォルケホイスコーレの制度が、社会に組み込まれていることが大きく関わっているのではないでしょうか。
ピースボートの船旅で行なっていることは、フォルケホイスコーレにとてもよく似ています。船内では日々、専門家による講座や、世界の国々の文化や社会問題を学ぶ企画があります。そして訪れた国々では、それらを自分自身で体験したり、人々と交流できる多くのツアーがあります。
自分が興味あることを学ぶ環境があるだけではなく、現地の人々や参加者同士が対話する機会がとても多くあります。自分の考えをまとめて他者に伝える、そして他者の話に耳を傾ける時間はとても貴重なものです。その経験から、自分は地球一周した後は何をしたいのか、それをどう実現していくかを考えることにつながっていきます。地球一周している時間は、その人にとってのギャップイヤーなのではないかと思います。
先生との出会いが人生の転機に
わたしの将来の夢は教師になることです。教師をめざしたのは、中学3年生の担任の先生との出会いがきっかけです。元々勉強することは好きで、学校の成績もクラスでは上の方でした。将来は大学に行って学びたい、海外にも行ってみたいとの思いもありましたが、母子家庭で金銭的に余裕がなかったので、断念せざるを得ない状況だと思っていました。商業高校に行ってアルバイトをして、そのまま就職するんだろうなと思っていました。
でも、わたしの状況を知った担任の先生が、奨学金や他の学校のことを調べ、家族も説得してくれたおかげで、進学高校に進むことができました。そして大学で教育を学び、今年卒業しました。今振り返ると、この先生との出会いはわたしの人生の契機だったと思います。わたしも先生のような人になりたいと思い、その先生への憧れから教師になりたいと思うようになりました。
そして地球一周中には、わたしがなぜ教師になりたいか、より深く考えるようになりました。世界をめぐり、さまざまな国の教育について学ぶなかで、その答えを見つけることができました。きっかけとなったのは、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所を訪問するツアーに参加したことと、水先案内人として乗船したオランダ教育研究者のリヒテルズ直子さんによる講座でした。
でも、わたしの状況を知った担任の先生が、奨学金や他の学校のことを調べ、家族も説得してくれたおかげで、進学高校に進むことができました。そして大学で教育を学び、今年卒業しました。今振り返ると、この先生との出会いはわたしの人生の契機だったと思います。わたしも先生のような人になりたいと思い、その先生への憧れから教師になりたいと思うようになりました。
そして地球一周中には、わたしがなぜ教師になりたいか、より深く考えるようになりました。世界をめぐり、さまざまな国の教育について学ぶなかで、その答えを見つけることができました。きっかけとなったのは、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所を訪問するツアーに参加したことと、水先案内人として乗船したオランダ教育研究者のリヒテルズ直子さんによる講座でした。
教師になることはゴールではない
ピースボートの船旅には、国内外から各界の専門家やアーティストの方たちが「水先案内人」として乗船し、船内で講座やワークショップを開催しています。わたしにとっては、オランダ教育研究者のリヒテルズ直子さんの講座が一番の思い出です。
この講座は、イエナプランと呼ばれるオランダで普及しているオルタナティブ教育を紹介することから始まり、そこで実践されている様々なワークショップを通して、「自ら考える」「意見を表明する」トレーニングを行いました。
その中で、「社会が成り立っているからより良い教育をすることができる」のか、「より良い教育から社会ができる」のかを考える時間がありました。リヒテルズさんの話や他の受講者との対話をとおして、わたしが考えたのは、より良い教育をまずつくることが大事で、その結果として社会が変わっていくということです。だからこそ、誰でも受けられる公教育を質の良いものにしていくことが平和な社会をつくることになると信じています。
ピースボートに乗船して、自分の中での大切な軸を見つけることができたように思います。わたしにとって教師になることはゴールではない。あくまで教師という職業は、ツールに過ぎず、わたしは1人ひとりの人生に、良い影響やきっかけを与えられる人になることが目標だと気づくことができました。そしてそれが、平和な社会につながっていくと思っています。
この講座は、イエナプランと呼ばれるオランダで普及しているオルタナティブ教育を紹介することから始まり、そこで実践されている様々なワークショップを通して、「自ら考える」「意見を表明する」トレーニングを行いました。
その中で、「社会が成り立っているからより良い教育をすることができる」のか、「より良い教育から社会ができる」のかを考える時間がありました。リヒテルズさんの話や他の受講者との対話をとおして、わたしが考えたのは、より良い教育をまずつくることが大事で、その結果として社会が変わっていくということです。だからこそ、誰でも受けられる公教育を質の良いものにしていくことが平和な社会をつくることになると信じています。
ピースボートに乗船して、自分の中での大切な軸を見つけることができたように思います。わたしにとって教師になることはゴールではない。あくまで教師という職業は、ツールに過ぎず、わたしは1人ひとりの人生に、良い影響やきっかけを与えられる人になることが目標だと気づくことができました。そしてそれが、平和な社会につながっていくと思っています。
意識の違いに衝撃を受けたドイツの教育
ポーランドのアウシュビッツ強制収容所跡地を訪問するツアーは、ピースボートが最も力を入れているスタディツアーの1つでもあります。第二次世界大戦のとき、ナチスドイツによるユダヤ人などへの大量虐殺(ホロコースト)が行われた場所です。
ここではガイドの方の案内で、収容所での惨劇やホロコーストが起こった歴史的そして社会的背景、現代社会とのつながりなど、多方面から学ぶことができました。
ここで強く感じたのは、「傍観者」であってはならないということです。当時、ナチスドイツに賛同を示していた市民はわずか3割でした。でも戦争で疲弊していく中で、多くの人々が力を持つ者に流された結果が、ホロコーストにつながりました。
政治に興味を示さず、選挙に行かない、自分で考えることをしない多くの傍観者によって独裁政治が生まれ、気づいたら後戻りできない状態になっているということがあるんだと痛感しました。
このツアーでは、世界中の若者を招いてアウシュビッツの歴史を学ぶための「対話と祈りのセンター」に宿泊しました。ここでツアー参加者とのディスカッションをはじめ、アウシュビッツ生還者の証言会や、ドイツ人のボランティアスタッフとの交流を行いました。
ボランティアをしていたドイツ人の高校生と話をしたことが、とても印象に残っています。彼女はドイツの教育について教えてくれました。日本では第二次世界大戦の歴史は、教科書のほんの数ページにまとめられていますが、ドイツでは第二次世界大戦だけで1冊の教科書があるほど、じっくりと授業が行われています。また、ドイツの人は自分たちの国が犯した過ちを真摯に受け止め反省し、子どもたちに伝えています。
日本では被害を受けた日が記念日になっていることが多いのに対して、ドイツでは加害を与えてしまった日を戦争の記念日にしているということも印象的でした。わたしは広島県出身のため、幼いころから郊外学習で平和記念公園に行ったり、8月6日には学校で戦争の歴史を学び、平和について考える機会がありました。
日本の中では、他の地域よりも平和教育に力を入れているはずの広島で育ちましたが、ドイツの話を聞き、意識の違いに衝撃をうけました。
アウシュビッツを訪れたことが、自分自身や現代社会の在り方を見つめ直すきっかけとなりました。この惨劇を他人事ではなく、いかに自分事として捉えるか。そしてこのようなことは、どんな時代でも起こりうる可能性があることをしっかり心に留めて、私自身も行動していこう。
そして教師になった時には、これからの未来をつくっていく子どもたちに伝えていきたいと思いました。
ここではガイドの方の案内で、収容所での惨劇やホロコーストが起こった歴史的そして社会的背景、現代社会とのつながりなど、多方面から学ぶことができました。
ここで強く感じたのは、「傍観者」であってはならないということです。当時、ナチスドイツに賛同を示していた市民はわずか3割でした。でも戦争で疲弊していく中で、多くの人々が力を持つ者に流された結果が、ホロコーストにつながりました。
政治に興味を示さず、選挙に行かない、自分で考えることをしない多くの傍観者によって独裁政治が生まれ、気づいたら後戻りできない状態になっているということがあるんだと痛感しました。
このツアーでは、世界中の若者を招いてアウシュビッツの歴史を学ぶための「対話と祈りのセンター」に宿泊しました。ここでツアー参加者とのディスカッションをはじめ、アウシュビッツ生還者の証言会や、ドイツ人のボランティアスタッフとの交流を行いました。
ボランティアをしていたドイツ人の高校生と話をしたことが、とても印象に残っています。彼女はドイツの教育について教えてくれました。日本では第二次世界大戦の歴史は、教科書のほんの数ページにまとめられていますが、ドイツでは第二次世界大戦だけで1冊の教科書があるほど、じっくりと授業が行われています。また、ドイツの人は自分たちの国が犯した過ちを真摯に受け止め反省し、子どもたちに伝えています。
日本では被害を受けた日が記念日になっていることが多いのに対して、ドイツでは加害を与えてしまった日を戦争の記念日にしているということも印象的でした。わたしは広島県出身のため、幼いころから郊外学習で平和記念公園に行ったり、8月6日には学校で戦争の歴史を学び、平和について考える機会がありました。
日本の中では、他の地域よりも平和教育に力を入れているはずの広島で育ちましたが、ドイツの話を聞き、意識の違いに衝撃をうけました。
アウシュビッツを訪れたことが、自分自身や現代社会の在り方を見つめ直すきっかけとなりました。この惨劇を他人事ではなく、いかに自分事として捉えるか。そしてこのようなことは、どんな時代でも起こりうる可能性があることをしっかり心に留めて、私自身も行動していこう。
そして教師になった時には、これからの未来をつくっていく子どもたちに伝えていきたいと思いました。
人生の選択肢を広げられるようなサポートをしたい
ピースボートのスタッフとしての仕事は、教師に似ているなと感じることがあります。地球一周がしたいとやってくる若者は、人生に迷っていたり、今の学校生活や仕事など自分の状況を変えたいと思っている人が多いように思います。
そんな人たちの背中を押し、地球一周の実現までサポートすることで、その人たちの人生の選択肢を広げることができると考えています。
私が相談に乗っていた人がピースボートに乗船して、「乗せてくれてありがとう」とメッセージを送ってくれることもあって、うれしくなります。これが、今のわたしのやりがいに繋がっています。地球一周の経験を経て、また新しいステップに進んでいく人たちを見ていると私も頑張ろうと思うことができます。
しばらくは、ピースボートでより多くの人が地球一周できるようにサポートして、この経験も生かしてその後は、教師になりたいと思います。
そんな人たちの背中を押し、地球一周の実現までサポートすることで、その人たちの人生の選択肢を広げることができると考えています。
私が相談に乗っていた人がピースボートに乗船して、「乗せてくれてありがとう」とメッセージを送ってくれることもあって、うれしくなります。これが、今のわたしのやりがいに繋がっています。地球一周の経験を経て、また新しいステップに進んでいく人たちを見ていると私も頑張ろうと思うことができます。
しばらくは、ピースボートでより多くの人が地球一周できるようにサポートして、この経験も生かしてその後は、教師になりたいと思います。