「ともに築くアジアの平和」を探って ~2018年・地球大学特別プログラム報告~
8月31日から9月18日まで19日間、ピースボートは5年目6回目となる地球大学「特別プログラム」を実施しました。地球大学「特別プログラム」は英語で行う短期集中プログラムです。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つである「持続可能で包摂的な社会をつくる」をメインテーマに掲げ、日本、台湾、マレーシア、インド、東ティモール、ブルネイ・ダルサラームから集まった17名が、平和、持続可能性、包摂性、公正をキーワードに学びを深めました。参加者は第99回ピースボート地球一周の船旅のアジア区間(横浜~厦門~シンガポール)に乗船し、下船後はカンボジアで1週間現地実習を行いました。
- プロジェクト: 地球大学
- クルーズ: 第99回 地球一周の船旅
船
2018.12.18
2019.3.26
8月31日から9月18日まで19日間、ピースボートは5年目6回目となる地球大学「特別プログラム」を実施しました。地球大学「特別プログラム」は英語で行う短期集中プログラムです。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つである「持続可能で包摂的な社会をつくる」をメインテーマに掲げ、日本、台湾、マレーシア、インド、東ティモール、ブルネイ・ダルサラームから集まった17名が、平和、持続可能性、包摂性、公正をキーワードに学びを深めました。参加者は第99回ピースボート地球一周の船旅のアジア区間(横浜~厦門~シンガポール)に乗船し、下船後はカンボジアで1週間現地実習を行いました。
訪れる先々で出会った人々。当事者の語りから始まる学び
ピースボート地球大学の学びの根幹にあるのは、訪れる先々でのエクスポージャー(現地実習)です。今回のプログラムでは、学生はとりわけたくさんの「当事者の語り」と出会いました。それらの声と向き合い、時に悩みながら、社会問題や国際問題に関する理解を深めていきました。
最初に訪れた広島では、73年前の原爆投下から今に至るまでの体験を被爆者のみなさんが語ってくれました。自分だけが生き延びたことに対する「罪悪感」を今も抱えながら生きる被爆者、被爆した朝鮮人として二重の差別に苦しんだ被爆者、度重なるガンの発症と闘い続ける被爆者…。「二度と核兵器が使われないように、広島で見たこと聞いたことを忘れないで」と言われ、ある学生はその日こう綴りました。「国の安全保障のためには核抑止はやむを得ないと思っていたけれど考えが変わった。」
次に訪れた中国の厦門では、アワビの養殖が盛んな漁村を訪れました。人口増加も手伝って魚の乱獲が深刻化する中、養殖業はひとつの解決策として注目されています。しかし養殖を支える現場では、低賃金にも関わらず猛暑の中来る日も来る日も労働をする人たちがいました。その後訪れた海洋研究所では、「乱獲の問題は何十年も続いている。誰かが解決しないといけない」との研究者の言葉に、持続可能な海を守ることの困難さを知りました。
最初に訪れた広島では、73年前の原爆投下から今に至るまでの体験を被爆者のみなさんが語ってくれました。自分だけが生き延びたことに対する「罪悪感」を今も抱えながら生きる被爆者、被爆した朝鮮人として二重の差別に苦しんだ被爆者、度重なるガンの発症と闘い続ける被爆者…。「二度と核兵器が使われないように、広島で見たこと聞いたことを忘れないで」と言われ、ある学生はその日こう綴りました。「国の安全保障のためには核抑止はやむを得ないと思っていたけれど考えが変わった。」
次に訪れた中国の厦門では、アワビの養殖が盛んな漁村を訪れました。人口増加も手伝って魚の乱獲が深刻化する中、養殖業はひとつの解決策として注目されています。しかし養殖を支える現場では、低賃金にも関わらず猛暑の中来る日も来る日も労働をする人たちがいました。その後訪れた海洋研究所では、「乱獲の問題は何十年も続いている。誰かが解決しないといけない」との研究者の言葉に、持続可能な海を守ることの困難さを知りました。
シンガポールでは、移住労働者に支援の手を差し伸べる現地の団体を訪れ、医療支援や法律支援などについて教えてもらいました。ここで出会ったバングラデシュからの移住労働者は、「シンガポールにきてから8年。楽しい思い出は今まで一つもない」と語りました。ひとつの国の繁栄のために他の国の人たちの幸せや尊厳が奪われている現実に言葉を失い、経済発展の闇にしっかりと目を向ける必要性を痛感しました。
最後に訪れたカンボジアでは、内戦の終結後も続く地雷の被害や貧困、またポルポト政権下の虐殺や拷問が国民にもたらした心の傷を目の当たりにしました。一方で、前を向いて社会をよくしていこうとするたくさんの人たちにも出会いました。障がい者に職業訓練を施す協会、義足支援をする団体、家族のいない子どもに教育の機会を与える学校。「他の人を助けるためにできることがあるからやっている。」との言葉には、私たちには何ができるだろうかと考えさせられました。
最後に訪れたカンボジアでは、内戦の終結後も続く地雷の被害や貧困、またポルポト政権下の虐殺や拷問が国民にもたらした心の傷を目の当たりにしました。一方で、前を向いて社会をよくしていこうとするたくさんの人たちにも出会いました。障がい者に職業訓練を施す協会、義足支援をする団体、家族のいない子どもに教育の機会を与える学校。「他の人を助けるためにできることがあるからやっている。」との言葉には、私たちには何ができるだろうかと考えさせられました。
ナビゲーターが教えてくれた「社会を変える方法」
寄港地で直面した数々の問題は、いずれも簡単に解決できるものではありません。そのあまりの深刻さに「何もできることはないのではないか」と悲観的になってしまいそうななか「できることはある」と教えてくれたのはナビゲーター(ゲスト講師)の方々でした。
今回、学びの伴走をしてくれたナビゲーターは、シンガポールで移住労働者の問題に長く携わるジョン・ジーさん、医師で数々の人道支援の現場に出向いてきたファウジア・ハサンさん、そしてシエラレオネやアフガニスタンなどで武装解除の経験の豊富な伊勢崎賢治さんの3名です。これに加えて、国際モンテッソーリ協会公認教師の深津高子さんから話を聞く機会もありました。ピースボートの川崎哲は、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の経験を語りました。
これら実践者からこれまでの活動を直接教えてもらう中で、社会を変えるためにできることには、SNSの活用や署名活動など比較的身近なことから、研究に基づいた政策提言や国際法などの国際規範づくりなどの専門的なことまで、本当に幅広い実例があることを学びました。
今回、学びの伴走をしてくれたナビゲーターは、シンガポールで移住労働者の問題に長く携わるジョン・ジーさん、医師で数々の人道支援の現場に出向いてきたファウジア・ハサンさん、そしてシエラレオネやアフガニスタンなどで武装解除の経験の豊富な伊勢崎賢治さんの3名です。これに加えて、国際モンテッソーリ協会公認教師の深津高子さんから話を聞く機会もありました。ピースボートの川崎哲は、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の経験を語りました。
これら実践者からこれまでの活動を直接教えてもらう中で、社会を変えるためにできることには、SNSの活用や署名活動など比較的身近なことから、研究に基づいた政策提言や国際法などの国際規範づくりなどの専門的なことまで、本当に幅広い実例があることを学びました。
傾聴。自分の主張。そしてともに実行するアクション
洋上ゼミでは、寄港地で見聞きしたことやナビゲーターの方々に教えてもらったことについて、様々なインタラクティブな手法で振り返りました。「原爆ドームを保存すべきか」の議論や「乱獲を止めるための政策づくり」のロールプレイをしたり、小中学生を対象とした「平和と紛争」についての授業内容を考えたり、身近にある「貧困」や「生きづらさ」の例を考えたり。このような中で、人の意見を聞き自分の意見を述べることを繰り返しながら、自分ひとりでは見えなかった視点を知り、視野を広げることを学んでいきました。
異なる意見や視点を統合しながらともに何かを実現していくことを実践を通して学ぶ本プログラムの集大成となったのが洋上チャレンジ(ONBOARD CHALLENGE)でした。学生は4つのグループに分かれ、包摂性(Inclusiveness)や持続可能性(Sustainability)について具体的なビジョンや目標を立てながら、洋上でアクションを企画し、実施しました。それぞれにジェンダーや差別について考えるワークショップを行ったり、移民問題に関する展示を行ったり、食品ロスについてインタビューを実施し発表したりと、グループごとにたどり着いた「自分たちにできること」のひとつの答えがそこにありました。
異なる意見や視点を統合しながらともに何かを実現していくことを実践を通して学ぶ本プログラムの集大成となったのが洋上チャレンジ(ONBOARD CHALLENGE)でした。学生は4つのグループに分かれ、包摂性(Inclusiveness)や持続可能性(Sustainability)について具体的なビジョンや目標を立てながら、洋上でアクションを企画し、実施しました。それぞれにジェンダーや差別について考えるワークショップを行ったり、移民問題に関する展示を行ったり、食品ロスについてインタビューを実施し発表したりと、グループごとにたどり着いた「自分たちにできること」のひとつの答えがそこにありました。
命の重さはみな同じ。誰一人取り残さない社会へ
「陳腐に聞こえるかもしれないけれど、やっぱり人間みな同じだということに気づいたことが一番大きな学びだったかもしれない」と、最終日の振り返りノートに記した学生がいました。
持続可能な開発目標(SDGs)が目指すのは、「誰一人取り残さない社会」です。昨今の世界をみると、「自分たち」と「それ以外」を区別し、同質の者どうしでかたまり、それ以外を排除しようという動きが強まっています。格差が広がる中で、苦しむ人たちを「自己責任だ」と罵る風潮すらあります。自分たちが世界のなかで置かれている位置を謙虚に受け止め、構造的な暴力を見極める力を持ち、誰一人取り残さない社会のために自らできることを見いだす。今回のプログラムを通じて、学生たちはそんな一歩を踏み出せたように思います。
持続可能な開発目標(SDGs)が目指すのは、「誰一人取り残さない社会」です。昨今の世界をみると、「自分たち」と「それ以外」を区別し、同質の者どうしでかたまり、それ以外を排除しようという動きが強まっています。格差が広がる中で、苦しむ人たちを「自己責任だ」と罵る風潮すらあります。自分たちが世界のなかで置かれている位置を謙虚に受け止め、構造的な暴力を見極める力を持ち、誰一人取り残さない社会のために自らできることを見いだす。今回のプログラムを通じて、学生たちはそんな一歩を踏み出せたように思います。