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女性が「選ぶ自由」を手に入れられる社会のために~「イランに生きる女性の声」報告~

女性が「選ぶ自由」を手に入れられる社会のために~「イランに生きる女性の声」報告~
イランでは、2022年9月に起きた女性のヒジャブ着用をめぐって22歳の女性が逮捕され、その後亡くなりました。その事件を受けて、各地で抗議運動が広がっています。政権による弾圧は激しくなっていますが、抗議はさまざまな形で続けられています。そこでピースボートは、1月22日に緊急企画「イランに生きる女性の声」を実施しました。

イランでは何が起きているのか、そして私たちには、どのような関わりが求められているのか。中東専門家の高橋和夫さんによる解説と、イランで平和活動を行うエラヘさんの生の声を聞きました。
INFO
イランでは、2022年9月に起きた女性のヒジャブ着用をめぐって22歳の女性が逮捕され、その後亡くなりました。その事件を受けて、各地で抗議運動が広がっています。政権による弾圧は激しくなっていますが、抗議はさまざまな形で続けられています。そこでピースボートは、1月22日に緊急企画「イランに生きる女性の声」を実施しました。

イランでは何が起きているのか、そして私たちには、どのような関わりが求められているのか。中東専門家の高橋和夫さんによる解説と、イランで平和活動を行うエラヘさんの生の声を聞きました。

「イランという国は多様」 高橋和夫さん(国際政治学者・中東専門家)

女性が「選ぶ自由」を手に入れられる社会のために~「イランに生きる女性の声」報告~
高橋和夫さん
高橋和夫さんからは、本題に入る前に、イランという国の簡単な紹介をしていただきました。イランは中東にあっても、民族としてはアラブではなくペルシアであること。イスラム教徒が多数派の国ながら、国民の大多数は、イスラム教徒の中ではマイノリティであるシーア派であること。

そして、国土は日本の4倍になる程大きく、7000年という途方もない歴史を持っていること。そして、およそ8,800万人が暮らし、言語や民族、文化が多様であることなどが紹介されました。

高橋さんは、今回の抗議運動について、このように語りました。

「もちろんヒジャブの問題もあるんですけど、これまでのイスラム革命体制の中で、イランの人たちは何度も改革を求めてきました。今回の抗議活動もその連続性の中にあると思います。ただ、違いもあります。

これまでは投票で改革派を選んで変えようとしてきたのですが、最近は対立候補が立候補できない状況がつくられるなど、投票では変わらないことが明らかになってきました。それなら違う方法で変えよう、ということが今回の抗議につながっているのだと考えています」。

「ヒジャブの強制は女性抑圧のシンボル」 エラヘさん(平和活動家・平和学研究者)

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エラへさんは、2013年に実施された第80回クルーズに国際学生として乗船されました。今回はそのご縁でお話しいただきました。

エラへさんは、今回の抗議運動がこれまでになく、保守的な街も含めて全国に広がっている理由のひとつとして、イラン社会に根深く残る女性への差別と、ヒジャブの着用が政治化されてきた経緯を挙げました。

「イランでは社会でも家庭内でも女性の扱いが低く、あらゆる場面で男性が意思決定を行うのが当然とされています。法的にも男性と平等ではありません。また、ヒジャブの着用をめぐっては、イスラム革命(1979年)の直後から当時の最高指導者であるホメイニ氏が、義務化の話を持ち出しています。そのときは全国で抗議運動が起こり、義務化はされませんでしたが、その8年後に義務化されることになりました。

公の場でヒジャブをしていないと犯罪とみなされます。それを監視するために道徳警察が女性を注意したり逮捕しています。屈辱感を与え、他の人たちへの見せしめにするのです。会社でも監視され、SNSにもヒジャブを脱いだ姿を載せられません。ヒジャブをしていない女性は、嫌がらせを受けても仕方ないといった風潮もあります。

女性たちは、これまで様々な形で抵抗をしてきましたが、変わりませんでした。昨年9月にマフサさんが逮捕されて亡くなった事件は、これまで充満していた怒りに火をつけました。だからこれまで公の場にまったく出てこなかったような女性たちが、大勢デモに参加しているのです」。

「ヒジャブの争いは宗教問題ではない」

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エラへさんはまた、ヒジャブの着用をめぐる争いが宗教の問題ととらえられることがあるが、それは誤解であると語りました。

「ヒジャブの問題は、宗教の問題ではなく政治の問題です。今回のデモには、強い信仰心のある宗教者も多数参加しています。私たちは、何を着るかを政治家に決められるのではなく、自分で決める社会を求めています。

問題はヒジャブではなく、選択をする権利が与えられるかどうかです。多くの人がそれを理解しているからこそ、ヒジャブを着けたい女性と着けたくない女性の間の対立が起こらないのです」。

こうしたイラン国内の混乱を、各国政府や海外の様々な勢力が利用しようという動きもあります。また、イランに対するより厳しい経済制裁や、場合によっては武力を使ってでも止めるべきという声も出ています。

しかしエラへさんは、「イランの人たちはそうしたことを望んではいません。政府の弾圧は厳しいのですが、おだやかな解決を望んでいます」と語りました。そして、「今回の抗議運動の主体を担っているのはあくまでイランの人々であり、自分たち自身の選択で、変化を起こそうとしているのです」と訴えました。

「石油だけでなく、イランの人々に関心を」

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エラへさんのメッセージを聞いた高橋和夫さんは、このような感想を述べました。

「欧米のメディアが発信する情報では、イランを経済的にいじめたり、戦争を仕掛けることが、あたかもイランの人たちを助けるかのような論調が増えています。その流れは危険だなと思っていました。今日エラへさんのお話を聞けて、イランの人たちがそんな過激なことを望んでいないことがよくわかってよかったと思います。

また、女性の社会進出という意味では日本もだいぶ遅れています。イランの女性を支援することも大事ですが、日本ももっと真剣に取り組まれないといけないのではないかと思います。

最後に、人口8000万以上いるイランという重要な国の将来に興味を持ち続けてほしいと思っています。石油だけに関心を持つのではなくて一つでも多くのメディアに触れてほしいと思います」。

女性への抑圧は世界共通の課題

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スタッフの畠山澄子
司会を務めたピースボートの畠山澄子は、このように締めくくりました。

「私たちには何ができますか?という質問をいただいていますが、エラへさんの話を伺っていると、正しい情報を得ることやイランの人たちをサポートすることももちろん重要だけれども、自分たちの身近な国や地域の女性の地位向上に真剣に取り組んでいくことが大事なんだと改めて感じました。それが回り回ってイランの女性たちともつながっていくのではないか、というメッセージを受け取りました」。

今回このような形でイランにいるエラヘさんと直接つながり話を聞くことは、女性に対する差別や暴力、抑圧をどのようになくしていくのか、また女性の地位や権利の問題、ジェンダー平等について何ができるかを具体的に考える機会となりました。

ピースボートでは今後もイランで抗議運動を通して声をあげる女性たちとつながっていきます。また、これをイランだけの問題と捉えず、同じような問題に取り組む世界のたくさんの人たちとアクションを続けていきます。

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