支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)

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支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)ベネズエラのエル・システマの子どもたちに楽器を渡す水口明子
世界各地に支援物資を届けるUPA国際協力プロジェクト。国と国の利害関係に左右されない、人と人とのつながりをつくることを目的に、1984年に設立されました。これまで、鉛筆やサッカーボール、ミシンといった日常的に使うものから、車いすやカーブミラー、救急車といったインフラになるものまで、様々な支援物資を、56の国と地域にある420カ所以上の施設に届けてきました。

UPAの担当スタッフである水口明子に、このプロジェクトの意義とその魅力について、2回に分けて語ってもらいました。前編は、UPAの活動に関わったきっかけや、彼女がもっとも印象に残っているベネズエラでの支援についてお伝えします。

日本の人々の想いをのせて世界へ届ける

支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)第87回ピースボートでの支援先の1つ。インドの養護施設に文房具とサッカーボールを届けた(2015年)
※UPAは「United Peoples Alliance」の略。国連(United Nations)を直訳すると「連合した国々」となるのに対して、UPAは「人々の連合」となります。人と人がつながる、顔の見える支援を行なっています。

編集部:元々、水口さんがUPAに関わるきっかけはなんだったんでしょうか?

水口:2015年出航の第87回ピースボートにスタッフとして初乗船することが決まり、たまたまUPAを担当することになりました。

スタッフになってはじめての乗船で、1つのプロジェクトを任されたことがうれしくて、とにかく何でも一生懸命がんばろうと思っていました。そして、やればやるほど奥深いUPA活動の魅力にはまってしまいました。

編集部:支援物資として送るものはどう決めて、具体的にどのように集めるのでしょうか?

水口:どこにどれだけの支援物資を送るかは、船が出航する数か月前に決まります。ピースボートが訪れる場所を視察して、受け入れをしてくださる現地の団体と話し合いをしながら、必要な物資とその数を決めます。

そして、日本国内で支援物資の募集をはじめます。ウェブに記載したり、各ピースボートセンターで呼びかけたりするのですが、第87回ピースボートのとき、私はピースボートセンターおおさかで勤務していたので、大阪を中心にボランティアスタッフといっしょに物資集めをしました。

文房具や楽器を集めていたため、みんなで学校関係に声をかけました。多くのボランティアスタッフがさまざまな所にアクセスした結果、いろんな方々にご協力いただくことができました。

なかでも、1人のボランティアスタッフの呼びかけで、ある小学校のPTAが支援物資集めに協力してくれることになり、段ボール10箱分のリコーダーや鍵盤ハーモニカを送ってくれました。

箱の中にはいくつか手紙もいっしょに入っていました。小学校低学年くらいのお子さんの字で「お年玉で買いました。ピースボートで使ってください」と書かれた手紙を見たときは、ジーンときました。

実は、送られてきた箱を開けてみるとこのようなお手紙や、支援物資を受け取る人へのメッセージが入っていることもよくあります。

その内容から、自分が大事に使っていた楽器を提供してくれたことや、新しい文房具をわざわざ買って送ってくれたことがわかって、うれしさとともに責任感も感じます。

ボランティアスタッフといっしょに大仕分け会

支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)ボールは穴が開いていないかを確認して、汚れているものは拭いてから梱包する
編集部:支援物資には多くの人々の想いも入っているんですね。1回のクルーズで、どれくらいの物資が集まるんでしょうか?

水口:クルーズによっても違うのですが、多い時で100箱くらいが集まります。出航前には全ての支援物資がピースボートセンターとうきょうに集まって、数を数えて持っていく国ごとに仕分けします。

この作業がかなり大変でもあり、楽しくもあります。海外に持っていくので、税関を通さないといけないんですが、そのために鉛筆1本、Tシャツ1枚から全ての物の数を数えてリストを作ります。ボランティアスタッフ20人くらいといっしょに3日間くらいかけてやります。

支援物資として着物を集めることもあります。着物に必要な小物類など私にはあまりなじみがない物などもあるんですが、年齢が上のボランティアスタッフたちがてきぱきと仕分けながらきれいに畳んでくれます。

かと思えば、黙々とサッカーボールの空気を抜いて箱に入れやすいようにしている人がいたり、ひたすらえんぴつを数えていたり...。多くのボランティアスタッフの協力で成り立っています。

社会問題の影響を受けるのは子どもたち

支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)フィリピンの小学校を訪れ文房具などを届けた(2015年)
編集部:UPAが集める支援物資はどのようなものが多いんでしょう?

水口:主に文房具、楽器、スポーツ用品です。UPAが支援物資を届ける先は、学校関係の施設や子どもの支援をする団体が多くなります。そのため、学校で必要となるものがほとんどです。

船旅で訪れる場所で、事前に支援物資の調査をすると、多くの学校が資金不足や物資不足で必要なものを手に入れられないことがわかります。

その国や地域自体が貧困などの問題を抱えているのが原因ですが、その結果、子どもたちが一番その影響を大きく受けているんだと思います。

編集部:水口さん自身にとって印象深い支援先はどこでしょうか?

水口:ベネズエラの音楽を使った教育システムである「エル・システマ」です。ベネズエラは政治的にも経済的にも不安定な状態が長年続いていて、貧困や蔓延する暴力を理由に犯罪に走る子どもたちが多くいます。

そんな社会の中にあっても、音楽を通して規律や思いやり、調和、協調性などを学び、希望を持って人生を歩めるようにという想いから、エル・システマが始まりました。

エル・システマの練習所には、子どもたちは誰でも無料で通うことができます。ここで音楽を学び、今では世界トップクラスの指揮者や演奏家として活躍している人も多くいます。

ピースボートとエル・システマの出会いは2006年です。それから継続してベネズエラを訪れ、音楽練習所の子どもたちと交流を続けています。そして子どもたちが使う楽器を届けています。

UPAの活動の意味を実感したベネズエラ

支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)楽器の練習をする子どもたち
編集部:第87回ピースボートでは、そのエル・システマに自分の手で支援物資を届けました。実際に行ってみて、どうでしたか?

水口:長年ピースボートが交流を続けてきたところでもあるし、UPAに関わるのであればエル・システマには自分の手で物資を届けて、自分の目で現場を確認したいと思っていました。

実は、はじめに話したリコーダーや鍵盤ハーモニカも、ここに届けました。また、ティンパニやギター、鉄琴、木琴などの大型の楽器もご支援いただきました。大型の楽器は、支援物資用の倉庫には入りきらず、船内の違う場所に置かなければなりませんでした。

支援してくださった方に託された大切な楽器なので、破損や紛失など万が一のことが起こらないように、気が気ではなくて…。日本出航からベネズエラ到着までの2か月以上、3日に1回は楽器に異常ないかの確認をして過ごしていました。

ベネズエラに到着して、まずは20歳前後の、もうすぐプロになるような人たちの素晴らしい演奏を聴かせてもらいました。その後に音楽練習所へ行くと、数百人の子どもたちが大歓迎してくれました。

練習所は体育館のようなだだっ広いところです。支援物資を渡すと大喝采で喜んでくれて、本当に音楽が大好きで、心から音楽を楽しんでいるんだと思いました。

これまで、ピースボートが届けてきた楽器が大切に使われていることも確かめられました。そんな子どもたちの演奏には大きなパワーを感じました。

ベネズエラには2日間滞在して、1日目にエル・システマへ行き、2日目にはスラム街やそこにある職業支援学校を訪れて、ベネズエラの社会問題を考えるツアーに行きました。

そこで実感したのは、社会が不安定で、生きていくことそのものがすごく大変ということでした。ツアーに同行していたガイドさんからは、バスとレストランの間のわずかな距離でも十分気を付けるように言われたり、自由行動は絶対にしないようにとアナウンスがありました。

安心して歩くことができる場所が、本当に少なかったんです。ベネズエラの港に停泊した船から陸側をみると、山が見えるのですが、その山全体に家屋が建てられています。それはすべてスラム街です。

貧困層が多くて、物資も不足しています。食べていくためには犯罪をするしかないという状況が当たり前になってしまっていました。

子どもたちに生きる希望を与える手助けをしたい

支援物資がつくる人と人のつながり・水口明子とUPA国際協力プロジェクト(前編)エル・システマの子どもたち
編集部:そのような社会の中で、エル・システマのような教育プログラムは子どもたちの将来のために重要ですね。

水口:1日目に音楽練習所を訪れたときは、正直に言うと、そこまで貧困問題が深刻だとは感じませんでした。でも町の様子を知ることで、子どもたちが生きている環境の厳しさを実感しました。

だからこそ、小さいころから音楽を学んで、犯罪以外の生きる希望をつくり、将来の道を切り開くことができるエル・システマがこれからも必要です。

大きな成果を上げているエル・システマですが、十分な運営資金があるわけはなく、また物資が手に入りにくい環境もあって、自分たちで楽器をそろえることは非常に難しいです。

この活動が続いて、多くの子どもたちが音楽教育を受けられるように、交流を続けて支援物資を届けていきたいと思いました。
(後編につづく)


※後編では、UPAによる様々な国への支援やピースボートだからこそできる支援の形をお伝えします。

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