特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩み

プロジェクト:紛争予防(GPPAC)
特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩みメリ・ジョイス
ピースボートの数あるプロジェクトの中でも、国連や世界中のパートナー団体と共同で実施しているのが、武力紛争を予防するための国際的な市民社会ネットワークであるGPPAC (ジーパック /武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)です。今回の記事では、プロジェクトの発足以来、東北アジア地域事務局のコーディネーターとして関わってきたスタッフのメリ・ジョイスの視点から、プロジェクトについて、そして平和への思いなどを伝えます。
※なお、メリ・ジョイスは2020年9月に韓国政府統一部より「朝鮮半島平和親善大使」に任命されました。

GPPACは他のネットワークとどう違うのか?

特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩みニューヨークの国連本部で、ピースボートのメンバーが太鼓を演奏(2005年)
Q:GPPAC(=Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict)設立の背景には何があったのでしょうか?

メリ:2002年、当時の国連事務総長だったコフィ・アナン氏が、紛争予防における市民社会の役割が大切だと主張し、NGO国際会議の開催を呼びかけました。それに応えたオランダのNGO(欧州紛争予防センター)が中心となり、全世界の市民団体がネットワークに参加する大きな運動に発展していきます。

Q:2005年には、国連で大々的なイベントを開催してピースボートも参加しています

メリ:2005年の7月にニューヨークの国連本部でGPPACとして国際会議を行いました。それは、国連総会の会議場で市民社会が主催した、初めての国際会議にもなりました。そのときピースボートは地球一周の船旅の最中で、タイミングを合わせてニューヨークに寄港しています。

会議の内容づくりに携わったのはもちろんですが、オープニングでは小倉祇園太鼓のパフォーマンスを披露し、夜は洋上でフェスティバルを開催するなど、盛り上げ役としても活躍しました。私自身が関わったのはその翌年(2006年)からなので、残念ながらその現場にはいることはできませんでしたが。 

Q:GPPACは他の国際的なNGOのネットワークとはどう違うのでしょうか?

メリ:平和構築や紛争予防の活動をしている国際NGOやネットワークは他にもあります。でもほとんどの組織は本部が欧米にあり、各地域の事務局で本部が決めたプロジェクトを展開しています。

現地の人々や団体はそこに参加する形になります。GPPACも、国際事務局はオランダのハーグにありますが、そこが全世界の活動をまとめているわけではありません。

GPPACの特徴は、世界を15の地域に分け、それぞれの地域の団体が中心となってプロジェクトを進めていることです。地域により、課題や市民社会のあり方はまったく違うので、地域の団体が主導して、地域ごとのネットワークをつくることを重視しています。

その中でピースボートは準備段階から関わり、ひとつの国のNGOという立場ではなく、地域全体の事務局を担当しています。ピースボートの場合は、東北アジア地域になり、私自身はその調整役を担ってきました。

紛争予防に市民社会が関わるべき理由

特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩みオンラインで開催されたGPPAC東北アジア会議の様子(2020年4月)
Q:そもそも、紛争予防とは何を指すのでしょうか?

メリ:「何を予防するか」という話ですが、GPPACとしては必ずしも「紛争(conflict)」そのものが悪いという立場ではありません。日本語で「紛争」というと戦争や内戦のイメージで捉えられます。でも英語の「conflict」は、個人間や家族同士、コミュニティの中など、小さいレベルのもめ事も含まれます。

地域間やコミュニティ間の中で、異なる立場、違う意見を持つ人がいるのは当たり前のことです。でもそれが暴力的になっていくと問題なので、それを予防しようというものです。そのためGPPACは、「武力紛争予防」という用語を使っています。

Q:紛争予防というと、国連のような大きな組織にしかできないのではと考えてしまいます。市民社会にはどのようなことができるのでしょうか?

メリ:国家レベルの武力紛争を予防するためには、遡ってコミュニティレベルで起きている分断や構造的な課題を問い直すことから始める必要があります。GPPACでは、その努力を重ねることが、最終的に国レベルの武力紛争予防につながると考えています。

ネットワーク団体で行なっている活動の具体例を紹介します。90年代に激しい武力紛争が続いた旧ユーゴスラビアの地域では、歴史が示すように、民族間の緊張が暴力につながることがあります。教育は、予防措置の重要な部分を占めています。旧ユーゴスラビアのような予防が脆弱な状況では、教育システムが民族ごとに分断されていることが今もよくあります。

そのため、この地域のGPPACメンバーは、学校、コミュニティグループ、若者、そして教育省などと協力して「平和のための教育」を実施しています。これにより、民族間の溝を埋め、地域社会での分離を防ぐことができます。

また、子どもたちが対話や平和の価値を理解し、紛争を建設的に解決できるようにすることで、多様性を尊重することの重要性が強調され、子どもたちが「他者」の概念を理解できるようになり、長期的な紛争予防につながります。

また、旧ユーゴスラビアのような実際に紛争が起きた地域だけでなく、いま全世界的に起きている異なる民族・宗教集団への差別や暴力、ヘイトスピーチなどは、すべて紛争予防の対象です。

対象範囲は実に幅広く、だからこそ、ひとつの町や地域コミュニティ、あるいは家族の中で平和を作ることが本当に重要になってきます。そのために、ひとりひとりの市民や地域コミュニティにできることはたくさんあります。

モンゴルで対話の場を作る

特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩みモンゴル・ウランバートルで開催される会議(2019年)
Q:ピースボートが事務局を務める東北アジアでは、どのような取り組みをしているのでしょうか?

メリ:これまで、東北アジア地域に属する100以上の団体が一緒に行動計画をつくり、幅広い問題に取り組んできました。例えば共通の教科書づくりなどの歴史認識の問題や、米軍基地問題などです。

中でもこの数年、もっとも力を入れてきたテーマが、朝鮮半島の平和構築です。朝鮮半島をめぐる課題は、地域のすべての国に大きな影響をもたらします。にもかかわらず、その地域のすべての国の人たちが集まって話し合う場が、政府間も民間もまったくありません。

以前は、政府間で六者協議(米国、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本)の場が設けられていましたが、いまはそれも停止しています。政府レベルの話し合いが行われないのであれば、その役割の一端を市民社会が担う必要があります。そのため、少なくとも毎年一回、南北コリア双方を含めた市民社会の対話の場を作っています。

Q:会議はモンゴルで行われていると聞きましたが、なぜモンゴルなのでしょう?

メリ:2015年の最初の会議とその後の多くの会をモンゴルの首都ウランバートルで行っているため、「ウランバートル・プロセス」と名付けています。モンゴルで行なう理由は、南北コリア、中国、米国いずれとも良好な関係にあり、中立に近い立場なので、どの国からも参加しやすいからです。

また、モンゴルは1カ国で国際社会から非核地帯として認められ、核軍縮にも力を入れているため、平和会議には最適な場所と言えます。

このプロセスは2015年から正式に始まり、毎年、六者協議の国々から市民社会が集まり、核問題を含めた東北アジアが抱える様々な問題を話し合っています。

政権が変わっても南北コリアの市民社会の代表が変わらず参加し続けている会議は、GPPACくらいしかありません。対話の窓口を持ち続けるということは極めて大切なことです。

国際政治の動きと市民社会の役割

特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩みモンゴル外務省の中で開催された「ウランバートル対話」
Q:2018年に米国のトランプ大統領が突然、北朝鮮の金正恩総書記と会談しました。このときGPPACは連携して声明をあげています。このように国際政治が動く時に、市民社会がネットワークする意味とは何でしょうか?

メリ:3つあると思います。ひとつは、GPPACに参加している団体の多くは、比較的小さな組織です。そうした団体は、単独では国際社会に対して声を届けることができません。でもGPPACを通すことで、一つの団体が訴えても届かない国連のような場所に、伝えることができるようになります。

2つ目は、GPPACではネットワークを通じて、複数の国で多数の団体が一斉に声を上げています。例え規模の大きな組織であっても、一つの団体が声を上げるだけであれば、「あそこの意見は偏っている」などと軽視されてしまうかもしれません。

しかし韓国や中国、そして米国のNGOも入っているとなると、受け取る側の捉え方、接し方も変化してきます。国際情勢が動くとき、すぐに一緒に動ける土台を作っておくことは、GPPACの重要な役割です。

最後の3点目ですが、政府とは異なる考えがあると伝えることです。特に東北アジア地域では、政府同士が良い関係ではありません。そしてマスメディアは、基本的には相手国の立場を国家レベルでしか報道しません。

そんな中で、政府の公式見解以外の一般市民がどう考えているかを共有し、情報交換し続けることは大切です。同じ国の中でも多様な考えがあると知ってもらうことができますから。

GPPACと歩んだ15年

特集:メリ・ジョイスが語るGPPACプロジェクト・紛争予防の歩み韓国政府統一部から「朝鮮半島平和親善大使」に任命された式典でメリのメッセージが流れる(2002年)
Q:メリさんはGPPACの担当になって、15年になります。オーストラリア国籍のメリさんが、日本の団体であるピースボートのスタッフとしてGPPACの東北アジアの調整役を続けていることにはどのような意義があると考えていますか?

メリ:個人的には、私が日本出身者、あるいは日本国籍ではないことで、第三者的な意味合いもあるのではないかと考えています。例えば、先ほどの六者協議の市民版という位置付けを考えた時に、ピースボートは国際NGOではあるけれど、対外的には日本に拠点を持ち、日本人がやっているNGOと見られがちです。

特に東北アジア情勢は、市民同士の関係性にも、現在の国同士の政治的な関係性や、過去の歴史認識の問題が複雑に絡んできますから。

もしこの会議の事務局を日本国籍の人だけがやっていたら、そのことが各国の参加しやすさなどに影響する可能性があります。

でも私のような、日本国籍ではない「中立的」な立場の人だと、さまざまな国の人々が対等に意見が言いやすい、という面はあるのではないでしょうか。ちょうど、話し合いの場がモンゴルで開かれているのと似ているのかもしれませんね。

Q:最後になりますが、2020年9月、メリさんはGPPACのコーディネーターとして、韓国政府統一部から「朝鮮半島平和親善大使」に任命されました。朝鮮半島をめぐる紛争の問題についてどのように関わっていきたいと考えていますか?

メリ:朝鮮半島をめぐる問題は、当事者である南北コリアだけでなく、国際社会が深く関わってつくられました。そのため終結させる責任は、国際社会にもあります。この問題に限ったことではありませんが、紛争を予防するには、異なる他者と対話して信頼関係を築く必要があります。

そのためには、政府同士だけでなく、市民社会の参加が欠かせません。GPPACが持つ国際的なプラットフォームを活かして、コリアの人々の声や取り組みをもっと国際社会にも訴えていきたいと思います。

第二次世界大戦直後から始まったこの対立は、とても長期的な問題なので、解決をめざすには長期的に関わっていく姿勢が求められます。私自身も、もっと良い成果が出るまでともに歩んでいきたいという思いです。

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