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【interview】難民を受け入れることが真の「積極的平和主義」ー国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(2)

【interview】難民を受け入れることが真の「積極的平和主義」ー国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(2)
洋上で講演する高橋和夫さん
シリア難民問題につて、高橋和夫さんに聞くシリーズの第二回です。今回は、積極的に受け入れているドイツの課題やシリア情勢、「イスラム国」の今、そして日本がこれからやるべきことについてお話しいただいています。
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洋上で講演する高橋和夫さん
シリア難民問題につて、高橋和夫さんに聞くシリーズの第二回です。今回は、積極的に受け入れているドイツの課題やシリア情勢、「イスラム国」の今、そして日本がこれからやるべきことについてお話しいただいています。

受け入れ国が抱える課題

【interview】難民を受け入れることが真の「積極的平和主義」ー国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(2)
ギリシアの団体とともに難民支援を訴える(第88回ピースボート)
Q:前回までのお話では、ドイツは人道面だけでなく、少子化対策や労働力不足を補うという意味からも積極的に難民を受け入れているということでした。そうは言っても、この人数が一度に来ているので対応も大変だと思うのですが。

高橋:今回は歴史上ないほど大量の難民が一度に押し寄せているので、対応はまったく追いついていません。国民の心理的な問題もあるし、予算措置や制度面をどうするか、子どもの教育をどうするかといった課題はこれから出てきます。

ドイツは自治体で受け入れる難民の数を割り当てています。ドイツの村などでは、難民が到着したその日から普通の暮らしをできるよう、村人たちがコミュニケーションをとってサポートしている状況もあります。

しかし村によってはすでに村人よりも難民の方が多いような所もあるので、対応しきれません。

本当の問題はこれからです。ドイツで受け入れてくれるということになれば、ドイツ行きを希望する人は今後も増え続けるでしょうから。根本的な解決は、シリアの混乱が治まらないとどうしようもありません。

シリアの混乱をどうおさめるのか?

Q:シリアの混乱がおさまる様子はありませんが、どのようにするべきだとお考えですか?

高橋:シリアでは、大きく分けてアサド政権、反政府勢力、そして「イスラム国」の3者が対立しています。5年間続くシリア内戦で、わかったことは2つあります。

ひとつは、アサド政権は倒れないということ。もうひとつは、しかし、そのアサド政権にはシリア全土をもう一度制圧する力はないということです。もちろん簡単ではありませんが、ひとまず停戦して連邦国家にするとか、シリアを分割して安定化させるしかないでしょう。

ただいずれにしても「イスラム国」がどう動くか、というのが見えないのでやっかいです。アメリカにしてもロシアにしても、この内戦に関わっている国は全部「イスラム国」を敵と見なしていますから、そうした国々も含めてイスラム国を追いつめながら、アサド政権とイスラム国以外の反政府勢力との停戦を実現させることが大切です。

「イスラム国」はいま

Q:「イスラム国」にはどのような人たちが参加し、その勢いはいつまで続くのでしょうか?

高橋:欧米からやってきた戦闘員が目立ちますが、実際に中心になっているのは、イラクのサダム・フセイン体制下で活動していた官僚や軍人たちです。イラク戦争によって失業したそのような人々が大きな役割を果たしています。

またイデオロギーはアルカイダ系の流れをくむイスラム過激派組織が担っています。サダム・フセイン体制はイスラム教と仲が悪かったので結びつく事はありませんでしたが、その体制が崩壊して、「イスラムの衣を着たサダム・フセイン体制」と言えるような組織をつくりました。

そのような面から言えば、「イスラム国」の誕生は、イラク戦争後の混乱とシリア内戦が引き起こしたといっていいかもしれません。

「イスラム国」の資金源は、人質の身代金や石油収入、それから「税金」という名目で住民から巻き上げているお金があります。他にも、過激な思想を持つ富裕層からの寄付や、遺跡からの発掘した美術品などを闇で売りさばくといったことをして稼いでいます。

欧米は資金源を止めようとしていますが、こうした多様な資金源があるため、簡単にはいきません。一時の勢いは失ってはいますが、勢力を保っていて、しばらくは崩壊することはないでしょう。

日本がやるべきことは2つ

【interview】難民を受け入れることが真の「積極的平和主義」ー国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(2)
ヨルダンにあるシリア難民キャンプに支援物資を届ける(第83回ピースボート)
Q:そのような状況で、日本にできる事何でしょうか?

高橋:2つあります。一つは、難民を支援している周辺国を支える事。そして二つ目は日本に難民を受け入れることです。

NGOによる支援や、国家としてトルコやヨルダンなど周辺国への資金援助はそれなりにやっています。でも人数が多いので難民キャンプの対応はまったく足りていません。

紛争は5年も続いていて、難民にとっては子どもの教育をどうするかが最大の心配事になってきています。5年と言うと、生まれたばかりの子どもでも、そろそろ就学年齢になる頃です。難民キャンプにも教育が行き届くようにするにはどうしたらいいのか、大きな課題です。

そして原則として、日本もそれなりの分担をすることが求められています。

難民が日本に来たいかどうかは別の問題ですが、日本に来たいと思った時には、受け入れる体制を作るべきだと思います。今は「シリアは遠いから」というような感じですが、では次に、もし朝鮮半島で何か起こり難民が出たときに、そういう言い訳は使えません。

「積極的平和主義」というのは、外に打って出る事だと思われていますが、こういうことに真剣に取り組むことこそ真の国際貢献になるのではないでしょうか?

違う背景の人を受け入れることで、社会が豊かになる

【interview】難民を受け入れることが真の「積極的平和主義」ー国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(2)
ヨルダンにあるシリア難民のリハビリテーションセンターで支援物資を届ける(第83回ピースボート)
難民を受け入れる事は確かに負担になります。でも、長期的に見れば難民だった人たちは勉強するし、税金も払うし、一生懸命働きます。社会を活性化する存在になり得るのです。

アメリカを見ると、キッシンジャー国務長官(ドイツ系)やオルブライト国務長官(チェコ系)といった政治家は、難民出身です。また、アメリカではベトナム難民がすごく働いて、社会で成功している。イギリスではウガンダ出身の難民が社会で成功しています。

難民という意味では日本は受け入れてきませんでしたが、移民は日本社会に根付いています。朝鮮半島からの移民は、ビジネスや芸能、スポーツの世界でなくてはならない存在になっています。

あるいは横浜から中華街がなくなったら、魅力の一つが消えてしまうくらい大きな存在です。中国や韓国の人が多いと、一目では気づかないのですが、すでに日本社会は移民がいなければ成り立たない社会になっているのです。

「アラブ」や「イスラム」となると意識してしまうかもしれませんが、違う背景の人たちを受け入れるということは、社会が豊かになると考えた方がいいでしょう。難民をやっかいな人たちだと扱うのではなく、長い目で見れば自分たちにメリットがあると認識して、意識を変えていく必要があるのです。

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