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緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻——平和への道を考える」報告

緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻——平和への道を考える」報告
2月24日に、ロシアがウクライナ全土に対して軍事侵攻を開始、民間人を犠牲にした激しい攻撃は、3月11日現在も続けられています。ピースボートは明治学院大学国際平和研究所(PRIME)と共催で、3月3日に緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻ー平和への道を考える」を実施。現在起きている危機の状況について整理しました。また、ロシアの行為が国際法に照らしてどう問題かを明らかにし、私たちにできることを議論しました。イベント当日は、オンラインで650名以上の方に参加いただきました。ここでは、登壇者の発言の一部を紹介します。なお、シンポジウムの動画はページ下部にあるリンクからご覧になることができます。
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2月24日に、ロシアがウクライナ全土に対して軍事侵攻を開始、民間人を犠牲にした激しい攻撃は、3月11日現在も続けられています。ピースボートは明治学院大学国際平和研究所(PRIME)と共催で、3月3日に緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻ー平和への道を考える」を実施。現在起きている危機の状況について整理しました。また、ロシアの行為が国際法に照らしてどう問題かを明らかにし、私たちにできることを議論しました。イベント当日は、オンラインで650名以上の方に参加いただきました。ここでは、登壇者の発言の一部を紹介します。なお、シンポジウムの動画はページ下部にあるリンクからご覧になることができます。

キューバ危機を上回る核戦争の脅威:川崎哲(ICAN国際運営委員、ピースボート)

緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻——平和への道を考える」報告
川崎哲
ICAN国際運営委員で、ピースボートの川崎哲は、今回の問題について「人道上の危機と国際関係の危機」、「ロシア対ウクライナ、東対西」「核の脅威」「東アジアへの影響」「国際秩序と市民の役割」という5つの視点からコメントをしました。ここでは、「核の脅威」についての話を取り上げます。

ロシアのプーチン大統領が、核兵器を戦闘準備体制に置いたことが報じられています。西側の対応次第では、核兵器を撃つよという脅しをかけているのです。現在の私の基本的な認識としては、世界はいま1962年に起きたキューバ危機と同じか、それ以上の深刻な核戦争の危機にあると考えています。

2019年、プリンストン大学の研究で「もしロシアとNATOが戦争をしたら」という想定で「プランA」というシミュレーション動画を発表しました。それによると、まずは欧州の戦争でロシアが最初に1発警告発射をする。

それに対してNATOが軍事的対応をすれば、数時間以内で数百発の核兵器が発射され、世界中で9000万人以上が死傷するとしました。事態がエスカレートすればそうなる可能性もあります。

そこまで行かなくても、原発の危機があります。すでにチェルノブイリ原発がロシア軍に占拠されています。ウクライナは国内に15基の原発を抱えています。これほどの原発大国で全面戦争が起きるのは初めてではないかとされています。

原発が直接攻撃されなかったとしても、戦乱の中で大停電が起きたらどうなるか、運転要員が逃げたらどうなるかわからない、大変に危険な状態です。そのように、さまざまな脅威があります。

軍事侵攻は明白な国際法違反:阿部浩己(明治学院大学国際学部教授、PRIME所員)

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阿部浩己教授
国際人権法の専門家である阿部浩己さんは、ロシアのプーチン大統領が今回の軍事侵攻の理由を説明した内容について取り上げ、この武力行使が国際法上認められるのかを分析しました。その一部を紹介します。

プーチン大統領は、演説で武力行使をした理由について「自衛権を行使するため」と言いました。今回の軍事侵攻が、国際法に則ったものだと主張しているのです。理由は、大きく分けて3つあります。ひとつは「NATOの東方拡大」がロシアにとって脅威であるというもの。2点目は、ウクライナ東部のロシア系住民が多く住む2つの共和国から「援助要請」があったこと。そして3つ目が、ウクライナの政権がロシア系住民を集団殺害しており、「ジェノサイドから保護するため」です。

しかしいずれの理由も、国際法の観点では今回の武力行使を正当化できません。まず、ロシアが脅威を受けているから「個別的自衛権」を発動するという理由ですが、ロシアが直接武力攻撃を受けていませんから、該当しない。何らかの脅威があったとしても、事前に刈り取るという「予防的自衛」は、国際法上は認められません。同じことを2003年にイラク戦争を始めたアメリカのブッシュ大統領が主張しましたが、これももちろん国際法違反です。

次に、「援助要請」を受けて「集団的自衛権」を行使したという理由ですが、ウクライナ東部の2つの「共和国」は、援助を要請しうる国際法上の国家ではありません。また、ウクライナから両共和国に対する武力攻撃があったのかという点にも疑問が残ります。さらに、現段階でロシアが行っているウクライナ全土への軍事攻撃は、集団的自衛権の名の下に許容される必要性と均衡性の原則を逸脱しています。これら観点からも認められることはありません。

3つ目は、自衛権とは異なり、「人道的介入」というべきものかもしれませんが、まずはジェノサイドにあたる事実がどの程度あったのか、ということがはっきりしません。そしてなにより、人道的介入を理由に武力を行使するのは現行国際法上認められていません。

今回の行為は、国際法によって禁じられている侵略行為に当たるものです。

プーチン大統領の演説では、かつて米国がイラクに対して武力行使を行った際に、国際秩序を揺るがしたと主張しています。その指摘は正しい。だからといって、今回ロシアがウクライナを侵略する行為が許されるわけではありません。米国が破ったからといって、ロシアも破っていいということにはならないのです。今回のロシアによる武力行使は、国連憲章で定められた武力不行使原則を、欧米諸国が度々破ってきたことに対する挑戦でもあります。それがブーメランのように、突きつけられているという点もあるのではないでしょうか。

ウクライナからのメッセージ:メリ・ジョイス(ピースボート、GPPAC【武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ】東北アジアコーディネーター)

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ウクライナからルーマニアに逃れる人々(写真提供:PATRIR)
メリ・ジョイスからは、GPPAC(武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)の東欧地域との取り組みとして、ウクライナやロシアのNGOの人々が、中立な第三国や船上などで地道な紛争予防のための対話を続けてきた事例が紹介されました。

今回、武力侵攻が起きてしまいましたが、紛争を平和的に解決していこうと努力する人々や、戦争に参加したくないという人々が、いまも両国にいることは知ってほしいと思います。なお、GPPACの東欧事務局は、現在戦禍に包まれているウクライナのキエフに置かれています。

また、ウクライナからのメッセージとして、ウクライナ出身のGPPACのメンバー、カテリーナ・グルニュクさんのコメントが紹介されました。カテリーナさんは、キエフ出身ですが現在はポーランドに住んでいます。

「私はいまワルシャワにいますが、家族や友人のほとんどはまだウクライナにいます。そして残念ながら、誰ひとり無事とは言えません。

キエフにいる両親と通話している間にも、爆撃機の音が聞こえて、これが最後の会話にならなければいいのだけれどと感じています。そして、私自身も安心はできません。ポーランド軍は、完全な戦闘体制を準備しています」

「皆さんからのウクライナの人々のためのどんな小さな支援であっても、ありがたく思います。世界のあらゆる場所で反戦運動に参加してください。あらゆる人脈と非暴力的手段を用いて、地元政府や国際機関が、ウクライナへの侵略を防止するために、ロシアに強い姿勢をとるよう働きかけてください。

ロシアとベラルーシを孤立させて、兵器の供給をやめるよう働きかけてください。ロシアにいる私の友人も、国際的な働きかけが、ロシアの指導者に影響を与える効果的な手段の一つだと言っています」

最後に、ピースボート災害支援センター(PBV)が立ち上げたウクライナ緊急支援募金について紹介されました。これは、ウクライナの隣国であるルーマニアのNGO「ルーマニア平和研究所」(PATRIR)を通じて、ルーマニアに逃れてきた難民への人道支援を目的とした募金になります。

なお、PATRIRはGPPACのメンバー団体としても活動してきました。詳しくは、ページ下部のリンクからアクセスしてください。

まとめとして

緊急シンポジウム「ロシアのウクライナ侵攻——平和への道を考える」報告
今回のロシアによる軍事侵攻は、国際法の秩序を壊し、重大な違反を犯していると結論づけられます。では私たちには何ができるのでしょうか。

阿部さんや川崎哲は、まずは経済制裁など非軍事的な強制力を行使すること、そして、世界中でロシアのしていることが間違いだと声を上げることが大切だと言います。

もちろん「武力で侵攻している国に、そんなことを言っても意味がない」という声もあります。しかし、3月2日に国連で行われたロシアの軍事侵攻への非難決議では、141カ国という圧倒的多数の国が賛同し採択されました。

川崎は言います。「どちらの国も正当性を主張する中で、国際社会が『侵攻は悪』という規範を立てることには意味があります。すぐに成果が出るものではありませんが、長期的には必ずロシアに対する抑止力になるのです」。

いま戦禍や弾圧の中で、声を上げたくても上げられない人たちがいます。声を上げることが可能な人たちは、あらゆる形で声を上げることが求められています。ピースボートも、平和を望む世界中の人々と、共に声を上げ続けていきます。




シンポジウムの詳しい内容は以下の動画リンクからご覧になることができます。

メディア掲載情報

なお、このイベントの様子は、NHKや神奈川新聞などのメディアで紹介されました。

3月3日NHK NEWSWEB
「世界中で戦争反対の声上げることが大きな抑制力」緊急シンポ

3月4日神奈川新聞
「明学大平和研とNGOがシンポ 対ロシア結束訴え」

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