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第21回エッセイ大賞の結果発表

第21回エッセイ大賞の結果発表
第21回「旅と平和」エッセイ大賞では、50を超える作品の中から、以下の作品が入賞いたしました。審査委員による選評および、作品全文を掲載いたします。
受賞者の皆さん、おめでとうございます。

大賞 「農学という武器で創る、私の平和」/田中翠さん
大賞 「生きる。~あの日の決意からの旅~」/田代明衣さん
次点 若林仁菜さん

*大賞作および次点作は、ページ下部よりダウンロードしてお読みいただけます。
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第21回「旅と平和」エッセイ大賞では、50を超える作品の中から、以下の作品が入賞いたしました。審査委員による選評および、作品全文を掲載いたします。
受賞者の皆さん、おめでとうございます。

大賞 「農学という武器で創る、私の平和」/田中翠さん
大賞 「生きる。~あの日の決意からの旅~」/田代明衣さん
次点 若林仁菜さん

*大賞作および次点作は、ページ下部よりダウンロードしてお読みいただけます。

第21回エッセイ大賞選評

鎌田慧(ルポライター)

ピースボートの「旅と平和エッセイ大賞」は2007年から始められた。来年、20年目を迎える。国境を越え、海を渡って、人と人とが結びつく。「平和の船」ピースボートが設立されてから24年目に、この賞が設立された。それから受賞して船に招待された人たちが、その後、どんな活動をされているのだろうか。ピースボート初期、今は亡き筑紫哲也さんや灰谷健次郎さんなどと乗船したのが、わたしの最初の乗船だったが、その頃、まだ企業の海外展開は少なく、海外留学も少なかった。若ものたちが気安く国境を超えていける時代ではなかった。

今回、このエッセイ大賞の最終選考に残った人たちに海外で活躍している人も多く、力作揃い。選考委員泣かせだ。その中でもとりわけユニークなのは、田中翠さんの作品で、ミツバチの微細な世界の探求から、その世界を破壊する「水増し」の不正糾弾になる。そのクローズアップとロングショットの往還がごく自然である。日本の現実への凝視と海外への視点。その往復に期待したい。

田代明衣さんは高校生の時、ウクライナに移住していた短い体験を反芻しながら、その後の視点を形成する。高校生平和大使、日米学生の平和運動など、国際的な行動の中で、相手のことをどれほど深く理解できるか、海外ばかりか、小さな地域でも、その訓練を重ねる。平和は他者への柔らか視線と理解とする、その体験が説得力を持っている。

若林仁菜さんは、米国ミネソタ州に留学して、ウイスコンシン州やアラスカで出会った人たちとの対話を続け、例えば、日本企業の開発の犠牲になった先住民に対する「構造的暴力」の共犯性を感じとる。中国、「満州」「台湾」、東南アジア、あるいは沖縄、六ヶ所村などにたいする、社会の侵略と暴力性が、痛覚されなくなった現在、「共犯性」の意識は重要だ。大学院卒業の後、小さな教育機関を設立したい、との夢はぜひ実現してほしい。

なお、第16回ピースボート平和賞を受賞して、ピースボートに乗船した井戸静星さんは、ベルギーの自由大学に留学し、院を卒業して民俗学の研究者となった。ブータンに滞在している、とのメールをいただいた。その研究が期待される嬉しい知らせである。

伊藤千尋(ジャーナリスト)

今回の作品は例年に比べ驚くほどの力作ぞろいだ。これまでの応募作品の中で最高のレベルである。それだけに選考のハードルも高くなる。それでも船に乗って世界一周を経験してほしいと願う応募者が4人もいた。かつてないことだ。
田代さんはウクライナの体験から高校生で平和活動を始め、アメリカやドイツで知り合った世界の人々との対話を通してコミュニケーション力を鍛えられた。それを国内の町づくりという身近な場面に活かしているのが堅実だ。考えがしっかりしているし、得た知識を別の世界の実践に活かすという理想的な展開をしている。きちんとした目標も持っている。こういう若者にこそピースボートに乗って世界を見てほしい。

冨岡さんはカンボジアの旅で支援のあるべき姿について考え、心理学を学びデンマークでの学校ボランティアも体験した。経験したことを考えて意識化し、さらに学びを通じて自分を高めようとする過程を繰り返し、その成果を社会に返す行動は素晴らしい。ぜひ船に乗ってさらに別の世界を知ってほしい。米ミネソタでICEの暴力を目の当たりにした若林さんはアーミッシュやアメリカ先住民の村にまで訪れ、それを「個人的な悲劇に留めず、共同の歩みへと繋げていく責任がある」と考えて実践した。なかなかできることではない。日本でも沖縄の若者やアイヌのルーツを持つ学生たちを繋ぐフィールドスクールを運営した。その行動力は見上げたものだ。構造的な暴力に目を向けるピース
ボートは活躍の場となるだろう。

迷ったのは田中さんだ。養蜂の世界を突き詰めようと世界を巡った。蜂蜜から見える世界経済の闇を知り、それをただそうとする。23歳にしてすでに人生の方向を見定めたことに舌を巻く。はっきり言って応募者の中で突出するほどしっかりした考えを持ち行動力もある。ただ、港をめぐるピースボートに乗って養蜂をめざす人生の役に立つのだろうか、縁遠いのではないか、という疑問がわく。実行力のある人生のいちばん大切な時期だ。寄り道などせず自分の信じる道をひたすら突き詰めるのが本人にとっても一番いいのではないか。そこは田中さん自身の判断にゆだねたい。船に乗ってさらに世界が広がるなら、もちろん乗ってほしい。しかし、それが無駄足と判断するならさっさと本来の道に戻ってほしい。

二宮さんは国境の壁を越えたごく自然な付き合い方を瞬く間に身に着けてしまった。そのスタイルをこれからも維持すれば、未来は先に開ける。林さんの、知らない世界に気軽に飛び込む姿勢は素晴らしい。しかもジャンルを問わず、興味を持てば直ちに突入するストレートな生き方は、見ていて気持ちがいい。そこまで自分でできるのだからピースボートに乗るのはむしろ無駄足だと思う。自分の道をそのまま歩めばいい。ほかに引きこもりから世界に目覚めた堤さん、ホームレスとの体験をつづった水谷さんや、モンゴルへの旅から日々の平和を考察した明翫さん、香港への旅で平和を考えた村瀬さんは、この体験を活かして、さらに考え具体的な行動を展開してほしい。

曺美樹/チョウミス(新聞翻訳者、ラジオパーソナリティ)

今回の応募作品は、自身の体験を通したそれぞれの平和へのまなざし方が非常に印象的でした。
平和といえばこう、という既存のイメージにとらわれず、直接・間接的な暴力の構造、不平等、境界線や壁といった平和を阻害するものに目を向けると同時に、自分の立場性との矛盾にも真摯に向き合い、葛藤しながら自分なりの答を探すエッセイがとくに目に留まりました。

なかでも田中翠さんの「農学という武器で創る、私の平和」は、圧倒的な説得力に引き込まれました。研究室にとどまらず、養蜂という一つの線をたどって世界各地の現場の人々と出会っていったこと。そこから、第一線で生産する人々の生存が脅かされる資本の暴力性を知っていった過程がリアリティをもって語られています。自身の研究を活かした評価指標やフェアトレード事業をつくるという発想と行動力にも感服しました。その実現に向けた長い道のりにおいて、ピースボートでの出会いが糧となるだろうし、また田中さんの行動がピースボートにフィードバックされるだろうと期待します。学びが平和を創る「武器」ではなく「道具」となるよう願ってやみません。

また、若林仁菜さんエッセイでは、ミネソタ、ウィスコンシン、アラスカでの独特な体験を綴る中で、一貫して自身の「立場性」から目をそらさずに見つめる視線が印象的でした。暴力の構造を、自分から一歩離れた外部のこととして切り離さずに、この構造において自分や自分の所属する共同体(国、家族)はどんな立場なのかを常に考えています。それは、弱者や被支配者の立場から歴史を学び直していくことにもつながると思います。いま自分が平和を享受しているという認識にもたれるのではなく、見えなくされていた苦痛や被害に向き合って「連帯」していくという考えは、ピースボートの根幹につながるものです。共に学ぶことでどんな「力」を持ち、拡大していけるのかを、ぜひ地球一周の船旅を通して見つけてほしいと思います。

井筒陽子((株)ジャパングレイス代表取締役社長)

今回の公募には、私たちの予想を遥かに上回る数、そして質の高い作品が集まりました。何より驚かされたのは、年代を問わず、単なる観光の枠を超えた深い「グローバルな経験値」に基づいたエッセイが極めて多かったことです。異国の地で自らの当たり前を揺さぶられ、それを言語化しようとする真摯な姿勢は、ピースボートクルーズが目指す「歴史の証人」そのものです。

厳正なる選考の結果、今回の大賞は田代明衣さんと田中翠さんの2名に決定いたしました。

田代明衣さん:ウクライナ移住と侵攻という過酷な実体験を起点に 、自らの足で国連へ署名を届けるなど 、圧倒的な行動力と発信力を示しました。自分の主観だけで平和を語る危うさに気づき、相手の背景を理解しようと努める姿勢は 、まさに平和の体現です。この船旅を通じてさらに多くの出会いを得て、世界へ大きく羽ばたいてほしいと願っています。

田中翠さん:養蜂の研究という「専門知」を確かな手立てに 、市場に潜むハニーロンダリングという「見えない構造的暴力」に立ち向かう明確な意志を持っています 。すでに自らの持ち場で課題解決に向けた道筋が見えていますが、世界一周の旅でさらに視野を広げ、取り組んでいる課題をより多くの人に伝播させてほしいと期待しています。

次点となった若林仁菜さんの作品も、自らの特権や共犯性を直視し 、構造的暴力を鋭く分析する知性が際立っており 、大賞と比べても遜色のない素晴らしい内容でした。2枠を選ぶ議論は非常に困難を極め、まさに「甲乙つけがたい」選考となりました。

私たちは「旅が平和をつくり、平和が旅を可能にする」と信じています。今回選に漏れた皆様も、この経験を次なる一歩へと繋げてくださることを信じています。この旅で得た問いを抱え続け、ぜひ次回、より深化した体験と共に再び挑戦していただくことを心より願っております。

第21回「旅と平和」エッセイ大賞 入賞作品

大賞作と次点作は、こちらのPDFファイル(A4横・横書き)でお読みいただけます。

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