【Interview】地球大学コーディネーターに聞く「世界をめぐる学び方」
まもなく、第92回ピースボートの地球大学プログラムが発表されます。地球を舞台に世界の現場で学ぶ地球大学では、どんな人がどんな学びの場をつくっているのでしょうか?今回は、2015年夏に行われた第88回ピースボートの地球大学でコーディネーターをつとめた寺地亜美(てらちあみ・27歳)と、サブコーディネーターの菅野雅悦(すがのまさえつ・32歳)に地球大学という場が持つ可能性について聞きました。
- プロジェクト: 地球大学
- クルーズ: 第88回 地球一周の船旅
船
2016.2.8
2019.3.26
まもなく、第92回ピースボートの地球大学プログラムが発表されます。地球を舞台に世界の現場で学ぶ地球大学では、どんな人がどんな学びの場をつくっているのでしょうか?今回は、2015年夏に行われた第88回ピースボートの地球大学でコーディネーターをつとめた寺地亜美(てらちあみ・27歳)と、サブコーディネーターの菅野雅悦(すがのまさえつ・32歳)に地球大学という場が持つ可能性について聞きました。
肌で知った貧富の格差
編集部:亜美さんも雅悦くんも、かつて地球大学の学生としてピースボートに参加しました。まずは2人のこれまでについて教えてください。
寺地亜美:船に乗ったのは、高校を卒業してフリーターをしていた頃です。南半球をめぐる第60回ピースボート(2008年出航)で、地球大学に参加しました。そしてその体験が、私の人生を大きく変えました。
特に印象的だったのは、南アフリカ共和国の「ソウェト」という旧黒人居住区のひとつ(※)を訪れたときのことです。単に国が貧しいのではなく、ものすごい富裕層がいる傍で、トタン屋根みたいなところで暮らす人たちがいる。頭でわかったつもりになっていた「貧富の格差」という話が、現場に行くと肌で感じられました。
一方で、じゃあそこに暮らしている人たちが、毎日暗く落ち込んでいるかと言うと、まるで違う。家族やコミュニティは、すごく強い絆で結ばれて助け合っている。もちろん根底には社会問題があるのですが、経済的に貧しい人たち自身が、それに立ち向かっているパワーを感じました。
日本と比べると、南アフリカのソウェトの人たちの方が親密な人間関係を築いていました。世界はなんて不平等なんだろう?という疑問だけでなく、貧しさとか豊かさについて、いろいろな角度から突きつけられましたね。
地球大学では、現地に行くだけでなく、船で「あれは何だったのか」といったことをみんなで議論したり、人前で発表していきます。そういう場があったから、さらに深く学ぶことができたように思います。
編集部:帰国してから語学留学をされましたが、ピースボートの影響はありましたか?
亜美:国際関係のことをもっと学びたいと考えたので、ピースボートを下りた後、地元の札幌で英語の勉強をしながらバイトで資金を貯めました。そして21歳のときにアメリカの大学に留学しました。その留学中に南米のチリに短期留学して、スペイン語の勉強をすることになります。スペイン語を学ぼうと思うようになったのも、ピースボートに乗って世界一周したことで、「こんなにもスペイン語を話す地域が多いんだ」とか「英語だけじゃないんだ」と感じたことがあったからです。
編集部:当時は国際協力に携わりたいという思いだったのでしょうか?
亜美:国際協力というとちょっと上から目線ですよね。私は「かわいそうな人たちを助けてあげよう」ということではなくて、南アフリカで自分が体験したような、世界で不平等がつくられる仕組みを変えようとしているところで働きたい、と思うようになりました。
留学から帰ると、ピースボートがスペイン語の通訳ボランティアを募集していたので応募し、2度目の地球一周をしました。そのクルーズが終わってから、専従スタッフとして働いています。そして第88回クルーズに、初めて地球大学コーディネーターとして乗船することになったんです。かつては自分が地球大学の学生だったので、ちょっとドキドキしました。
※黒人居住区(タウンシップ)
南アフリカのアパルトヘイト政権が、黒人を強制的に住まわせるていた地域。ソウェトは首都のヨハネスブルクにある最大の黒人居住区で、人口は100万人規模にも及ぶ。アパルトヘイト政策が終わっても、貧しい黒人の多くはそこにとどまっている。
寺地亜美:船に乗ったのは、高校を卒業してフリーターをしていた頃です。南半球をめぐる第60回ピースボート(2008年出航)で、地球大学に参加しました。そしてその体験が、私の人生を大きく変えました。
特に印象的だったのは、南アフリカ共和国の「ソウェト」という旧黒人居住区のひとつ(※)を訪れたときのことです。単に国が貧しいのではなく、ものすごい富裕層がいる傍で、トタン屋根みたいなところで暮らす人たちがいる。頭でわかったつもりになっていた「貧富の格差」という話が、現場に行くと肌で感じられました。
一方で、じゃあそこに暮らしている人たちが、毎日暗く落ち込んでいるかと言うと、まるで違う。家族やコミュニティは、すごく強い絆で結ばれて助け合っている。もちろん根底には社会問題があるのですが、経済的に貧しい人たち自身が、それに立ち向かっているパワーを感じました。
日本と比べると、南アフリカのソウェトの人たちの方が親密な人間関係を築いていました。世界はなんて不平等なんだろう?という疑問だけでなく、貧しさとか豊かさについて、いろいろな角度から突きつけられましたね。
地球大学では、現地に行くだけでなく、船で「あれは何だったのか」といったことをみんなで議論したり、人前で発表していきます。そういう場があったから、さらに深く学ぶことができたように思います。
編集部:帰国してから語学留学をされましたが、ピースボートの影響はありましたか?
亜美:国際関係のことをもっと学びたいと考えたので、ピースボートを下りた後、地元の札幌で英語の勉強をしながらバイトで資金を貯めました。そして21歳のときにアメリカの大学に留学しました。その留学中に南米のチリに短期留学して、スペイン語の勉強をすることになります。スペイン語を学ぼうと思うようになったのも、ピースボートに乗って世界一周したことで、「こんなにもスペイン語を話す地域が多いんだ」とか「英語だけじゃないんだ」と感じたことがあったからです。
編集部:当時は国際協力に携わりたいという思いだったのでしょうか?
亜美:国際協力というとちょっと上から目線ですよね。私は「かわいそうな人たちを助けてあげよう」ということではなくて、南アフリカで自分が体験したような、世界で不平等がつくられる仕組みを変えようとしているところで働きたい、と思うようになりました。
留学から帰ると、ピースボートがスペイン語の通訳ボランティアを募集していたので応募し、2度目の地球一周をしました。そのクルーズが終わってから、専従スタッフとして働いています。そして第88回クルーズに、初めて地球大学コーディネーターとして乗船することになったんです。かつては自分が地球大学の学生だったので、ちょっとドキドキしました。
※黒人居住区(タウンシップ)
南アフリカのアパルトヘイト政権が、黒人を強制的に住まわせるていた地域。ソウェトは首都のヨハネスブルクにある最大の黒人居住区で、人口は100万人規模にも及ぶ。アパルトヘイト政策が終わっても、貧しい黒人の多くはそこにとどまっている。
コインの裏側の世界
編集部:雅悦くんはどうですか?
菅野雅悦:ぼくは、第69回ピースボート(2010年)に地球大学生として乗船しました。イラク戦争が起こったときは高校生で、「こんな戦争はおかしい」と感じていたのですが、ぼくの周囲の人たちはあまり関心がなく、そんな社会に対していら立ちがありました。唯一、ぼくの好きなラッパーなどの人たちが、「世の中はおかしい」と言っていたことに共感したことを覚えています。
そんなモヤモヤを抱えながら20代になったのですが、ピースボートのことを知って驚きました。難民キャンプとか、スラムとか、本やラップの世界でしか知らなかった所に行くことができると思ったからです。世界の現場を訪れて実感してみたいと思い、地球大学に申し込みました。
編集部:地球大学に参加して何を感じましたか?
雅悦:日本にいるときは、ネットなどで自由に情報をキャッチできているつもりでいました。でも世界に出てみると、全く知らないことばかり。日本で言われていることが、世界の常識ではないことを気づかされたんです。現地で人々と直接触れ合うことって本当に大事なんだなと思いました。
もちろんそういう発見みたいなものは、海外に行くだけでもあると思います。でも観光旅行だけでは「世界の現実」を見たことにはなりません。ぼくは、地球大学のゲストの方から言われた「世界をコインに見立てると、地球大学はコインの表側だけではなく、裏側も見つめるということだ」という言葉が印象に残っています。ぼくにとって地球大学というのは、世界の現実を見つめ、いろいろなことを考えるきっかけとなる場所になりました。
菅野雅悦:ぼくは、第69回ピースボート(2010年)に地球大学生として乗船しました。イラク戦争が起こったときは高校生で、「こんな戦争はおかしい」と感じていたのですが、ぼくの周囲の人たちはあまり関心がなく、そんな社会に対していら立ちがありました。唯一、ぼくの好きなラッパーなどの人たちが、「世の中はおかしい」と言っていたことに共感したことを覚えています。
そんなモヤモヤを抱えながら20代になったのですが、ピースボートのことを知って驚きました。難民キャンプとか、スラムとか、本やラップの世界でしか知らなかった所に行くことができると思ったからです。世界の現場を訪れて実感してみたいと思い、地球大学に申し込みました。
編集部:地球大学に参加して何を感じましたか?
雅悦:日本にいるときは、ネットなどで自由に情報をキャッチできているつもりでいました。でも世界に出てみると、全く知らないことばかり。日本で言われていることが、世界の常識ではないことを気づかされたんです。現地で人々と直接触れ合うことって本当に大事なんだなと思いました。
もちろんそういう発見みたいなものは、海外に行くだけでもあると思います。でも観光旅行だけでは「世界の現実」を見たことにはなりません。ぼくは、地球大学のゲストの方から言われた「世界をコインに見立てると、地球大学はコインの表側だけではなく、裏側も見つめるということだ」という言葉が印象に残っています。ぼくにとって地球大学というのは、世界の現実を見つめ、いろいろなことを考えるきっかけとなる場所になりました。
「自分が社会の主人公」という自覚
編集部:前回(第88回ピースボート)の地球大学では、どういうところが印象に残っていますか?
亜美:2015年夏の地球大学では、貧困をなくし持続可能な社会をつくることがテーマでした。地球大学生にとって衝撃的だったのは、日本を出航して5日後に訪れたフィリピンのスラムなどを訪れる4泊5日のツアーです。
劣悪な衛生環境で、さらに水害も多い。本当にこんなところに暮らしているの?というような場所で、良くも悪くも、「貧困」を目で見てわかりやすく体験できる現場でした。でも単に貧しい現場に行ったというわけではありません。
現地の人たちと交流する時間が豊富にあり、地球大学生がいろいろ考える機会になりました。それは私が南アフリカに行ったときに感じたように、スラムに生きる人たちが必ずしも日本人がイメージする「貧しくてかわいそうで、か弱い存在」ではないという事実です。
フィリピンの受け入れ団体の人たちが実践していたのは、「住民主体の地域づくり」でした。確かに暮らしは大変だけど、その状況を改善するために自分たち自身で政府と交渉するなど、現実の状況を変えていっていました。そこに人間の力強さやたくましさ、そして他人を思いやるやさしさを感じました。
雅悦:ぼくもそこは日本とは違うなと感じました。日本では「一般人が行動を起こしたって、どうせ何も変わらない」と思い込んでいる人が多い。でもフィリピンでは、「自分たちが社会の主人公だ」という誇りを持っていると知り、驚きました。ペルーの働く子どもたちの団体を訪れたときも同じことを感じましたが、「みんなぼくと同じ時代を生きている人たちのことなんだ」と思うと、「遠い国の人たちのこと」ではなくなっていきました。
亜美:児童労働というと一般的にネガティブにとらえられがちですが、ペルーの働く子どもたちは、自分たちで労働組合をつくるなど、12歳の子どもが「自分は子どもであるだけではなく、労働者であり市民である」という意識を持っていました。子どもが「社会を作る一人の構成員だ」という自覚を持ち、労働環境の改善のために行政に働きかけたり、他の子どもたちに、子どもの権利を伝えるワークショップをしていたのです。これはすごいことだと思いました。
編集部:フィリピンやペルーの状況を知った地球大学生は「でも自分の生活とはつながらないよね」とはなりませんでしたか?
亜美:貧困地域を訪れ、人々から話を聞くことで、知識としても、実感としてもイメージはできたと思います。日本でも貧困問題は広がっていますが、フィリピンのような直接見えやすい形で現れてこない面があるので、もちろん簡単にはつながりません。ただ、フィリピンやペルーから戻った船内のゼミでは、彼らの暮らしが貧しく、そこから抜け出せない背景には、グローバリゼーションなどの世界の経済構造の問題があることを学びました。
日本も含めて先進国が、フィリピンやペルーといった途上国と言われる国々から資源と労働力を奪い取っているという構造があります。例えば安いものをたくさん作って、先進国で消費しているという流れです。今では、日本人の消費行動のほとんどが、商品を介して途上国とつながっています。専門家の方とともにそういう議論をする中で、徐々に日本に暮らす私たちとのつながりも見えてきました。
亜美:2015年夏の地球大学では、貧困をなくし持続可能な社会をつくることがテーマでした。地球大学生にとって衝撃的だったのは、日本を出航して5日後に訪れたフィリピンのスラムなどを訪れる4泊5日のツアーです。
劣悪な衛生環境で、さらに水害も多い。本当にこんなところに暮らしているの?というような場所で、良くも悪くも、「貧困」を目で見てわかりやすく体験できる現場でした。でも単に貧しい現場に行ったというわけではありません。
現地の人たちと交流する時間が豊富にあり、地球大学生がいろいろ考える機会になりました。それは私が南アフリカに行ったときに感じたように、スラムに生きる人たちが必ずしも日本人がイメージする「貧しくてかわいそうで、か弱い存在」ではないという事実です。
フィリピンの受け入れ団体の人たちが実践していたのは、「住民主体の地域づくり」でした。確かに暮らしは大変だけど、その状況を改善するために自分たち自身で政府と交渉するなど、現実の状況を変えていっていました。そこに人間の力強さやたくましさ、そして他人を思いやるやさしさを感じました。
雅悦:ぼくもそこは日本とは違うなと感じました。日本では「一般人が行動を起こしたって、どうせ何も変わらない」と思い込んでいる人が多い。でもフィリピンでは、「自分たちが社会の主人公だ」という誇りを持っていると知り、驚きました。ペルーの働く子どもたちの団体を訪れたときも同じことを感じましたが、「みんなぼくと同じ時代を生きている人たちのことなんだ」と思うと、「遠い国の人たちのこと」ではなくなっていきました。
亜美:児童労働というと一般的にネガティブにとらえられがちですが、ペルーの働く子どもたちは、自分たちで労働組合をつくるなど、12歳の子どもが「自分は子どもであるだけではなく、労働者であり市民である」という意識を持っていました。子どもが「社会を作る一人の構成員だ」という自覚を持ち、労働環境の改善のために行政に働きかけたり、他の子どもたちに、子どもの権利を伝えるワークショップをしていたのです。これはすごいことだと思いました。
編集部:フィリピンやペルーの状況を知った地球大学生は「でも自分の生活とはつながらないよね」とはなりませんでしたか?
亜美:貧困地域を訪れ、人々から話を聞くことで、知識としても、実感としてもイメージはできたと思います。日本でも貧困問題は広がっていますが、フィリピンのような直接見えやすい形で現れてこない面があるので、もちろん簡単にはつながりません。ただ、フィリピンやペルーから戻った船内のゼミでは、彼らの暮らしが貧しく、そこから抜け出せない背景には、グローバリゼーションなどの世界の経済構造の問題があることを学びました。
日本も含めて先進国が、フィリピンやペルーといった途上国と言われる国々から資源と労働力を奪い取っているという構造があります。例えば安いものをたくさん作って、先進国で消費しているという流れです。今では、日本人の消費行動のほとんどが、商品を介して途上国とつながっています。専門家の方とともにそういう議論をする中で、徐々に日本に暮らす私たちとのつながりも見えてきました。
船は自分や他人と向き合える場所
編集部:コーディネーターとしてはどんなところに苦労しましたか?
亜美:地球大学生にとっては「みんなと議論して進める」というゼミのスタイルには、慣れるまでちょっと時間がかかったと思います。知識や自信もないから、知識がある人に萎縮しちゃうところもありました。日本の学校ではひとつの正解があって、受け身でそれを覚えるというスタイルでやってきています。でも世界の現実、例えば貧困には簡単な解決策なんてありません。自分たちで意見を出し合い、考えていく必要があるのです。
雅悦:最初の頃はみんな、正解のない問題に自分の意見が言えなくて、ゼミではみんなが沈黙するような時もありました。だからぼくが積極的に質問するようにしていたんです。でも現場に行き、興味が深まってくるにつれて、初めの頃は「特にありません」と言っていた人の話が止まらなくなりました。自分の意見を持ち、それを人に伝えることの喜びを感じたんでしょうね。途中からは、ぼくが発言すると「エナリー(雅悦のニックネーム)は黙っててよ!」って言われちゃったり(笑)。
亜美:私自身も今回は初めてのコーディネーターだったので、どうしたら自分が学んだようなプロセスを経験してもらえるかということに頭を悩ませました。私の意見や答えを与えるのではなくて、どうしたらみんなに考えてもらって、自分たちなりの答えを出していってもらえるか、試行錯誤の連続でしたね。
でも、ツアーに行って体験を元に学んだことで、それぞれが自分の問題として考え、話し合いをできるようになりました。地球大学が求める事は「正解を答える」ことではなくて、学生同士がお互いから学び合うことなんだと、理解してくれるようになったように思います。
報告会のたびに意見がぶつかったり、おとなしかった子がリーダーシップを発揮したりと、毎日ドラマチックなことがありました。そういう経験をしながらみんなが成長していく姿には、本当に感動しました。私も含めてみんなで悩みながら、すごく学んで、笑って、楽しめたと思います。
編集部:「自分で考えて意見を言う」とか、「他の人とのコミュニケーションがうまくいくようになる」ということは、世界の現実を学ぶという事以上に、今の日本社会で生きる上で大切なことのように思います。
亜美:そうですね。今の日本はみんながSNSに依存する事で、人と人との関係が希薄になっているように思います。でもフィリピンやペルーの人たちとの関わりでは、そうはいかない。良くも悪くも、どんどん自分との距離を縮めてくるわけです。それがちょっと近すぎて大変になるときもあるんですが(笑)、一方で「この人たちはなんて暖かいんだろう」という思いも抱くようになる。
寄港地だけでなく、船内での地球大学生同士の共同生活も、知らず知らずに人との距離を縮めてくれる特殊な環境です。船と寄港地での体験を通して、頭で「世界の問題」だと思っていた事もいつの間にか「自分の友だちに起きている話」だと思うようになってきます。私自身もそうでした。そういう経験を重ねたことで、他人や世界の問題に対して興味が薄かった人が、自分自身を含めて他人と向き合えるようになっていきました。
亜美:地球大学生にとっては「みんなと議論して進める」というゼミのスタイルには、慣れるまでちょっと時間がかかったと思います。知識や自信もないから、知識がある人に萎縮しちゃうところもありました。日本の学校ではひとつの正解があって、受け身でそれを覚えるというスタイルでやってきています。でも世界の現実、例えば貧困には簡単な解決策なんてありません。自分たちで意見を出し合い、考えていく必要があるのです。
雅悦:最初の頃はみんな、正解のない問題に自分の意見が言えなくて、ゼミではみんなが沈黙するような時もありました。だからぼくが積極的に質問するようにしていたんです。でも現場に行き、興味が深まってくるにつれて、初めの頃は「特にありません」と言っていた人の話が止まらなくなりました。自分の意見を持ち、それを人に伝えることの喜びを感じたんでしょうね。途中からは、ぼくが発言すると「エナリー(雅悦のニックネーム)は黙っててよ!」って言われちゃったり(笑)。
亜美:私自身も今回は初めてのコーディネーターだったので、どうしたら自分が学んだようなプロセスを経験してもらえるかということに頭を悩ませました。私の意見や答えを与えるのではなくて、どうしたらみんなに考えてもらって、自分たちなりの答えを出していってもらえるか、試行錯誤の連続でしたね。
でも、ツアーに行って体験を元に学んだことで、それぞれが自分の問題として考え、話し合いをできるようになりました。地球大学が求める事は「正解を答える」ことではなくて、学生同士がお互いから学び合うことなんだと、理解してくれるようになったように思います。
報告会のたびに意見がぶつかったり、おとなしかった子がリーダーシップを発揮したりと、毎日ドラマチックなことがありました。そういう経験をしながらみんなが成長していく姿には、本当に感動しました。私も含めてみんなで悩みながら、すごく学んで、笑って、楽しめたと思います。
編集部:「自分で考えて意見を言う」とか、「他の人とのコミュニケーションがうまくいくようになる」ということは、世界の現実を学ぶという事以上に、今の日本社会で生きる上で大切なことのように思います。
亜美:そうですね。今の日本はみんながSNSに依存する事で、人と人との関係が希薄になっているように思います。でもフィリピンやペルーの人たちとの関わりでは、そうはいかない。良くも悪くも、どんどん自分との距離を縮めてくるわけです。それがちょっと近すぎて大変になるときもあるんですが(笑)、一方で「この人たちはなんて暖かいんだろう」という思いも抱くようになる。
寄港地だけでなく、船内での地球大学生同士の共同生活も、知らず知らずに人との距離を縮めてくれる特殊な環境です。船と寄港地での体験を通して、頭で「世界の問題」だと思っていた事もいつの間にか「自分の友だちに起きている話」だと思うようになってきます。私自身もそうでした。そういう経験を重ねたことで、他人や世界の問題に対して興味が薄かった人が、自分自身を含めて他人と向き合えるようになっていきました。
自分ごととして世界と向き合う
編集部:亜美さんは、第92回ピースボートの地球大学でもまたコーディネーターをされる予定ですね。2人から未来の地球大学生に向けてメッセージをお願いします。
雅悦:第88回ピースボートには、初めてスタッフとして乗船しました。ぼくは亜美ちゃんのサポートをする仕事として、自由にやらせてもらいました。たぶん地球大学生以上に、ぼく自身がたくさん学んだんじゃないかな?地球大学は、現場だけでなく船内での勉強もじっくりできるというのがいい。スタディーツアーだけなら他のNGOもやっていますが、地球一周をして、他の地域と比較しながら学ぶ体験は、他ではできません。
今は海外には簡単に行けるし、ネットで情報も手に入る。それでも世界の現場で生きる人たちと直接会って、じっくり話して、交流できる、ということはなかなかできません。ぼくにとっては、地球大学があるからこそ、ピースボートに乗る意味があるんじゃないかというほどの存在です。これから船に乗ろうかと考えている人は、絶対に参加して欲しいです。
亜美:私は高校時代に世界の問題を少し学んで、具体的にどうしていいかわからず、絶望的になったこともあります。でも地球大学で一緒に学び合える仲間ができた。そして世界中で真剣に向き合う人たちと出会った事で希望が見えました。
日本にいるだけなら見ないふりをすることができるかもしれませんが、実際に触れあうと、他人事ですませられなくなります。時間とお金をかけて現地に行く意味は、そういうところにあるんじゃないかな。自分ごととして世界に向き合うことができるようになる、それは世界を変える第一歩なのではないかと思います。
第92回ピースボート地球大学(2016年夏)のプログラムが決まるのははこれからですが、ツアーや船上でゼミをやることは変わりません。地球大学は、日本では経験できないようなことを毎日のようにできる、かけがえのない時間です。ぜひ私と一緒に船に乗って学びませんか?
雅悦:第88回ピースボートには、初めてスタッフとして乗船しました。ぼくは亜美ちゃんのサポートをする仕事として、自由にやらせてもらいました。たぶん地球大学生以上に、ぼく自身がたくさん学んだんじゃないかな?地球大学は、現場だけでなく船内での勉強もじっくりできるというのがいい。スタディーツアーだけなら他のNGOもやっていますが、地球一周をして、他の地域と比較しながら学ぶ体験は、他ではできません。
今は海外には簡単に行けるし、ネットで情報も手に入る。それでも世界の現場で生きる人たちと直接会って、じっくり話して、交流できる、ということはなかなかできません。ぼくにとっては、地球大学があるからこそ、ピースボートに乗る意味があるんじゃないかというほどの存在です。これから船に乗ろうかと考えている人は、絶対に参加して欲しいです。
亜美:私は高校時代に世界の問題を少し学んで、具体的にどうしていいかわからず、絶望的になったこともあります。でも地球大学で一緒に学び合える仲間ができた。そして世界中で真剣に向き合う人たちと出会った事で希望が見えました。
日本にいるだけなら見ないふりをすることができるかもしれませんが、実際に触れあうと、他人事ですませられなくなります。時間とお金をかけて現地に行く意味は、そういうところにあるんじゃないかな。自分ごととして世界に向き合うことができるようになる、それは世界を変える第一歩なのではないかと思います。
第92回ピースボート地球大学(2016年夏)のプログラムが決まるのははこれからですが、ツアーや船上でゼミをやることは変わりません。地球大学は、日本では経験できないようなことを毎日のようにできる、かけがえのない時間です。ぜひ私と一緒に船に乗って学びませんか?