原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています

プロジェクト:脱原発
原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています2019年5月、飯舘村
2011年3月11日に東日本を襲った地震と津波、そして福島の原発事故から10年を迎えます。ピースボートは国際NGOとしてこれまで被害の実相や脱原発への展望を世界に発信してきましたが、この機に「原発事故から10年」にあたる福島と日本の現状を海外向けにまとめ、英語で発信しました。「10年目のフクシマ―その概観」(Fukushima 10 Years On – An Overview)と題する文章をピースボートの川崎哲が執筆し、メリ・ジョイスが翻訳しました。英文は以下のリンクでご覧になれます。ここでは、日本語原文を2回に分けて紹介します。

10年目のフクシマ――その概観

 2011年3月11日に東日本で起きた大地震と津波、そしてそれらによってもたらされた東京電力福島第一原発の事故から、10年が経つ。本稿は、この未曾有の原子力災害の被害者が今おかれている状況、事故を起こした原発の廃炉への展望(の欠如)、そしてこの災害を機にした日本の脱原発の可能性について、概要を示すものである。(ピースボート・川崎哲 2021.3.7)

避難者の状況

原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています2019年5月、飯舘村
 2011年3月11日に起きた地震と津波によって1万6000人近くが亡くなり、2500人以上が行方不明となった。それに加えて、震災関連死として、避難生活に伴う体調不良などでこれまでに3700人以上が亡くなっている。その6割を超える約2300人が福島県の人々である。
 原発事故の被害者たちは、避難、残留、避難後の帰還など、さまざまな異なる道を歩むことを選択あるいは強いられた。避難者の多くは避難先を転々としており、生活基盤は破壊され、社会的つながりが絶たれ、コミュニティはバラバラにされた。こうした「ふるさと」の喪失(または剥奪)こそ福島の住民が受けた被害の顕著な特徴であり、この苦しみは今なお多くの人々の生活と心身に影響を与えている。
 今年1月時点で、政府が公式に発表している避難者の数は4万人強であり、この人々は東北地方はもとより東京や大阪を含む全国に点在している。避難者の数はかつて20万人を超えていたことに比べれば減ったけれども、これは「自主避難」の人々を統計から除外するようになった結果でもある。
 そもそも原発事故発生直後から、日本政府は年間での追加被ばく線量20mSvという、国際的基準からみても、またチェルノブイリにおける5mSvで移住という基準と比べても大幅に高い値をもとに避難区域を設定した。それゆえ、公式には避難指示の対象とならなかった地域からも、放射線の影響をおそれて「自主的に」避難する人々が多く出た。母子のみが避難し父親と祖父母が福島に残り、その結果家族が崩壊したという例も少なくない。
 こうした自主避難者に対する住宅支援は、全国的な市民運動が継続を求めてきたにもかかわらず、2017年3月で打ち切られた。これらの人々は今や、避難者として公式に把握されることなく、他の多くの一般の転居者と同様に、移住先の地域に溶け込んで生活している。そしてその多くが抱える生活上の諸問題は、いわば「通常の」貧困問題や社会問題と渾然一体となっている。昨年からのコロナ禍が経済格差や貧困を全国的に深刻化させているのは日本も例外ではない。
 政府は、特に汚染のひどかった「帰還困難区域」を除いて、すべての除染作業を2018年3月までに完了し、帰還が可能となったとしている。それでも、そもそもの基準が20mSvという高い数値であること自体が問題であるし、さらに、20mSv以下の汚染地域では年間1mSvをめざすとした除染目標は、ほとんど達成されていない。住宅および周辺は除染されたが広大な山林地帯は手つかずであり、除染作業については多くの手抜きや不正行為が報告され、公的に設置されたモニタリングポストでは線量の低下が示されるが住民らが実際に線量計を持って計測すると数多くのホットスポットが見つかった。これらのことはいずれも、生活環境への放射能汚染の深刻さを示している。
 それでも帰還が促されてきた背景には、政府が福島第一原発は「完全にアンダーコントロールだ」(安倍晋三首相(当時)、2013年のIOC総会で)とみえを切って招致した2020東京オリンピック・パラリンピックを「復興の象徴」として世界にアピールしたいという政治的思惑があった。実際、福島第一原発に隣接する双葉町では、住民がほとんど帰還しないなか、2020年3月の電車運行再開に合わせて駅のみがきれいに再建された。そして、駅前で聖火リレーが行われることが計画されていたのである。
 しかしコロナ禍により五輪は延期となった。現在のところ今年7月に実施するとされているが、日本の人々の圧倒的多数はその開催可能性や妥当性に対して懐疑的である。それよりも、パンデミックによる社会の停滞の影響を受けた多くの困窮者――その中には2011年3月の震災と原発事故の被害者はもちろん、その後続く異常気象により頻発する水害など多くの災害被災者も含まれる――を救済する措置に国の経済的および政治的資源が振り向けられるべきであると考えている。

廃炉への見通し立たず

原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています
 1号機から3号機の計3基の原子炉がメルトダウンした福島第一原発では、10年経った現在もなお廃炉への見通しは立っていない。使用済み燃料のプールからの取り出しは、建屋が大破した4号機からは2014年末に完了し、メルトダウンした3号機からは今年2月にようやく終了した。しかし1~2基からの搬出作業は手つかずの状態だ。2号機では、2017年2月に原子炉格納容器へのロボット投入に成功したが、1メートル作業した後にロボットは停止してしまった。2019年2月にロボットによって堆積物3~5センチ程度つまむことにようやく成功した。
 東電は、核燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しを2021年内に開始すると計画していたが、2020年12月、それを1年延期すると発表した。さらに今年1月には、2号機および3号機の原子炉格納容器の真上にあるシールドプラグ(「蓋」の部分)が、きわめて高い放射線――人が立ち入れば数時間で死に至るレベルの――で汚染されていることが分かった。作業の難航が予想される。
 こうした現状の中で、2050年頃までに廃炉を完了させるという東電の目標は、単なる決意表明であって、何ら現実的な裏付けはない。
 直近の大きな問題は、政府と東電が処理汚染水を海洋放出しようとしている問題である。事故発生直後より、地下水の敷地内への流入によって多い時期で1日300~500トン、凍土壁などの対策を行った現在でも1日150トン程度の汚染水が発生してきた。これを多核種除去設備(ALPS)を使って放射性物質の多くを除去したものが「処理済み汚染水」として現在、福島第一原発の敷地内1000基以上のタンクに120万立米以上貯蔵されている。
 政府は、これら処理汚染水を海洋放出する方針を昨年内に内部的に固めたと報じられているが、国内外からの反発を予想してか、決定を先延ばしにしている。一方、ALPSではトリチウムが除去されていないことや、海洋放出した場合に周辺の漁業は壊滅的な打撃を受けることなどから反対の声は強く、1月の世論調査では回答者の半数以上が反対している。また、周辺諸国の警戒心は強く、廃棄物の海洋放出を禁じたロンドン条約に抵触するとの指摘もあり、強行された場合には大きな国際問題になることが予想される。

被ばくの影響

原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています「3.11甲状腺がん子ども基金」の立ち上げ(2016年)
 福島第一原発では、廃炉に向けた作業に現在1日4000人以上が従事しているといわれる。1人の労働者が従事できる期間は被ばく上限により限られるから、仮に年に1万人が新規で従事するとすれば、これから30年で30万人の被ばく労働者が必要となる。
 福島第一原発の事故後の作業において、これまでに250件以上の労災が報告されており、うち放射線被ばくに起因すると認定されたがんや白血病が6件である。ほかに作業中の事故での死亡が3人、熱中症、過労死、過労による精神疾患も報告されている。
 施設外の一般住民の健康問題として議論されているのは、事故当時の子どもたちの甲状腺がんの問題である。福島県は、原発事故発生当時に18歳以下だった県民約38万人を対象とする甲状腺の調査をしており、これまで4回の検査で240人以上が甲状腺がんまたはがんの疑いと診断されている。福島県の委員会は、甲状腺がんの罹患統計などから通常の数十倍のオーダーで多いことを認めている。その原因は過剰診断であるとする医学者もいるが、放射線被ばくと関連があるとする論文も報告されている。甲状腺検査の縮小を求める動きもあるが、継続的な検査が必要だとの声は根強く、今後の体制が議論されている。
 こうしたなか2016年には、甲状腺がんの診断を受けた本人や家族をに民間の基金でサポートするNPOが発足し、活動を続けている。そこでは県の検査から漏れた甲状腺がん患者の存在が明らかになった。放射線被ばくの影響は時間が経ってから顕在する可能性もあり、長期的な取り組みと観察が必要である。

賠償と責任

原発事故から10年【上】――「フクシマの概観」を世界に発信しています
 事故発生の翌2012年7月、国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は「事故は自然災害ではなく明らかに人災」とする報告書を発表した。震災前に地震や津波に対する十分な安全対策が取られず、規制当局も原発の「安全神話」に加担して監視・監督機能が働いていなかったと指摘したのである。この癒着関係は、以来、原発産業、官僚、学者が一体となりそこにマスコミも加わった「原子力ムラ」として、批判されるところになった。
 これだけの被害が出ていながら、日本の司法は東京電力の経営陣に対して、いまだに刑事上の責任を負わせていない。2019年9月、事故をめぐり東電の旧経営陣3人が強制起訴された裁判で、東京地裁は無罪を言い渡した。「巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」としたのである。これに対して検事役の指定弁護士が控訴し、東京高裁で係争中である。
 一方、事故による避難者らが国と東電に損害賠償を求めた民事訴訟はこれまでに約30件あり、原告は総数1万数千人に上る。そのうち控訴審で高等裁判所の判断が出たのは3件あり、2件が国の責任を認め、1件はこれを否定した。(原子力損害賠償法では東電は過失の有無にかかわらず賠償責任を負う。そのためこれらの裁判では、国に予見可能性にともなう責任があったかが争点となった。)今後、最高裁判所が統一的な判断を下すことになるとみられる。
 経済産業省の2016年時点での見積もりでは、福島の事故処理費用は総額約22兆円――廃炉に8兆円、賠償に8兆円、除染に6兆円――となるという。しかし、いまだ未算入の費用が少なくなく、民間のシンクタンクの中には廃炉には汚染水処理も含め50兆円以上を要し事故処理総額は80兆円を超えるという試算もある。
 巨額の賠償金を支払う直接的な義務は東電が負いながらも、政府は2012年に政府機関による出資によって東電を事実上国有化した。これによって東電は破綻を免れた状態で今日まで続いているが、このことは責任の所在の曖昧化にもつながっている。事故から10年が経った今、東電は、新潟県にある柏崎刈羽原発を再稼働をめざしている。事故処理費用を確保するためにも原発の再稼働が必要だという議論さえ、東電側からは聞こえてくる。

【下】に続く

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