この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)

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この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)
「世界中の教育現場を見て、子どもの未来について熱い想いを持った人に、教育界で活躍してほしい!」。そんな情熱から、国際NGOピースボートと教育NPOコアプラスがタッグを組み、新たな試みを始めます。その名も「グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)」。この夏に横浜港を出港し、25寄港地をめぐる第92回「地球一周の船旅」洋上で、教育を志す人のための学びの場を開講します!

今回は、そのコーディネーターとして乗船する武田緑さんに話を伺いました。聞き手は、「ピースボート子どもの家」スタッフの小野寺愛です。

世界初!地球一周する船の上で「教育者の養成」

この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)教育NPO「コアプラス」代表であり、グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)に同行するコーディネーター、武田緑さん
小野寺:仲間とともに世界中で教育の現場を訪ね歩きながら、研修とフィードバックを重ねる・・・教育を志す人にとって、最高に充実した夏となりそうですね。武田さんが地球一周するピースボートの洋上でこのプログラムをはじめようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか。

武田:これまでの活動の中で、教育の現場で心が弱ってしんどくなってしまう仲間をたくさん見てきました。「教育をもっとよくしたい!」と理想を持って学校や塾や保育園で働きだした人たちは、現場に出ると現実の壁にぶつかります。自分も現場では苦しみました。当初の思いを維持できなくなる人も少なくない。それをなんとかしたかった。

小野寺:現実の壁というと?

武田:壁というのは、既存の教育の「当たり前」や、組織の中の「慣例」のようなものです。自分と子どもとの関係性だけでいろんなことを進められるわけではなくて、保護者、学校の同僚、学校や園などの方針、そのすべてを意識しながら子どもと関わるので。

私自身、現場にいた時、子ども同士が教え合う時間をつくっていたところ、「”普通の授業”をしてください」と指導を受けたことも。学級通信を1つ出すのにも学年主任や管理職の理解を得る必要があります。自分の思いだけでは動けないことが多いです。 

小野寺:40人も子どもがいる教室で、みんなが同じスピードで同じ内容を学ぶということ自体にそもそも無理がある。そう感じながらも、とにかく授業を進めていかないといけないし。

武田:はい。そんな中で、どうしても外れてしまう子を「コントロール」したくなったり…。子どもたちの自立した学びを応援したい!と思っていても、それを現場で具体的に実現するのは簡単ではない。そんな中で、辛くなって辞める先生が出てきたり、もとの思いを手放してしまう人も多いのです。

※武田緑さんが運営する「NPO法人コアプラス」とは
教育関係者に向けた、学び・つながり・エンパワメントの場づくりを行なっている非営利団体。教育をテーマに したセミナーやワークショップ、イベントの企画運営や、研修の請負など、よりよい教育の実現を目指して活動 しています。GTCでは、カリキュラム作成やプログラムの運営をピースボートと共に行っています。

船という学びの場

この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)ヒト多様性に触れる船内生活で、自分の軸を育む
武田: 私もそうですが、人とぶつかることって怖いですよね。ぶつかりたくないから、当たり障りなく過ごす。そうしていると「あれ?自分は何がしたかったんだっけ」と分からなくなってしまいます。

だから、自分とは意見が違う多様な人々の話を進んで聞き、それに対して「自分はこう思います」と言えることが大切です。また、ただ対立するのではなく、自分とは背景のまったく違う人ともチームになって動くことができる力、それがこれからの教育者には必要だと思っています。

自分の教育観を豊かにするためにも、かたちにするための力量を得るにも、ピースボート洋上はいい環境です。船内は多様性に富み、自由に学びをアレンジできる。これほど整った学びの場は、他にないと思います。

小野寺:SNSの普及に助けられて、同じ世代の似たような関心の人とパッとつながることができてしまう時代です。

だからこそ、ピースボートに乗船する多様な人の集まりは貴重ですよね。講座に出ても、運動会を企画しても、洋上の居酒屋でも、自分とはまったく違う人たちからいろんな挑戦をつきつけられる。

武田:本当にそう。思想的にも右から左までいろんな人がいて、年代による「あたりまえ」も全部違います。

GTCを実施する第92回「地球一周の船旅」では、洋上フリースクール「グローバルスクール」もあって、受講生のなかには不登校や引きこもりの経験者や、「学校が合わない、大嫌い!」という若者にも出会います。船の上を共にする1000人は、多様性に富んだ、地域社会にも似た環境を生み出します。

私自身は19歳でピースボートに乗船して地球一周をする中で、人生でいちばん濃い学びを得ました。あの環境でなら、自分の教育観をしっかりつくることができると思っています。

小野寺:自分の信念を貫くためには、これまでの教育を当たり前だと思っている人に対しても「語ることができる力」が大切ですね。

武田:はい、そして説得力を持つには「実践力」も大事です。いろんな人と良好なコミュニケーションを取れるとか、ファシリテーションができるとか、学校の先生だと授業を成立させられるとか。

「自主的にやるのが大事」と言いながら学級崩壊させていては、やっぱり認めてもらえない。でも、そういうことって、大学を出て自動的にできるものではありません。

大事にしたい思いを維持しながら、現場でやっていく力量を、3ヶ月間集中して学び、身につけることができる。自分で考えたことをアウトプットして、船内の多様な人からフィードバックを得て、磨きをかける。それを何度でも繰り返しできる環境が、船旅にはあります。

しかも、非日常の場だから失敗したっていくらでも取り返しがつく。安心してチャレンジができます。

19歳で地球一周して、得たもの

この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)19歳の時に地球一周した武田緑さん。(南アフリカにて)
小野寺:武田さん自身、10年前、19歳で地球一周したときに印象的だったのは、どんな部分でしょうか。

武田:南アフリカやブラジルでの体験が印象深いです。私は、大阪の被差別部落の出身です。私自身は、行政による特別対策があり、格差がずいぶん是正された後の世代ですが、昔はいわゆるスラムだったという場所で育ちました。

だから、南アフリカやブラジルでファヴェーラ(スラム)を訪れて衝撃を受けつつも「トタン屋根ってこういうのか。じいちゃんが言ってたのはこういう暮らしのことか」と。世界の裏側で自分のルーツをとらえ直す体験もありました。

ファヴェーラ(スラム)で活動をするNGOの方の言葉、今も覚えています。「ここで育つ子どもは、ギャングになる確率、麻薬に手を出す確率がすごく高い。それはここの子どもが凶暴だ、この子たちが悪い、ということではない。

子どもたちは、貧困と差別が生み出した問題の被害者だ」と。心から納得しました。私の地元でも、よりしんどい状況の子たちはそうなっていく。世界どこでも一緒だなと思いました。

小野寺:そんな体験が、武田さん自身が教育を志すきっかけになっていますか?

武田:確実に。船に乗る前は心理学を専攻してスクールカウンセラーを志していたのが、教育学専攻に切り替えました。子どもの「相談に乗る」ではなくて、子どもの「学び」に直接関わりたくなったからです。

困難な状況に置かれてしまいがちな子どもこそ、自分を肯定できるような学びや、「自分にはできることがある」と思える経験を重ねて欲しいと、強く思うようになりました。

ピースボートに乗れたらそれは素晴らしいけれど、それができなくても、日本で普通に学んで育つ中で自分を肯定できる力を身につけることができたら。そう思って、教育を志す仲間たちと国内外のオルタナティブスクールの視察をはじめたのが、いまのコアプラスの活動のはじまりです。

グローバルティーチャーズカレッジとは

この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)オランダのイエナプラン校視察時の様子
小野寺:「グローバル人材の育成」「アクティブラーニング(※)の導入」という流れに象徴されるように、文科省は"生きる力”を育てる教育を推進していく姿勢を打ち出していますね。

武田:時代は大きく変わっています。社会には答えのない問題が山積み。「今の小学生の65%は大人になった時に今は存在しない職業に就く」といわれます。

これから教育の世界に入っていく人たちは、時代の流れや国際的な状況を捉えながら、職場の人たちはもちろん、保護者や地域の人々など、異なる意見を持つ人たちとともに、目の前の子どもたちのために「教育に変えるためのアクション」を起こしていく必要があります。

小野寺:グローバル・ティーチャーズ・カレッジに参加したら、そのために必要な視点や力を得ることができるのでしょうか。プログラムの内容について、詳しく教えてください。

武田:まず、世界各国の教育を視察します。寄港地では、現地の学校や教育機関を訪れて取り組みを視察したり、その国の子どもたちを取り巻く社会環境や教育システムについて学びます。もちろん、船内での事前学習や、事後の振り返りなどもしっかりと行います。

PISA(国際学力到達度調査)でのトップ常連国であるフィンランドやシンガポール、子どもの幸福度世界一として有名になったオランダなどで教育現場を訪問する予定です。

その国の教育のいい部分や、具体的な取り組みを学ぶことはもちろんですが、他国と日本を比べることによって国のあり方や社会システム、文化そのものを相対化して眺め、日本の教育の現状についての理解を深めたいですね。

※アクティブ・ラーニング: 教員による一方向的な講義形式の教育ではなく、子どもの能動的な学修への参加を取り入れ た教授・学習法の総称。グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどは、有効なアクティブ・ラーニングの方法。

洋上で「アクティブ・ラーニング」を実践

この夏は、世界中の教育現場へ!~グローバルティーチャーズカレッジ・コーディネーター武田緑さんインタ ビュー(1)充実した船内プログラムで、自ら「アクティブ・ラーニング」を体感する
小野寺:寄港地での教育視察の様子、とくにシンガポールやオランダ、フィンランドの教育については後半で詳しく伺います。さて、船内ではどのように過ごすのでしょうか。

武田:洋上では、毎日「船内新聞」が発行されます。グローバル・ティーチャーズ・カレッジの受講生も、ゼミの時間の他は、毎日の新聞を見て、その日に参加したい企画を自分で選び、自由に過ごします。

ピースボートに乗船する多彩なゲストによるトークから、参加者手作りの企画まで、刺激は山ほどあります。テーマも多種多様です。自分の琴線に触れたところにすぐ飛びつき、とことん学ぶことができる環境はここにしかありません。

文科省が推進する「アクティブ・ラーニング」は、 自立的で双方向性のある学び。それを、まさにピースボート洋上で存分に体験できると、私は思っています。

小野寺:グローバルティーチャーズカレッジのゼミでは、どんなことをするのでしょうか。

武田:対話や議論、インタビュー調査、プレゼンテーションなど能動的なスタイルで学びを進めていきます。 受け身ではない、アクティブなチーム学習 です。その中で、クリティカルシンキングや、伝える力、整理・分析する力などを高めていきます。

また、寄港地での体験の振り返りや授業の中で、参加者が自分自身の教育観を見つめ、言語化・表現できる状態を目指すことで、教員志望の人にとっては、教員採用試験の備えにもなりますよ。

小野寺:理想はあっても、実践が伴わなければ、子どもはもちろん、保護者や同僚の信頼を勝ち得ない、という話がありました。実践的なスキルも身に付くのでしょうか。

武田:実際に授業やワークショップを1からデザインし、船内で実施し、他の参加者の方からフィードバックをもらいます。人前で話をしたり、ファシリテーションをする経験をたくさんしていただく予定です。

授業の他にも、船内で多種多様な仲間とともに、運動会や音楽祭など、さまざまなプロジェクトに関われます。人と一緒に物事を進めようとすれば、揉めることもあります。うまくいかないときに、どう自分はどういう反応をしがちなのかということを自覚した上でコントロールし、人にアプローチし、問題解決していく。そういうことを実地でできる機会も豊富です。

小野寺:学びがギュッと詰まった3ヶ月を経て、教育の世界に入る若い人たちがどんな成長を遂げるか・・・今からとても楽しみです。ありがとうございました。
 
※グローバルティーチャーズカレッジに興味を持たれた方は、下記のおすすめ記事にあるイベントにぜひご参加下さい。武田緑さんへのインタビュー、次回は、子どもの教育のための移住者が後をたたない国、シンガポールでのグローバル教育事情を探ります。

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