私達は、ピースボート48回クルーズに地球大学生として参加し、地球一周の船旅をしてきた日本人と韓国人奨学生です。日本を出発してアジア、アフリカ、ヨーロッパ、南米を経て太平洋にたどり着きました。旅をしていく中で、私達はたくさんの人々と出会いました。それぞれの国に様々な人々がいて家族を形成しています。この旅を通して感じた事は、その人達や家族が世界を構成しているということです。さらに私達は、世界の様々な地域のNGO活動家の人達と出会いました。船に水先案内人として乗船されていた方々もいます。それぞれ活動内容は異なり、様々な境遇にありながらも彼らは共通の目的を持っていました。それは、人間としての生きる権利を獲得し、守っていくということです。私達がピースボートの船旅を通して学び、得た事柄から、今日の核軍縮問題解決に向けての提言を送りたいと思います。
1.核に対する世界共通の認識の向上
私達がこの船旅で訪れたタヒチでは、フランスの核実験が市民に深刻な被害をもたらしています。住民の間では癌が多発しています。本国フランス市民には、このような事実は知られていません。フランス政府は被害の事実を認めておらず、タヒチにおいて、核被害について語ることはタブーとされています。このような状態では核軍縮への道は開かれません。そこでタヒチの青年団体は、自ら核実験被害の実状を社会に訴えようと動き始めています。
一方原爆被害国の日本でも、核被害についての認識が薄れてきているという実状があります。歴史の教科書において原爆被害に関する記述が削減されています。核兵器がいかに人間や環境に被害を及ぼすかを、多くの市民が知らないこの現状では、核兵器廃絶に向かうのは困難です。そこで私達は、大きく分けて二つの活動が必要だと考えました。
A)核兵器の影響についての教育を世界的規模で強化すること
現在、広島・長崎への原爆投下の事実について、日本・アメリカ・韓国においての歴史教科書の記述はそれぞれ異なる視点で書かれています。広島・長崎の原爆投下は日本においてはその甚大な被害が強調されており、韓国においては日本の植民地支配からの解放とされています。アメリカでは、戦争終結のためにやむをえないこととされています。それぞれの記述は視点の違いもさることながら、記述されている分量にも歴然とした差があります。そこで核の影響や核兵器被害について、NGOと国連が協力して世界共通の教科書を作成することが必要だと考えます。被爆者の高齢化が進む中、そのような教育の強化が早急に必要です。それによって、核被害の事実と正しい知識を次世代に継承することができるのではないでしょうか。日本・韓国・中国では市民の手により共通の歴史教材が作成され、今年出版されることになりましたが、このような共通の取り組みが核被害に関しても必要です。
B)情報の公開と共有
核実験などの新しい核兵器被害についての情報は、明るみに出ていないものも少なくありません。正しい被害状況を把握する為の実態調査を、国連やNGOが被害国・地域や被害者を対象に行う必要があります。被害地域の住民を調査のプロセスの中に、積極的に参加させるべきです。そこで得た情報を被害国・地域と、核保有国両方の市民で共有していくことが重要です。そのための手段としてインターネットなどのメディアの活用や、ドキュメンタリー作品を作成し、学校等で上映することなどが挙げられます。タヒチの青年団体はこれらの方法を実践する活動をしています。
また、被爆者は世界各地にいて、それぞれの地域で被爆者同士の団体を作っています。世界の被爆者団体や平和・軍縮活動のNGOが情報交換などを通して連携し、世界規模で核兵器の被害を訴えていくことが被爆者の発言力を強め、市民の核兵器に対する認識を高めていくことにつながると考えます。
2.検証能力の強化
2000年の再検討会議において合意された13項目措置の中で、検証能力の開発という項目があります。現在の査察体制は、核兵器国と非核兵器国とで差別が生じています。現状改善の為には、包括的核実験禁止条約(CTBT)やカットオフ条約(FMCT)を通じて、核査察能力を強化することが必要だと考えます。核兵器国への査察は現在、核兵器国側の自発的措置とされていますが、これを義務化することが必要なのではないでしょうか。非核兵器国に対しては、今ある査察システムのさらなる強化と公正さが必要です。全体として差別なく、秘密裡に行われる開発や核兵器に直結するような物質の開発を禁止することが重要です。検証を行う組織として、IAEA(国際原子力機関)が挙げられます。IAEAは査察を行うメンバーを核兵器国・非核兵器国及び、NGOの技術者グループにより構成し、信頼のおける公正な検証を可能にするべきです。このような体制を作ることによって、核査察能力が強化されるのではないでしょうか。
核兵器の被害を繰り返さず、平和の下に暮らすということは人類共通の願いではないでしょうか。何よりも優先すべき事は、誰もが安心して生活することができる世界を構築することです。そのために国家は機能し、それぞれの国家の連携を保つ国連が存在するのではないでしょうか。核兵器を持つことなく、国と国、人と人が尊重し合える世界を作ることができるのか。この課題は人類全体の将来を左右する可能性を持っています。船旅の中で私達が見てきた美しい海や自然は、これ以上壊されるべきではありません。自分達の子孫へより良い地球を残していく為には、核兵器で自国を守ることよりも、人間や、人間が生きる環境を守る事の方が優先されるべきではないでしょうか。
|