reporter's eye
バックナンバーVol.1
[話してみたい、仲良くなりたい!]
 新しい船旅の出航の時は、いつでもドキドキする。何度乗船しても、スタッフになっても。出航式では、たくさんの人が「お立ち台」の上で思い思いの挨拶をする。涙あり笑いありのそれを見ながら実感した――いよいよ旅が始まるんだな、と。

 その中でも、ひときわ目立ったグループがある。彼らは、アーティスト・アンバサダースと呼ばれる芸術家グループ。米国・サンフランシスコ周辺から選ばれた、画家・俳優・ダンサーなどのアーティスト、そしてジャーナリストたち。歌ったり踊ったりしながら、すごく楽しそうにパフォーマンスする。それを見ながら思った。「この人たちと話してみたいなあ…」。
 
 私は英語が上手じゃない。もっと正確に言うと、聞き取りができない。話しかけても、何て言われたのかが理解できないと困るなぁと思って、そうなるのが怖くて、普段は挨拶ぐらいしかしてこなかった。けれど何度か乗船するうちに、それじゃいけないと思うようになってきた。これは「国際交流の船旅」のはずだし…。それにいまだったら、通じなくてもホントに困っちゃう場面ではないはず…。3ヶ月もあるのに、最初からおじけづいてはイカン。よし、自分から話しかけてみよう。

 こうなると「友だちになりたい人」というより「私のターゲット」に近い。これが「正しい交流」のカタチなのかどうかも自信がない。でも、そんなことはどうでもいい、話しかけてみたい。ドキドキしながら、思いきって声をかけてみた。
「は、ハロー!ユア パフォーマンス イズ ベリーグッド!(やあ、あなたのパフォーマンス、すっごくよかったね、と言ったつもり…)」
……もっと他のことは言えなかったのか。なぜか声もうわずってしまった。さらに、大勢の人が騒いでた出航時だからか、ちゃんと聞き取れなかったみたい。さっさとどっかにいってしまった…ザンネン。でも、次は、がんばるぞ。
(久野良子)
[はじめてのカヌー]
 沖縄県名護市・辺野古。このあたりの海は、天然記念物にも指定されている「ジュゴン」の生息地といわれている。実際にとあるテレビ局が、泳ぐジュゴンの姿をキャッチしたことも。この日はあいにく曇りがちだったけれども、それでも海はきらきらと透き通って、すごく美しかった。この海に、米軍による海上ヘリポートが建設されようとしている。"縮小"される普天間基地の"代替施設"として。
 
 バスの外には、静かな海が広がっているのが見える。「大浦」と書いてある看板が見えてくる。辺野古の少し先にある大浦湾だ。ここが次の目的地。
 やがて、砂浜に色とりどりの小さな船が並んでいるのが見えてきた。「もしかして、アレに乗るの?」バス内に広がる、なんとなーく不安な空気。これが、私にとっての初体験・「カヌー」だ。

これは、地元NPOで活動する東恩納琢磨さん(ひがしおんな・たくまさん)らの実施する「エコ・ツアー」のひとつ。カヌーの乗り方はもちろんベテランさんたちが教えてくれる。「絶対にぬれますよ〜。皆さんそのままの格好でいいんですかぁ?」なんていう東恩納さんの声を背中に、まずは救命胴衣をつけ、オールを手に練習して、いざ、私たちはカヌーをこぎ出した。初心者も、ベテランも。
 予想外に、カヌーは順調に進んでいく。最初は透き通っていた海の色は、進むにつれてみどりになり、いつのまにか群青に変わっている。そんな海の色にいちいち大喜びしながら、私とパートナーはどんどん海を渡っていった。

 途中で何度か休憩を挟みながら、私のカヌーは向こう岸までたどり着いた。「なんだ、全然ぬれなかったじゃーん」と一安心していた私たち――そこに、背後から波が!あっという間に波はカヌーの中に侵入し(!)、私とパートナーは下半身ずぶぬれに。「どうせなら、ぬれるタイミングを教えてほしかった…」とは思ったものの、最後の最後にポカをしてしまったことがおかしくて、私たちは大笑いしながら、カヌーを引きずって岸へとあがった。

 結局、往復するのにかかったのは1時間以上。漕ぐのに一生懸命で、透明→みどり→群青と、海の色がかわるタイミングは結局どこだったのか、それもわからなかった。だけどひとつわかったことは、海はすごくきれいで面白いところだということ。辺野古にヘリポートが建設されれば、この静かな湾は、資材置き場になってしまう予定だという。ひとつ基地をつくることで、この海が、まるごとなくなってしまう――。

 東恩納さんは、こうもいっていた。「ここに来て、話を聞いたということは、あなたたちはもう『当事者』です。沖縄の基地問題について知らぬふりをすることは、もうできないんですよ」。
(久野良子)

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