世界一"アツい"サッカー「カルチョ!」
 パルマの中田英寿、レッジーナの中村俊輔と、日本人選手の活躍により、サッカーファンでなくとも、最近ぐっと身近になった「イタリアサッカー」。その実力と熱狂は「世界一」と称されることも少なくありません。イタリアで「サポーター」を表す単語は「tifosi(ティフォージ)」。これはもともと「チフス患者」を表す言葉で、「熱病に冒されたように、熱狂的に」ひいきチームを応援する様子からつけられたものです。
 “世界一アツい”イタリアの「カルチョ(サッカー)」について、水先案内人・金丸知好さんにお聞きしました。
――ヨーロッパでのサッカーと言えば「フットボール」。でもイタリアでは…?
 サッカーは、イギリスからヨーロッパ各国へ、そして世界へ伝来したものですから、ヨーロッパではイギリス風に「フットボール」と呼ばれていることがほとんどです。しかし、イタリアでは「カルチョ」。これは、中世・ルネサンス時代に行われていたという「カルチョ・ストーリコ」という、壁に書いた枠線内にボールを蹴り込む遊びから取られた名前です。もちろん、イタリアのサッカーもイギリスから伝来したものですが、同じようなスポーツがイタリアには古くからあったんだ、というイタリア人の想いなんですね。

 ですから、「トト・カルチョ」というのはもちろんサッカーくじのこと。日本でサッカー以外のくじが「トト・カルチョ」と呼ばれることがありますが、あれはマチガイなんです。ちなみに、イタリアでのトト・カルチョは人気がありますよ。町のおばちゃんたちだって普通に買ってますし、バールでの話題の多くもカルチョとトト・カルチョ。イタリア人はとにかく、サッカー話に関しては飽きることを知りません。だいたい、毎週末にサッカーの試合があるのですが、週末の話題をそのまま1週間先まで引っ張りますよ。

 イタリアはサッカー以外にもスキーやバレーボールなど、世界的に強くて人気のあるスポーツがたくさんあるんです。それでもやっぱり、カルチョはダントツの人気。イタリアにはかなりぶ厚いスポーツ新聞があるのですが、そのうち8割はカルチョの記事なんです。


――選手もリーグも、とにかく層が厚い!
 イタリアのサッカーはとにかく層が厚い。まず選手層。イタリアの選手育成システムはヨーロッパでも定評があり、U-21(21歳以下代表)ヨーロッパ選手権での優勝経験も少なくありません。イタリアサッカーのユースセクションは6歳から始まり、そこから2歳刻みに6つのカテゴリーに分かれています。「6歳から」と聞いた時は、私もずいぶん小さい頃から…と思ったのですが、優秀な選手のタマゴはそのくらいの年齢でおのずと見えてくるそうです。また、ユースセクションの最年長、16〜18歳のクラスになると、そのレベルによって「Prim avera(プリマヴェッラ=プロリーグのセリエA・Bにあたる)」、「Beretti(ベレッティ=セリエC)」などといったグループに分かれ、独自のリーグ戦を行っています。今ここに挙げた2つのグループは言わば「プロ候補」、イタリアのジュニアサッカー界のエリートたちですよ。

 そして選手層と共に、プロ/アマチュアリーグ層もひじょうに厚いです。私たちがよく耳にする「セリエA」が日本で言う「J1リーグ」。そこを頂点に、ピラミッド状に多くのチームが構成されています。
・セリエA :18チーム・全国
・セリエB :20チーム・全国
・セリエC1-A :18チーム・北部
・セリエC1-B :18チーム・南部
・セリエC2-A :18チーム・北部
・セリエC2-B :18チーム・中部
・セリエC2-C :18チーム・南部
※以上がプロリーグ。他にアマチュアリーグが6部。アマチュアリーグもプロ同様、下位になるほど細分化されてゆく。
map――イタリアサッカーの歴史と特長
 やはり、スター選手のいる、つまるところ資金力のあるチームが強いですね。セリエAだと「ミラン」「ユベントス」「インテル」あたりが強豪です。ここで、イタリアの地図を見て欲しいのですが、いま強豪として挙げたのはイタリア北部のチームばかりです。セリエAの所属チームを見てみるとさらに顕著なのですが、南部にあるセリエAのチームは「レッジーナ」くらい。あとは中部から北部に集中しています。これが先に書いた「資金力」と関係しているんです。

 イタリアは北と南で経済力に大きな差があります。北部のロンバルディア州なんて、地域比ではGDPがEUで一番だと言われるくらい「豊か」。それに比べて南部は経済的に豊かだとは決して言えません。これは、イタリアの南北問題に由来しています。
 現在のイタリアが成立したのは1860年、それまでの間あの地域は分断されていました。北部は紀元前からローマ帝国として栄えてきた土地ですし、中世はルネッサンスに代表されるような華やかな文化の中心となった場所として有名ですよね。しかし、世界史においてイタリア南部の地名はあまり聞きません。
 こうした「歴史のちがい」がイタリアのサッカー事情に大きな影響を与えているんです。

 イタリアで「サポーター」が「ティフォージ(チフス患者)」と呼ばれることからもわかるようにイタリア人のサッカー熱は、本当に「もの凄い」です。各町にクラブチームがあるのは当たり前。そして、自分の町のチームのファンなのも当たり前。そしてそのチームを“命がけで応援”するのだって当たり前なんです。
 イタリア人がそうまでして好きなチームを応援する理由?…そうですねぇ。ぶっちゃけ理由なんて無いと思いますよ。おそらく、ごく普通に「親父がそのチームのファンだったから」なんて答えが返って来るんじゃないでしょうか。多くの日本人がオリンピックでは自然と日本チームを応援しているくらいに、自然なことなんですよ。
 イタリアは、ルネサンス時代には都市国家でしたから、その名残もあるのかも知れませんね。都市国家だった時代は、都市単位で政治や外交、そして戦争が行われていたわけですから…サッカーはある種の「代理戦争」なのかも知れません。

 だから、というわけでもありませんが、イタリアサッカーはホームのチームが強いんです。いや…「強い」と言うよりは「負けないサッカーをする」と言った方がいいでしょうか。ホームかアウェイかでは、明らかに試合内容が違うんです。
 もともと、イタリアサッカーはあまり「攻めない」サッカーなんです。どちらかと言うとカウンター狙い。ですから、点は入りにくいです。「カテナチオ」と呼ばれるスタイルなのですが、日本語訳するならば「カタイ」サッカーをするんです。ですから、「1対0で勝つ」というのはすごく評価が高かったりします。これはイタリア人の人生観にも通じるものがあるんでしょうね。点の取り合いになる試合は「ゲームとしてダメだ」と酷評されたりするんですよ。

 ですから、サッカー通の中では「イタリアサッカーは面白くない」と言う人もけっこういます。何と言うか…ボールが快適に回らないんですよ。イギリスみたいに素早いパス回しで攻めるようなサッカーじゃない。だから、ゲーム運びがゆっくりで見ていても面白みが無い、と。そういう意見も一理あるかな、と思います。最近は、イタリアのゲームスタイルも少しずつ変わってきているみたいですけどね。でも、この「堅実さ」こそがイタリアの魅力だとも言えますから、それはそれで楽しんで下さい。


――寄港するチビタベッキアでは?
 さて、気になるピースボートが寄港するチビタベッキアについて。残念ながら、チビタベッキアのチームについては私もわかりません。クラブチームは絶対にあると思うんですが…。
 しかし、おそらくツアーなどで訪れるであろうローマにはセリエAに所属するチームが2つもあります。どちらも強いチームですよ。1つは「ローマ」、2001年の国内リーグ優勝チームです。もう1つは「ラツィオ」、こちらは2000年の国内リーグ優勝チームです。

 ローマは、同じ町に2つのセリエA所属チームがありますから…タイヘンですよ。どっちのサポーターかで町が2分されますから。年に2回、同じ町の2チームがあたる「ローマ・ダービー」と呼ばれる試合があるんですが、その日はもぅタイヘンです。かなり「キケン」な状況になりますから…。観光客には刺激が強すぎる日であることは間違いありません。

 ピースボート寄港は7月ですから、リーグ戦の季節ではありません。でも、プレシーズンマッチなどはあるかもしれませんね。ローマには「スタジオ・オリンピコ」という8万人収容の巨大なスタジアムがあります。その名の通り、オリンピックで使われたスタジアムです。サッカー王国らしい、よく出来たスタジアムですから、ぜひ見に行って下さい。また、ゲームはなくともサッカーグッズを扱うショップはオープンしています。「ローマ」のグッズはスペイン広場近くの「ローマ・ストア」で、「ラツィオ」のものはテルミネ駅のそばの「ラツィオ・ポイント」で購入できます。どちらもサッカーファン好きならば足を運んでみることをオススメします。

 ただし、どちらかのグッズを買ったとしても、私たちはあくまで「観光客」でいることをお勧めしますよ。ローマグッズを身につけて、たまたま入った飲み屋の主人がラツィオ・ファンだった場合、諭されるか、怒られるか、ボられるか…後の責任は持てませんから(笑)

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