経済特区深センをゆく
 最初に訪れたのは「三誠精密有限公司」。ここは日本の企業と取引しており、テレビのリモコンやゲーム機の部品、プリンターの部品などが24時間ノンストップでつくられているという。日本人の社長、磯村さんからうかがったところによると「こういった部品関係は、いまやほとんど日本ではつくられていません。日本に輸出している重機関係の部品のうち、約8割がここ広東地区でつくられているのです」とのことだ。
 さっそく工場の中を見学させていただいた。ここで働いているのは、17歳〜22歳の女性が最も多い。磯村さんによると「女性は素直で、やたらに冒険をしない。そして正確に仕事をするため、採用される確率も高い」のだとか。
 彼女たちの多くは親元を離れて、工場の敷地内にある会社の寮に住み、ここで稼いだお金を家族のもとへと送っているという。勤務形態は二交代制で、2時間ごとに10分の休憩がとれる。しかし、少しでもお金を多く稼ぐために残業もし、さらに1時間の昼休みを30分しかとらない人も多い。働く目的は「家族にお金を持って帰ること」なので、働く期間もそれほど長くない。多くの人が約2年間でここを辞め、故郷に帰るのだという。
 工場内を歩いていて目につくのは、階段や壁に貼ってある貼り紙やポスター、スローガンだ。これは寮の入口に貼ってあった「安全第一」のポスター。いちばん多いのは、衛生管理・労働環境に関するスローガン。他にも「タイムカードを他の人に押してもらってはいけません」という注意や、なぜか「二重結婚禁止」「虎の密猟禁止」というような政府からの「お達し」もあちこちに見られる。
 工場内には、日本語が印刷された、色とりどりのラベルプリンタ・カバーがずらっと展示されている。この工場でつくられた製品は、ここ中国ではなく、すべて日本まで送られ、日本で使われている。
 ひととおり見てまわったあとは、ここで働く若者との交流会がおこなわれた。
 日本人スタッフが非常に多いこの工場では、お互いのコミュニケーションがスムーズにいくようにと日本語を勉強する中国人スタッフもいる。その中でも流暢に話せる男性スタッフは「ここで勉強すると、教室での勉強だけでなく、本当の『生きた』日本語を学べます」という。また、磯村さんはこう言っていた。「彼らは確かに日本語を勉強していますが、普段は私たちとしか話す機会はありません。工場以外の人と日本語で会話するのは、今日が初めてのことなんです」。
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