黒人居住区からの熱い風
 アパルトヘイトが廃止されて10年近く。しかしいまも旧「黒人居住区」では、失業率が60%をこえるという厳しい状況だ。しかしそんな中、自分たちの力で地域を活性化していこうという人たちもいる。
 ここでは、カヤリッチャ地区のクラフトマーケット、ニャンガ 地区の若者たちによる「PDP(Peace and Development Project)」を中心に、自分たちの力で地域を活性化していこうという人たちに出会った。いまだ続く「アパルトヘイト」の状況をあらためて知るとともに、旧「黒人居住区」の人たちによる新しい取り組みを見ることで、南アフリカの「可能性」を感じることができる1日になった。
 カヤリッチャは、「新しい家」という意味の旧「黒人居住区」。失業率69%という状況の中、「自分たちの力で貧困とたたかう」ことを目的にしたクラフトマーケットを訪ねた。
  これは、1997年に2人の女性がビーズ細工の露店を出したことから始まったもの。現在は 28人のボランティアスタッフが参加するマーケットに成長、HIVの啓蒙活動など、活動の幅も広がっている。ここに出店できる資格は「どことも違う独創的な品を売っていること」。ビーズのアクセサリーや空き缶を使ったユニークな置物など、どれもかわいい品ばかり。
  あるスタッフの方は「遠いところの人たちが私たちを見ているということが私たちを勇気づける。私たちが世界を必要としているように、世界が私たちを必要としている、それを知ることがいちばんの力です」と語った。
 お昼は、「マサンデ・コサ・レストラン」で伝統的な民族料理。「繁栄を」という名を持つこのレストランも、地域の雇用創出を目的としたプロジェクトのひとつだ。
  歌とダンスに迎えられ、甘いジンジャービール、マンデラ前大統領も好物だという豆の煮込み、サラダ、羊のシチューやチキンなど、心のこもった料理を楽しんだ。
 失業率が80%を越えるというニャンガ居住区。この町で、自分たちの地域の犯罪防止と若者の能力開発を目的とした「PDP」というプロジェクトがスタートしたのは1997年のこと。若者たちがグループで街の中をパトロールするのだが、彼らは武器を持たない。「力に頼らずに地域の問題を解決することで治安を向上させている」と、コーディネーターのレナードさんが説明してくれた。
 「自分の育ったところを安全にするのが目的です。小さなことから始めていけば、あとはその積み重ねです」と話してくれたのが印象的だった。
 PDPのボランティアが着ている緑のベストには「コミュニティー・ピースワーカー」とある。彼らのパトロールに同行させてもらった。
  ピースワーカーとして活動できるのは18歳からだが、中には35歳という人もおり、それもこの地域の失業率の高さを物語ってい る。しかし、このパトロールは、地域の人に話しかけながら、明るくにぎやかなものだった。
  ピースワーカーの期間は1年。その後は運転免許や職を得るための訓練が受けられる。一緒に歩いた男性はコンピューターの勉強をするつもりだと言っていた。技術や経験のないことも、高い失業率の一因だ。このプロジェクトは若者たちに将来の希望をつくっているのだと思った。
 4年前、荒れ果てた土地を鳥の集まる公園に再生した「エディス・スティーブンス湿地プロジェクト」。池のゴミを片づけ、鳥が生息しやすいよう島やスロープをつくり、この地域特有の植物が植えられ、この土地本来の自然を楽しめるようになった。また、地域の 人々が集まる「憩いの場」としても利用されているそうだ。
  私たちが訪れたときにも水辺にたくさんの鳥を見ることができた。いまではここに、80種類もの鳥がやってくるという。また、地域の人々を対象に「エコ・ツーリズム」のトレーニング、サツマイモの品種改 良プロジェクト、隣接するゴミ捨て場跡の湿地再生など、注目すべきプロジェクトが進められている。
(矢島佐世)
ケープタウン寄港地レポートインデックスへ40回クルーズレポートインデックスへ