南米のキリスト教 / キム・ヨン(同志社大学講師)
 毎回、一人旅をした時のお話を交えながら色々なテーマについての講座を開いているキム・ヨンさん。今回のテーマは、国民の90%以上がクリスチャンである南米において1960年代から始まった、「解放の神学」という考え方について。同じキリスト教の牧師として、また南米に魅せられた一人の旅人としての視点から語っていただいた。
 「1950年代終わりのブラジルでは、パウロ・フレーレという教育学者が、貧しい人たちにラジオ放送などを通して文字を教えようという運動を始めました。
 それまでの宗教のあり方に疑問を持っていた聖職者たちがこの運動に非常に影響を受けて始まったのが『解放の神学』、祈るだけではなく社会変革のために立ち上がるべきだという考え方です。
 その聖職者たちによって各地につくられた小さなコミュニティーでは、貧しい人々が自分たちの目で聖書を読み、その内容を自分たちの抑圧の現実を変えるための『解放のメッセージ』として受け取るようになりました。
 この『解放の神学』の影響を強く受け、キリスト教の聖職者たちと社会主義者たちの協力によって成立したのが、1979年に中米・ニカラグアで起きたサンディニスタ革命です。」
やらせと情報操作/渡辺武達(同志社大学教授)
 同志社大学教授としてメディア・ジャーナリズム論を展開、自身も実際にテレビ番組の企画・制作にかかわった経験を持つ渡辺武達さん。今回の講座では、テレビ番組に氾濫する「やらせ」の事実について、そしてそれをどのように改善していくべきかについて語っていただいた。
 「テレビ番組には『やらせ』が数多くあります。例えば、以前NHKスペシャルで放送されたドキュメンタリー番組『ムスタン王国』でも、多くの『やらせ』があったことが発覚し、NHKが謝罪番組を放送しました。
 民放の娯楽番組でも、例えばユリ・ゲラーやサイババなどのトリックをいかにも本当であるかのように放送されていました。そして、やがてその信憑性が疑われるようになると、今度は『何とあれはトリックであった』という番組を作る。これは非常にひどい。
 まず、現在のような野放し状態を改善しなければなりません。放送された番組を保管し審査するための施設、税金で運営され、視聴者が管理できる資料館を作る事を提案します。番組が記録として残れば、ひどい番組は作りにくくなるからです。そうすることで、私たちがメディアに夢や希望を託す道ができていくのではないでしょうか。」
感じる@ブラジル〜スラムに育つ希望〜/下郷さとみ(フリーライター)
 フリーライターとして活躍しながら、ブラジルと日本をつなげる、さまざまなNGO活動の支援も行う下郷さとみさん。今回は、CDI(情報技術民主化委員会)などブラジルのスラムで広がるNGOの活動、そしてその意味について語った。
 「CDIはスラムコミュニティにコンピュータ教室を開設するという事業を行っているNGOです。ただパソコンの技術者を作りたいわけではなく、このパソコン教室を通して、子ど もたちに自分の頭で考える力をつけてもらうというのがCDIの目的です。
 パソコンはスラムの子供たちにとって「憧れのキカイ」であり、「さわってみたい」という好奇心を通じてコミュニティ活動に積極的参加していくためのツールでもあります。私がブラジルのスラムで活動しているときには、「『先進国』の人々は、ブラジルの、 貧富の差が大きく犯罪が多発しているという状況は、『遅れている国だから』と考えている。けれども、もしかするとこれは、『先進国』の未来の姿なのかもしれない」とよく言 われました。
 安全な社会とは、それを当たり前のものだと思うのではなく、自分たちで「こういう社会にしたい」と意識していかないと守っていけないものだと思います。子供 が苦しんだり、殺されていったりする社会は間違っています。子供は未来を作っていく大切な存在であり、愛され安心しきっているのが、子供にとって当然の姿なのです。子供たちが笑っている、しあわせな社会でありたいです。」
(佐久間)
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