激増する移民労働者のゆくえ
国内の紛争や経済状況の悪さから自国を離れた、アフリカ、中南米、アジアからの移民が急増しているヨーロッパ。スペインでは、特にここ10年でその数が急激な伸びを見せています。
ところがいっぽうで、国内の失業率が上昇を受け、そうした移民たちを排除する動きも顕著になっているとか。今回私たちが訪れた「人種差別SOS」は、人種差別に対して立ち向かうことを活動の基本とする、人権擁護のNGO。そのスタッフ、そして移民の人々交え、スペインでの移民がおかれている状況について聞かせていただきました。
フランスで創設された「人種差別SOS」のバルセロナ支部が設立されたのは1989年。
その活動は、人種差別を受けた人々に対する法的・心理的サポート、紛争における仲裁、書籍やイベントによる啓発運動のほか、そして差別問題の事例についてまとめたレポートを収納し、全ての人 が利用できる情報・資料センターとしての役割まで、多岐にわたっている。
運営資金は会員約1200名からの会費、書籍販売やイベントによる収入、そしてカタルーニャ政府からの援助で賄われている。
「スペインの失業率は8%と高い水準にあるのは事実です。しかし、移民たちはスペイン人の職を奪っているわけではなく、独自に事業を始めたり、スペイン人が避ける仕事に就いたりすることが多いのです。
だから、自分たちの失業率を下げるために彼らを排除する必要があるとは言えません。
忘れてならないのは、移民たちがこの地で暮らすことで人口増加を助け、それにより生産物の消費を増やすことにもなっているという事実です。
しかし、政府は来年度約3万人の外国人労働者が必要との試算を打ち出しているにも関わらず、『文化を守らなくてはならない。社会構造が変わってしまう。』といった保守的な考えのもと、法律を改正するなどして移民を閉め出す矛盾した政策をとっているのです。」
「人種差別SOS」の活動内容や移民のおかれている状況について説明を受けたあとは、「SOS」スタッフのグスターボさんに2名のボランティアのスタッフを加え、バルセロナ旧市街を案内してもらった。そこに住む様々な国籍の人たちの暮らしぶりが伺えた。
ガーナ出身の移民、イドリスさんに、バルセロナへやってきてから現在に至るまでの1年間についてお話しし ていただいた。
「ガーナでは、たくさんの家族を養うのが難しい状況でした。『ヨーロッパならここより良い 生活ができるに違いない』と考え、家族をおいて逃げるようにしてバルセロナへやって来たのです。
しかし、お 金もなければ住む場所もないため、カタロニア広場で寝泊まりをしていたときに『人種差別SOS』に出会いまし た。
ここでは現在、無料でスペイン語のレッスンを受けたり、仕事につくために弁護士をつけてもらって移民の 申請を行っているところです。仕事もせずに1日暮らしていると、気も滅入ってきます。早く仕事を手に入れた い、そればかり願っています。」
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