3月6日 ▼黒人居住区からの熱い風
アパルトヘイト政策が完全に撤廃されたのは1994年のこと。その後、法的には平等になったものの白人に比べて黒人の生活水準は低く、教育を受けられる機会も少ないことから置かれた立場も弱いのが現状。私たちが訪れたのは、黒人が自立して暮らしていくためのプロジェクトを実施する4団体。「虹の国」南アフリカを創ってゆこうとする人々と出会い、アパルトヘイト時代の困難な道のりを知ると同時に、かつて「名誉白人」の称号を望んだ私たちのこれからの役割についても考えさせられるコースになった。
「ここはビバリーヒルズ!?」白い壁の大きなお屋敷を目の前に思わず出た言葉。ところが、続いて私たちの目の前に現れたのはカラード(混血)が住む煉瓦造りの家、そして、まるでゴミ捨て場のような旧黒人居住区の様子。「道を隔てただけで、ここまで住む世界が違うなんて…。アパルトヘイトの後に一体何が変わったというの?」全ての参加者が衝撃を受けた瞬間だった。
ピラニ(Philani Nutrition Center)プロジェクトは栄養失調の子供をケアしながら、母親の栄養指導や職業訓練指導、そして子供の共同保育を担う3つのプロジェクトを進めるNGO。
「最初は栄養失調の子供たちを保護するのが目的でしたが、母親への教育や職業訓練の必要性を感じ、こうして現在行っているラグマット作りを始めました。希望や生き甲斐をなくした親子が、ゴミになるような古布を使って新しく製品を作り出す。とてもユニークな活動だと思いませんか?」
お母さんたち、そして子供らのそれぞれが歌や踊りによる熱烈な歓迎をしてくれた。ピースボートからは、お昼寝の時に使って欲しいと14枚のキルトをプレゼント。そして子供たちに参加者一人一人からおもちゃを手渡した。
案内してくれた黒人のガイドさんが、「黒人の居住区にピースボートのみなさんが来てくれたという事実だけでもうれしさで言葉にならない」と涙を流したのには、参加者一同が驚かされた瞬間だった。
PDP(Peace and Deveropment Project)は、クロスロードという旧黒人居住区で、犯罪を防ぐことを目的に結成された団体で、住民自身の手による「自警団」的存在。パトロール以外にも、18から35歳までの青年を集め、非暴力で問題解決を行うためのトレーニングも実施している。彼らがパトロールに使用している自転車は一昨年にピースボートが寄贈したもの。
「以前この地区は、『一歩足を踏み入れたら終わり』と警察や兵隊も入ることをためらうほど治安が悪化していました。私たちは武器を持たず、座って話をすることで平和的解決を目指します。解決の糸口は『対話』にあるのです。」
ググレトゥ居住区のシビィエレ学校(Sivuyile Technical College)では、陶芸など芸術活動を通して生活してゆくための職業訓練を担う「ウンエンド陶器プロジェクト」が進められている。陶器のデザインには、ケープ州に暮らすコサ人の伝統的なデザインが取り入れられ、とってもかわいい。電子レンジでも使えるというから実用性も抜群。お皿の裏には「PEACE BOAT」の印字も。
プロジェクトで制作された商品が販売される一角には、アパルトヘイト下の様子を伝える資料が展示されていた。写真は、アパルトヘイト終結に向けて活動した「真実と和解委員会」(TRC)によるもの。
TRCは「自らの罪を包み隠さず告白すれば、罰を与えない」という考えのもと、黒人と白人の和解を目指し、加害者である白人が被害者の家族に対し謝罪することを促している。そうすることで、被害者の家族は加害者の弱さを目の当たりにして「同じ人間なんだ」と感じ、精神的な癒しを受けることができるという。しかし、実際に謝罪してTRCの「恩赦」を受けた白人の数はごくわずかだ。
(真家)
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