ピースボートは、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の閉幕を控えた5月24日、「核不拡散体制強化のための日本のリーダーシップを求める要請――六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ」と題された要請書をニューヨークにおいて発表した。要請書には、日本のピースデポ、ピースボート、米国の「ピースアクション」、「社会的責任を考える医師の会(PSR)」、「軍備管理協会(ACA)」の代表らの呼びかけに応じて、世界各国の平和団体の代表者など約150人が署名した。
要請書は、年間核兵器1000発分ものプルトニウムを分離する六ヶ所再処理工場の運転開始は、「北東アジアにおける核拡散問題をさらに複雑なものにすることに」なり、また、「核兵器(及び核兵器用物質)の取得を追求している国々に『日本の例』という口実を与えることになる。」と警告している。さらに、「六ヶ所再処理工場の運転開始と、分離したプルトニウムを商業用原子炉の燃料として使うという非経済的な計画の実施とは、NPT加盟国が決して無視することのできない世界的核拡散リスクを招来する」とし、「日本が六ヶ所再処理工場の運転を無期限に延期するという勇気ある決定をすること」により、「核廃絶と核拡散防止への道を世界に示して見せるよう」日本政府に呼びかけている。
要請書は、ピースボートの川崎哲とPSRのマーティン・ブチャーが、5月24日正午、国連日本代表部に届けた。要請書の発表は、同日午後3時から国連の建物内で開かれたセミナー/記者会見の中で行われた。
5月5日、NPT再検討会議開幕にあわせて、アメリカのNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が、日本に対して六ヶ所再処理工場の稼動の無期限延期を求める要請を発表した。今回の要請文は、この4人のノーベル賞受賞者を含む米国の専門家ら27人の署名した要請に対応するかたちで、NPT再検討会議閉幕を控えて発表された。
今回の要請書には、上記の5団体の他、英国の「核軍縮運動(CND)」、フランスの「平和運動」、インドの「核軍縮・平和連合(CNDP)」、「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」のドイツ、オーストラリア、フランス各国支部、国際平和ビューロー(IPB)、国際反核法律家協会(IALANA)などの代表格の人々や核問題専門家らに加え、日本からは、田中煕巳日本被団協事務局長や澤田昭二氏、岩松繁俊氏などを初めとする被爆者、本島等元長崎市長、宗教者、著名な政治学者などと並んで、音楽家の坂本龍一氏や作家の澤地久枝氏も署名している。時間的な制約もあって、組織決定を経たものではなく個人の資格での署名が基本だが、短期間にも関わらず、このような多くの人々の署名が集まったことは、六ヶ所再処理工場運転開始に対する反対の声の強さを物語っている。
ピースボートスタッフ、川崎哲は、
「日本政府は、核兵器に反対する世界各地のNGOや法律家、学者などと協力することに誇りを抱いてきた。この人々が今、六ヶ所再処理工場の運転開始に反対している。運転開始となれば、六ヶ所再処理工場は、年間核兵器1000発分ほどものプルトニウムを分離することができる。日本の外務省は、NPT体制を弱体化し、北東アジアの非核化に向けた国際的努力を複雑にするということを省みず、政府内の原子力部門が何年も前に行った決定の弁護に汲々とするという現在の外交方式を放棄すべきだ。核廃絶に向けた動きの指導者になることを真に望むのであれば、日本は、六ヶ所再処理工場の運転開始の意味合いを直視し、過去の政策を変更するという正しい決定を行う勇気を示して見せるべきだ。」と語った。
再処理問題の専門家で、要請文に署名したプリンストン大学科学・世界安全保障プログラム上級研究政策科学者のハロルド・ファイブソンは、
「民生用使用済み燃料の再処理の世界的モラトリアムは、核拡散防止にとって、重要な措置だ。再処理は、経済的にまったく意味をなさないし、放射性廃棄物の合理的な処分にとっても必要でない。民生用使用済み燃料の再処理は、すでに、世界全体で、200トン以上もの分離済みプルトニウムの蓄積をもたらしている。このプルトニウムは、厳密・厳重な保安体制及び保障措置の下におかなければならない。六ヶ所再処理工場の運転を開始しないとの日本による決定は、まずは新たな再処理の、そして、ひいては、すべての再処理の世界的モラトリアムに向けた不可欠で重要な一歩となるだろう。」と述べた。
PSRの安全保障プログラム・ディレクターのマーティン・ブチャーは、
「PSRは、核戦争防止のためのキャンペーンを40年に渡って続けてきた。核拡散の行動は、その一つ一つが、核兵器の使用の可能性を高める。米国のNGOがブッシュ政権の核政策に反対するのは、これらの政策が、安定を脅かすものであり、危険だからだ。というのは、これらの政策がNPTに違反する行動をとろうとする国々に口実を与えるからだ。同じ理由で、われわれは、六ヶ所の再処理開始に反対する。それが、核拡散行為であり、世界が直面する核の危険を増大させるからだ。
六ヶ所は、イランのような国がその核計画を進める際の口実となり、隠れ蓑となる。また、世界のプルトニウム及び高濃縮ウランの供給増大につながる。核テロリズムの脅威を恐れる世界にあって、国際社会はこのような不必要なリスクを受け入れることはできない。日本やその他の核技術国は、再処理のモラトリアムを求めるIAEAの取り組みを支持すべきだ。われわれの社会・国々の安全・安全保障は、核物質の入手可能性を減らすことによってのみ達成できるものであり、再処理再開からは得られない。」と語った。 |