声明「日ロ民間交流の新たな可能性のために」

 私たち第38回ピースボート参加者有志は、地球市民相互の友好を深めることを目的に、2002年8月27日から28日にかけて国後島を訪問しました。今回のクルーズは日本の国内法に反するものでも、国際法に反するものでもありません。日本の外務省からも問題はないという確認を得ている正当な訪問です。そればかりか、ロシアのビザを取得しての訪問の自粛を求める政府の意向にも配慮して、外務省が主導する「ビザなし渡航」の枠組みを入念に検討し、「ビザなしかつパスポート不携帯」にて訪問を行いました。一部の報道機関や論者が私たちに対して行っている批判は全く当たらないものです。

 今回は、参加者及びスタッフを合わせて530人が国後島を訪れました。これだけ多くの人々が「北方領土」を訪問したのは、第二次世界大戦後初めてのことです。訪問団は一般公募に応じた、日本人、在日朝鮮・韓国人、韓国人、ドイツ人、イギリス人、オランダ人、ロシア人、アメリカ人からなっていましたが、公募により多様な国籍の人々が参加した訪問団という点からも、戦後初のことでした。まさに歴史的な訪問と呼ぶことができます。

 私たちは、半数あまりの人々が27日の1日滞在後に船に戻った一方で、「友好の家」の宿泊、島民の家庭へのホームステイまたはキャンプなどさまざまな方法により、約240人が国後島で一夜を過ごすなど、11のコースに分かれて島民と多様な交流活動を行いました。その目的の中には、島民の要請に基づいて黒板や文房具などをNGOとして人道支援することや、日本の市民または税金を払っているものの当然の権利であり、かつ義務である、日本政府が行った人道支援の検証も含まれました。

 交流フェスティバルでは、アイヌの参加者が伝統楽器トンコリを演奏し、日ロ双方の参加者に感銘を与えました。もともとこの地で生活をしていたアイヌの伝統楽器が数十年ぶりでアイヌにより演奏されたことは、歴史的な意義を持っています。このような活動を通じて、私たちは従来のビザなし交流がなしえなかった成果を挙げ、民間交流・NGO外交の可能性を拡大したことを確信します。

 ところが、訪問を実施する過程で、日本の外務省はロシア側に対して、われわれの受け入れを中止するよう再三に渡って圧力をかけました。外務省は、ロシアの実効支配を認めないと繰り返しているにも関わらず、自らロシアの実効支配を容認したことになります。また、一部の報道機関などは事実を誤認し、私たちを批判していることが、船内にも伝えられています。私たちは、不当な圧力を加えた外務省と事実を正しく伝えていない一部の報道機関に強く抗議します。

 また私たちは、今後も日ロの市民交流の拡大に努めることが、1998年の小渕・エリツィン会談において合意された「人道的見地から最大限に簡素化されたいわゆる自由訪問を実施する」ことに合致すると考えます。同時に、この合意の下で疑惑が生み出されたことに照らして、多様な方法による交流の存在こそが、不正の再発を防ぐ上で欠かせないと確信します。

 外務省が発表した外務省改革の行動計画は、ODAの効率化と透明化やNGOとの新しい関係を掲げています。ピースボートと外務省の話し合いの過程でも、「政府とNGOは車の両輪である」との発言が外務省側から出されていました。もちろん、この両輪は、なれ合いではなく常に緊張を持った関係でなければなりません。そしてこの建設的な精神と、政府とNGOの関係を生かすためにも、交流活動の機会を増やし、また多様化させることが重要です。

 よって、私たちは、私たちに寄せられた誤った批判と外務省からの不当な圧力に強く抗議します。
 また、今後も民間により日ロ交流の可能性と発展を追求することを、ここに宣言します。
2002年8月29日

発起人(順不同・敬称略):
新井信一(日本の戦争責任資料センター代表)
鎌田 慧(ルポライター)
河辺一郎(愛知大学教員)
高橋和夫(放送大学助教授)
寺田達雄(ジャーナリスト)
前田哲男(軍事ジャーナリスト)
吉岡達也(ピースボート共同代表)
櫛渕万里(ピースボート共同代表)
山本 隆(ピースボート共同代表)
尾形憲(法政大学名誉教授)
チカップ美恵子(アイヌ紋様刺繍家)、
中川敬(ソウルフラワーユニオン/歌手)


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