船内ニュース
8月1日 "ヒロシマ"というとき/天野文子(平和活動家)
 リスボンから乗船された水先案内人・天野文子さんの初講座が開かれた。天野さんは広島で14歳のとき被爆し、肉親を亡くされた。1978年、国連の第1回軍縮特別総会に広島の証言者として参加されて以来25年間、各国を訪れ、原爆の語り部として活躍されている。天野さんがもっとも力を入れて語られたことを、紹介してくださった詩とともに紹介する。
 「日本は、原爆の被害者です。それとともに、日本によってアジア各国の人々が血を流したことも忘れてはなりません。それを考えるために、同じ被爆者である詩人・栗原貞子さんの詩を紹介します。
 この詩は『<ヒロシマ>というとき/(ああヒロシマ)と/やさしく答えてくれるだろうか/<ヒロシマ>といえば<パールハーバー><南京虐殺>』と続きます。そして、最後には『<ヒロシマ>といえば/(<ああヒロシマ>とやさしい答えが返って来るためには/わたしたちは/わたしたちの汚れた手をきよめねばならない』と。
 私たちが二度と過ちを繰り返さないためにも、戦争への道に流されていった仕組みや真実の歴史などを明らかにし、そして核廃絶を目指して明るい未来をつくりましょう」
(横江淳)
8月1日 シェークスピアへの招待〜ヴェニスの商人〜/本橋哲也(東京都立大学助教授)
 チベタベッキアから乗船された水先案内人の本橋哲也さんに、シェークスピア作『ヴェニスの商人』を解説していただきました。日本語字幕なしの英語だけの演劇ビデオでしたが、場面ごとにくわしく説明してくださったおかげで、シェイクスピア初心者も楽しめたはず。ここでは、その中のコメントをほんの一部紹介します。
 「『ヴェニスの商人』は、箱選びのおとぎ話や、白人社会によるユダヤ人シャイロック差別、あるいは強欲な金貸しのシャイロックによる白人商人アントーニオへの復讐、つまり肉1ポンドの証文といった話が中心に知られているのではないでしょうか?
 しかし、この芝居を注意深く見ていくと、そこでは黒人であるモロッコ大公やスペイン人(=カトリック国植民地先進国なのでイギリスの敵)であるアラゴン王子は注目すべき存在です。なぜなら、箱選びで敗れ去るのがこの2人だからです。
 また、シャイロックの娘・ジェシカと白人ロレンゾとの間には子孫をもうけることが許されません。その一方で白人のカップルであるポーシャとバッサーニオ、ネリッサとグラシアーノは生まれてくるであろう子孫について楽しげに語ります。この生殖にまつわる差別の問題が、まさにポーシャがシャイロックを裁く時の最終的な手がかりとなる『血』の問題と密接に関わっているのではないでしょうか?」
(田上友美)
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