1月17日  ▼わたしが伝えたいこと/灰谷健次郎(作家)
今回の乗船が10回目となる作家の灰谷健次郎さん。お忙しいなか、今回は台湾までのご乗船。笑いを交えながらの灰谷流「自分探し」を独特の関西弁で語っていただいた。「灰谷さんに会いたい!」という想いで乗船を決めた参加者も多いだけに、講座は超満員のなかで進んでいった。
「『書物から学ぶ』いうのんと『人から学ぶ』いうタイプがあるとすると、自分は完璧に『人から学ぶ』タイプやったと思います。小ちゃい頃、母親が1週間家を空けて、『これで1週間食べとき』と一升の麦を渡されたんです。私はその麦を7等分して、さらに朝・昼・晩と3つに分け、それを兄弟7人で食べました。ところが、あと2日で母親が帰ってくるいう時に、もう麦がないんです。下の弟が全部食べてしもうてたんです。おなかすきましてね。そこで兄が『泥棒しに行こう』って。
2人でトウモロコシ泥棒ですよ。けど捕まってしもて。大きな怒鳴り声に足がすくんだ私の所に兄が駆け戻ってきて、結局2人とも捕まってしまいました。
その大声の主は、私の担任の先生でした。先生は一言も怒らず『どうしたんや。訳を言ってみなさい』。正直に話すと、『辛かったんやな、待ってろ』と。先生は私と兄を自分の家に連れて行ってくれて、貴重な白飯を腹一杯食べさせてくれました。さらに、待っている弟たちのために、おにぎりと自分の家でやってる養蜂場のはちみつも持たせてくれたんです。たった3ヶ月の疎開先の先生がですよ。
小説家になったのも、今の私があるのも、この先生との出会いがあったからです。30年後先生にお会いしたとき、先生の手を握ったまま何も言えなかったんです。けど、ああ生きていて良かったなあって。幸せでした。
人間は何を求めて生きていくんですか? 人間は死ぬまで自分を探して生きていくんやと思います。貧乏だった子どもの頃、物はなくても人と人との助け合いがありました。理屈ではなく、人との出会い。私はいろいろな人に出会って全てに絶望しなくてすんだ。いい人との出会いが自分を作るいうことやと思います。
これからの3ヶ月の航海、様々な出会いを大切にしてください。」
ウェルカムパーティー
出航2日目に行われたのは、船長主催のウェルカムパーティー。
参加者は思い思いのおしゃれを楽しみ、これからの旅の話に花を咲かせた。
会場となったミュージックサロンでは、クルーによるウクラニアンダンスショーやバンドの生演奏が。中でも、社交ダンスを披露した参加者の村松真鈴(11歳)ちゃんは、その見事なステップで会場の目を釘付けに。船旅らしい、ちょっと優雅な時間となった。
 
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