reporter's eye
バックナンバーVol.7
[ISアミーゴス]
 ブエノスアイレスから、14名の若い子たちが乗船してきました――それも、ブラジル、アルゼンチン、チリという3ヶ国から。「ISラティーノス」と名づけられた彼らは、船内では地球大学生たちと講座を開いたり、ディスカッションしたりする忙しい毎日のようです。若い地球大学生たちと、若い彼らが夜遅くまでミーティングを開いている様子も見られます。

 だけど、せっかく日本人がほとんどの船に乗ってきたのだから、ということで、おたがいの文化交流もかねて、毎日少しだけ「交流」の時間をもうけることにしました。そのためのパートナーが「ISアミーゴス」。そう、つまりISのアミーゴ(お友だち)になろうというモノ。ここのところ毎日、お昼の1時間を使って、交流会をしているんです。今日は、「幸せなら手をたたこう」のスペイン語バージョンを教えてもらいましたよ。まだまだ、難しくって歌えませんけど(笑)
 そんな中から、彼らISたちの「習字体験」について話したいと思います。

 習字をやってみたいという声は、最初からありました。墨で、柔らかい筆を使って、あの(彼らにとっては)独特の魔法のような文字『漢字』を書いてみたい、目の前で見てみたい、という思いは強いみたい。この日は忙しい中6人ほどのISが来てくれました。
 最初は先生役の参加者が手本を見せて、次に自分たちでチャレンジ。まずは簡単な「山」とか「川」から始まって、あと多いのが自分の名前や「平和」という文字、でしょうか。ISひとりにつき参加者は1〜2人。それぞれがつきっきりで、自己紹介もしながら、いろんな文字を一緒に書いてみるんです。

 彼らはすっごく楽しそうに、いろんな文字を書いていました。中には「海」や「愛」という難関にチャレンジし、みごと成功した子たちもいました。初めて見る、初めて書く字のはずなのに、みなさんすごく上手なんですよ。
 よくよく見ると筆の持ち方がちょーっと違ってたり、書き順が…なんていうことももちろん、あります。教える側も師範の資格を持っている方からまったくの素人まで、さまざまですからね(笑)だけど、それでもいいんです。和気あいあいとした、笑顔のあふれるいい空間でした。
 よほど楽しかったらしく、ISたちは習字にハマっちゃったみたいです。次の日、彼らはみずから習字を教えてくれる人のところへ行き、いろいろ教えてもらってきました。ひらがなの手本を持ってきて「コピーしてください」と頼む彼らの姿はもう、かわいいものです。あまりのハマリぶりに、次も習字をやろう、ということになったくらいです。

 教えてくださるアミーゴスも、次回を楽しみにしています。それが何より。正直いって、こういう交流というのは私たちスタッフだけが頑張ったって何にも面白くない。参加者の方々と一緒に考え、協力しあって、初めてお互いに楽しめる交流になるはずです。とうとう、GETの語学教師たちからも「みんなで一緒にサンバカーニバルをやりたい」なんていう声が出始めました。これは大変そうなイベントですが、でも、みんなでやったらすごく面白そう――着実に「ISアミーゴス」は増え続けています。
(平井葉子)
[ミリアムさん]

写真中央がミリアム・アングェイラさん
 アルゼンチン・ウシュアイア。ここでひとり、水先案内人が船を降りた。
 彼女の名前は、ミリアム・アングェイラさん。社会問題・政治をテーマにドキュメンタリーを制作している。私は、彼女の企画担当者だった。
 私と彼女の出会いはひとつ前の港、ブエノスアイレス。乗りこんできたばかりの彼女が舷門(船の出入り口)で迷っているところを、部屋まで案内したときだ。つたない英語で話しかけた瞬間、ちょっと戸惑った顔をした彼女を見て「あ、スペイン語の方がいいんだな」とわかった。だけど私は、スペイン語がほとんどわからない。

 言葉が通じないと、船内講座のミーティングひとつするのもけっこうタイヘンだ。しかも、もうひとりの企画担当者の母国語は英語。ミリアムさんが話すスペイン語をCC(コミュニケーション・コーディネーター=通訳スタッフ)が日本語に訳し、その横ではスペイン語と英語の両方ができるスタッフが英語に訳しており…。通訳する分、かかる時間は単純に倍になる。CCさんには、本当にお世話になった。

 ミリアムさんの乗船期間はたったの4日。限られた時間の中で彼女がやりたかったのは講座だけではなく、日本について知ること、日本の文化を体験することだった。特に習字や着物、折り紙が気に入ったみたいで、参加者に折ってもらった"はばたく鶴"を大事そうにバッグに入れてたり、習字の自主企画に参加してみたり。しかも、それを私にいちいち報告してくれて…スペイン語で話しかけてくれる彼女に、やっぱり私はつたない英語でこたえていた。彼女が何を言ってるのか、ホントのところはよくわからないまま。それはそれで、面白かったのだけれど。
 彼女の最終講座は夜だった。話がおわり、みんなが出口に向かいだしたとき、ミリアムさんが突然いった――「オラシミ」。何のことかと思ったら、どうも「おやすみ」と言いたかったらしい…。思い出すといまでも笑っちゃうけど、ミリアムさんは本当に、誠実に、私たちのことや私たちの言葉を知ろうとしていたのだ、と思う。
 逆に、私は正直いって、言葉ができなくってもしょうがないじゃない、と思ってた。もちろん、話せるのが当たり前とも思わない。だけど、いまは。

 出港直前。デッキから下をのぞくとミリアムさんがいた。名前を呼ぶと、ミリアムさんも私を見つけてくれた。「また、船上で会おうね」と伝えたかったのに、スペイン語でどういえばいいのかわからなくて、結局最後までいえなくて、ただただ手を振るしかなかった。
 ほんの少ししか一緒にいられなかったけれど、ミリアムさんのことが大好きだ。次に会うときには少しでも、思ってることを自分で伝えたい――彼女の言語、スペイン語で。
(久野良子)

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