「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)

プロジェクト:核廃絶
「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)国連で発言する川崎哲
国連で核兵器を禁止する初の条約となる、「核兵器禁止条約」の採択が迫っています。日本に暮らす私たちは、その条約をどのように捉えればよいのでしょうか?ピースボートスタッフで、核兵器廃絶国際キャンペーン運営委員(ICAN)を務める川崎哲へのインタビュー前編では、条約の内容や日本が参加しない理由などについて聞きました。後編となる今回は、さらに日本と米国との安全保障をめぐる関係や、世界の中で日本が果たすべき役割などについて詳しく聞いています。

核の脅威はどれくらいリアル?

「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)核兵器禁止条約交渉にて
編集部:核兵器が実際に使われる危機は、どれくらい差し迫っているのでしょうか?

川崎:現在、世界にある核兵器はおよそ1万5000発とされています。最も核兵器が多かった冷戦時代には、米国とソ連を中心に約7万発ありました。当時は、核戦争が本当に起きるかもしれないという危機感が世界的に共有されていました。現在は弾頭の数では減っているので、それほど深刻にとらえられていません。しかし実際には冷戦時代よりも、核保有国は増えています。私は、核兵器が使われる危機は依然として高いと考えています。

また、現代では核兵器を使う可能性のある主体は国家だけでなく、非国家の過激派組織や、さらにコンピューターのハッキングなどといったリスクも増えています。極めて危険な状況なのに、大半の人には「大丈夫でしょう」という認識を持っていて、そのギャップが広がっているように思います。

歴史上、実際の戦争で使われた核兵器は、広島と長崎の2発です。それがいまだに大勢の被爆者の方たちを苦しめている。その兵器が1万5000発あるという事実は、恐ろしいことです。1968年に結ばれたNPT(核不拡散条約)では、核保有を当面許された5大国がきちんと管理をして、減らしていくという約束だったのですが、50年近く経ってもその約束は守られていません。核保有国に任せていたら、あと何十年たってもゼロにならないよということがはっきりしてきたので、非核保有国が率先して核兵器禁止条約の制定に向けて動き出したのです。

核兵器が禁止されることの影響は?

「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)核兵器禁止条約交渉会議で発言するオーストラリアの核実験被害者スー・コールマンさん(左)と広島被爆者のサーロー・節子さん
編集部:核兵器禁止条約が採択されたあと、どのような影響をもたらすと考えていますか?

川崎:核保有国が参加しない条約に何の意味があるのか?という否定的意見がよく出されますが、そんなことはありません。もっとも具体的な効果を生みそうなのが、核開発に関わる資金源が断たれることです。非人道兵器など社会的に問題のある製品の開発に携わる企業に対して、投資をひきあげることは、欧米では一般的に行われています。これは社会的責任投資(CSR)と呼ばれています。

核兵器禁止条約によって、核兵器が公に使ってはならない兵器であることが明らかになれば、金融機関や投資家の中で核開発産業への投資を引き上げる流れができる可能性は大いにあります。

核兵器は、一度作ったら放っておけば良いものではありません。常にメンテナンスやリニューアルを続けて、戦力を維持していかなければなりません。そのときに、どこもお金を貸してくれないので新しい兵器が作れなくなるという可能性は十分にあります。民間の資金の流れが変われば大きな影響力を生むはずです。

安全保障を米国の核に任せるのは「古い発想」

「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)核兵器禁止条約の交渉会議の冒頭で発言する日本被団協の藤森俊希事務局次長(2017年3月27日)
編集部:日本では、「中国や北朝鮮が怖いから、米国の核の傘で守ってもらうのは仕方ない」という世論があります。米国と日本との安全保障の関係で考える場合、本当に核兵器がなくても安全は守れるのでしょうか?

川崎:まずは「核抑止」という考え方についてですが、米ソのような大国同士が核を持ってにらみ合っていた冷戦時代には、ある程度機能していた面があるかもしれません。しかし、あのときから時代は大きく変わりました。テクノロジーの進化によって小国やいわゆるテロ組織なども使う危険性が高まっている。一方で米国の国力や影響力は低下しています。安全保障を米国の核に力に依存していれば安心だなどという時代は、とっくに終わっているのです。日本は米国以外の国とも積極的に交渉して、国際的なルール作りを主導していくべきです。

北朝鮮が核を持ったから日本も核の傘に依存する、という論理では、世界中の国が核兵器を持つべきだということになってしまいます。特に、広島・長崎で核兵器の被害で苦しんだ日本という国がそのような立場を支持するということは、世界中に核兵器を許し、奨励するというような、間違ったメッセージを発することになるのではないでしょうか?

一見すると、条約を作って平和を築くといった話は、「理想主義者が考えるひ弱な論理」のように捉えられがちです。確かにそれで自分たちの安全を守れるのかと不安になるかもしれません。しかし核兵器は、一度でも使われたら大変な惨事を引き起こすものです。核兵器に対して核兵器を持てば安心だなどというのは、実はフィクションでしかありません。現在、北朝鮮が核を開発しているときだからこそ、国際的なルールを定めて核兵器を禁止し、国際社会の監視下に置くことが極めて重要となっています。

日本と米国の関係を問い直すべき

「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)
編集部:ここまでのお話では、米国につき従う日本政府の外交方針に問題があるように感じます。とはいえ、日本が米国抜きで外交を考えられるのかという不安のある人も多いと思うのですが。

川崎:外交については、米国のいいなりになるか、さもなくば敵対関係になるかというゼロか100かで考える必要はまったくありません。友好関係を維持しながら、言うべきことを言える関係に発展させていくべきです。そのような関係をつくることが、実は日本の外交的な地位を高めることにもつながります。

例えば、米国が2003年にイラク戦争を起したときに、フランスやドイツといった国は、米国の同盟国でありながら戦争に大反対しました。でもそのとき反対した国が、その後米国に圧力をかけられて困ったかというと、そのような例はひとつもありません。しかも米国は冷戦時代と違って具体的に締め付けるような力も持っていない。万が一、米国がそういうことをした場合は、国際社会で大問題となり、米国の地位そのものがおびやかされることになります。

核兵器禁止条約に関しても、例えばオランダという国は米国の核の傘で守られているNATOの一員ですが、議会と市民運動が積極的に働きかけて、条約交渉に参加することになりました。同盟関係にあるからといって、米国の意見と100%一致しなければいけないなどということはまったくないのです。

日本にしかできない外交をするべき

「核兵器禁止条約」と日本の外交 − 川崎哲インタビュー(後編)「核のない未来」を想像することからはじめよう
編集部:相対的に米国の力が弱まっている中、日本政府はどのような外交をすればよいのでしょうか?

川崎:古い時代の秩序にしがみついている日本の外交は、完全に老朽化しています。米国の力が落ちてきているのがわかっているだけに、よけいに必死に米国の気を引き、「これまで以上にうちを守って欲しい」とアピールしている状態です。

しかし状況が変わったのだから、複数のオプションを検討して米国との関係を再構築するというのがあるべき姿だと思います。今後、北朝鮮問題の緊張がこれ以上高まれば、最後は外交的解決か、最悪の場合は破局が起きる。このような状況でイニシアチブを取ることなく、これまで通り米国任せでいいのか、ということは日本の中でもっと議論されて良いと思います。
 
日本は国際社会の中でも、安全保障理事国に入りたいというアピールはしていますが、政策的なイニシアチブをまったくとっていません。米国任せなので、存在感がまるでないのです。今回の核兵器禁止条約は、日本の存在感を示せる格好の機会だったのですが、みすみす機会を逃している印象です。

私は単に理想主義を掲げてやっていくべきだという「美しい話」をしているわけではありません。外交の世界では、得意分野を活かして国際社会のイニシアチブをとるということは当たり前です。例えば北欧各国は人道主義を掲げ、紛争地の人道支援などを行っていますが、長い目で見れば自国の国益になるという思惑があってやっていることです。そしてそうした努力が、小国にも関わらず国際社会で高い評価を受けたり、国の安全保障にも有効に働いています。

日本が経験した広島・長崎の悲劇は、世界のどの国も経験していないことです。ある意味で、外交的な遺産ととらえることもできる。事実が重いからこそ、そのようなことを繰り返さないために、日本が核兵器禁止に向けて本気で行動するのであれば、国際社会からとても説得力をもった動きと受け止められるでしょう。しかし、日本が国際社会の場で「核の傘は必要」という態度をとり続けることで、その遺産を活かすことができていません。日本はもっと、日本にしかできない外交をすべきではないでしょうか。

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