「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)

プロジェクト:核廃絶
「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)核兵器禁止条約交渉会議でNGOとして発言する川崎哲(右)
国連で核兵器を禁止する初の条約となる、「核兵器禁止条約」が議論されています。しかしこの条約交渉に日本が参加しないということが話題になりました。7月にも採択されるとみられるこの条約とはどんなものでしょうか?ピースボートスタッフで、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の運営委員を務める川崎哲に、その内容や、日本が参加しない理由、そして背景にある北朝鮮の核の脅威をどうするかについて聞きました。

核兵器禁止条約とは?

「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)(写真:「ブラボー」水爆実験の様子)
編集部:まず、「核兵器禁止条約とは何か」について簡単に教えてください。

川崎:核兵器は今まで、国際社会では必要悪といった位置づけになっていました。持ってはいけない国を定めたり(NPT)、核実験を禁止したり(CTBT)など、部分的な禁止はしてきましたが、今回はそれらとは異なり、核兵器を全面的に禁止するということを人類の歴史上初めて定めます。

核兵器禁止条約のスケジュールは、2017年3月に交渉が始まり、7月に条約ができあがるという見通しでスピーディーに進んでいます。

約50年前に締約されたNPT(核不拡散条約)によって、世界は核を持っていい国といけない国とに分けられました。そして持っている国は、核兵器を減らす義務があるとされていますが、条約締結から約半世紀が経った今でも世界には1万5000発もの核兵器があり、なくなりそうもありません。

今回の核兵器禁止条約は、このまま核兵器を持っている国に任せても何も変わらない、と感じた核を持たない国々が、もっとトータルで禁止する枠組みをつくろうと頑張った結果だと言えます。

採択されるとどうなる?

「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)
編集部:核兵器禁止条約が採択されたあと、具体的にどのような動きになるのでしょうか?

川崎:大切なのは、条約が採択された後です。最初の段階では、条約の採択によって、核兵器は絶対悪であるという国際的なルールが作られます。

次の段階として、核をどのようになくしていくかという過程を段階的に具体化し、それが適切に行われているかどうかを検証する制度を追加で盛り込んでいく必要があります。

国際条約の世界では、たとえば地球温暖化の問題に対する気候変動枠組条約でも、条約が成立して終わりではなくて、具体的なことを議定書という形で追加していますが、それと同じようなことです。

なぜ日本政府は参加しないのか?

「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)「条約交渉には参加できない」と表明した日本の席上には核廃絶のメッセージ入りの折り鶴が置かれていた(2017.3.28)
編集部:日本政府は、核兵器禁止条約の交渉に参加していません。なぜ「唯一の戦争被爆国」である日本は加わらないのでしょうか?

川崎:参加しない理由として、日本政府は「条約を作るのは時期尚早だ」、つまり「まだその段階ではない」と言っています。核兵器をなくすには、やはり核兵器を持っている大国間で交渉を続け、減らしていくのが最も効果的だという立場です。

その交渉が順調に進み、世界から核兵器がほとんどなくなる寸前までいったら、禁止する条約を作ってもいいと。

でも先ほど言ったように、それでやってきて進まなかった。核兵器禁止条約を提案した国々からすると、大国の交渉を待っても期待できないから、先に「核兵器は国際的にダメなものだ」ときちっとしたルールを定めていこうとなったのです。

編集部:国連では日本政府も毎年、核兵器の全面廃絶を求める「核兵器廃絶決議案」を提案して採択されています。これとはどう違うのでしょうか?

川崎:この決議案は核保有国にも賛同してもらうために、廃絶するための期限や具体的な方法、ペナルティなどを定めていない宣言のようなものです。

これに象徴されるように、日本政府は核保有国と非核保有国の溝が深まるから、対立を助長するような、拘束力のあるものは避けたほうが良いという立場をとっています。

でも意見の対立をひたすら怖れていては、国際政治を動かすことはできません。なくす努力をしない核保有国に対して、まわりの国が「なくしてよ」と要求するなら、多少のプレッシャーは必要になります。

そのために、核保有国が怒ることもあるでしょう。でもそれが交渉というものであって、意見が対立したからといって戦争に発展するようなことではありません。

核保有国が参加しない条約で実質的な効果があるのか?と疑問視する人もいます。しかし核保有国は、この条約に対してかなり強い口調で反対演説をしています。効果を上げているという証明です。効果がなければ無視していれば良いわけです。

北朝鮮の核をどうするか?

「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)2016年10月20日、ニューヨーク国連本部前
編集部:北朝鮮の核が怖いから、日本は米国の「核の傘」に入らざるをえないという意見があります。

川崎:日本政府の立場としても、むしろそちらの方が本音だと思います。「核兵器がなくなると日本の安全が守れない」という認識を持っているからです。しかし、私は核兵器禁止条約をつくることが、北朝鮮をも巻き込む安全保障の一定の土台づくりになると考えています。

「北朝鮮の脅威を考えたら、核禁止条約は現実的じゃない」と言われますが、そういう人たちも北朝鮮を封じ込めるための具体的なアイデアがあるわけではありません。

いま世界で核兵器を持っている国の状況を考えると、私は、北朝鮮が最初に核を手放す国になる可能性が少なくはないと考えています。それは外交的な取引の中で核を手放すということですが、そうなったときに口約束をしても実際に手放していると検証できないと意味がありません。そこで核禁止条約に入ってもらえば、チェックをすることができます。

心理的には、「北朝鮮が怖いからこっちも核を持つべき」というのはわかりますが、実際にはこちらの方が効果的なはずです。さらに、北朝鮮、韓国、日本が一度に核兵器禁止条約に入れば、東北アジアの安全保障は飛躍的に高まります。条約ができた後は、そういった発展をさせていくべきだと思っています。

「怖いから核兵器を持つ」では安全にならない

「核兵器禁止条約」と日本の安全 − 川崎哲インタビュー(前編)2011年2月、第72回ピースボートでタヒチに寄港した日本、オーストラリア、タヒチの「グローバル・ヒバクシャ」一行
編集部:核に対して核を持っても、必ずしも安全にはならないということでしょうか?

川崎:多くの人は、「北朝鮮は何やるかわからないから怖い」と思っています。確かにそれは間違いとは言い切れません。しかし、じゃあトランプ政権はそんなに信頼できる存在なのでしょうか?

突然シリアを空爆したことでもわかるように、私はこちらも相当危ないと思っています。核戦争も、絶対に起こさないとは言い切れません。本当に起きてしまったら誰も責任が取れないのに、どうするのかということですね。

私たちは、報復には報復、武力には武力というやり方では安全にはならないと言い続けてきました。核兵器開発競争も、悪循環のいたちごっこを繰り返すだけです。実際に米国は安全保障を理由に2001年にアフガン戦争、2003年にはイラク戦争が起こしましたが、その結果としてIS(イスラム国)が登場し、むしろ当時より世界は危険な状態に陥っています。

そもそも軍縮というのは、安全になったから軍備を減らすということではありません。安全をもたらすために、軍備を減らすのです。米国は誰もが銃を手にできる銃社会ですが、安全な社会になっていると言えるでしょうか?

もちろん日本でも暴力団が銃で事件を起こすことがあります。だからと言って、日本でもみんなが銃を持てるようにすべきだとはならない。

核も同じです。核兵器を持つ国がいる限り、潜在的に他の国も核を持とうとします。一部の国だけ特権を認めるのではなく、核兵器を国際的に良くないものと規定して、それを禁止することで安全にしていくという核兵器禁止条約の歩みは、「お花畑の理想主義」でも何でもなく、核抑止論よりは遥かにリアリティに基づいているのではないでしょうか。

(後編につづく)

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