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【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
川上泰徳さん
中東ジャーナリスト川上泰徳さんへのインタビュー最終回となる今回は、難民が危険を冒して海を渡ってくる理由や、中東で起きている問題に日本の人々がどのように向き合うべきか、について語っていただきました。難民を受け入れるべきかどうか、という議論がありますが、「世界の中の日本の役割」という視点からは、何が見えてくるのでしょうか?
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川上泰徳さん
中東ジャーナリスト川上泰徳さんへのインタビュー最終回となる今回は、難民が危険を冒して海を渡ってくる理由や、中東で起きている問題に日本の人々がどのように向き合うべきか、について語っていただきました。難民を受け入れるべきかどうか、という議論がありますが、「世界の中の日本の役割」という視点からは、何が見えてくるのでしょうか?

難民は「快適な難民生活」を求めているわけではない

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
子供を連れて密航を試みているシリア人の家族= イスタンブールのアクサライで(©川上泰徳)
編集部:難民問題やイスラム国の問題に対して、日本ができる事は何かについて伺います。

川上:日本が取るべき道は、イスラム国(IS)との戦いを非軍事的であれ支援することではありません。混乱した社会を正常化するために、やるべき事がたくさんあります。

例えば雇用の創出とか地域開発といった、地域の将来をつくるようなことです。そしてそこに若者が参加できるような枠組みをつくることをやるべきです。

UNHCRによれば、欧州に渡る難民数は昨年末の時点で95万人になります。そのうち子どもは24%で、女性が16%います。合わせると40%です。そこには当然父親もいるから、家族連れが半数以上だと考えた方がいい。

父親だけが先に行って、後から家族を呼び寄せるような人が多い事を考えると、ぼくは難民の3分の2くらいは家族だと考えています。彼らの多くは、難民生活を何年も続けても将来が開けないから、子どもの将来を考えて、危険を冒して海を渡っているのです。 

日本は、周辺国の難民キャンプに資金援助をしています。それ自体が悪いとは言いませんが、どれだけキャンプ生活が充実しても、それは難民の究極的なニーズではないと理解した方が良いでしょう。

彼らは「快適な難民生活」を望んでいるわけではありません。求めているのは仕事や子育てできる環境、そしてちゃんと子どもに教育を受けさせる事です。彼らはずっと難民だったわけではありません。

特にシリアはつい数年前まで普通の暮らしがあり、難民のほとんどは普通の市民だった人たちです。社会生活を取り戻したいけれど、故郷では難しそうだから欧州に行こうと考えて海を渡っている。

だから日本が果たすべき役割は、人々に働く場と生活の場を与えるということです。周辺国のキャンプにお金を出しても、海を渡る難民の流れは止まりません。日本の難民支援は難民の思いと食い違っている、というのが取材の現場から見えてきたことです。

国際社会でいいとこ取りするわけにはいかない

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
ピースボート船上で講義をする川上さん
編集部:日本が果たすべき役割は大きいですね。

川上:行動すべき理由は、日本が世界の主要国だからということもありますが、それ以上に、この国は世界に対していろいろなものを依存しています。中東には石油を依存しているだけではなく、食料や製造業など、世界を相手に貿易しなければ生きていけない。

去年だけで100万人が海を渡っている事態というのは、世界史上で例のない大変な危機です。それを国際社会全体で対応していこうとしている。だからこそ、この危機に対して日本はもっと敏感じゃないといけない。

ぼくからすれば、日本はこの事態を自分の問題としてとらえる意識が低すぎると感じます。この問題が広がれば、危機は必ず日本にも及んでくるのですが、そのときあわてても遅い。危機を前にして積極的に対応するのは当然です。

それが日本にとっても、安全保障になる。それをせず、難民は受け入れないけど必要な物だけ外から入れる、という「いいとこ取り」の姿勢は通用しません。

難民を受け入れることで、世界と問題を共有する

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
トルコ西部のイズミルの近くにある海岸から望むギリシャの島。難民たちは5キロほどの海を深夜、ゴムボートで渡るという(©川上泰徳)
編集部:できる事の中には、難民を日本に受け入れるということも含まれてくると思いますが、それについては多くの課題もあるように思います。

川上:もちろん、シリア難民を受け入れるというのは口で言うほど簡単ではありません。日本には、難民を受け入れてきた経験がほとんどない。イスラム教徒に対する理解も進んでいない。欧州で起きているように、いろいろな軋轢も出てくるでしょう。受け入れない言い訳はいくらでも挙げられます。

それでも世界の先進国は必死に向き合おうとしています。欧州だけではなく、カナダもオーストラリアもニュージーランドも、割当てを決めて受け入れましょうと宣言した。日本だけが問題を共有せず、「年間10人しか受け入れませんよ」という態度は許されません。

しかも日本は安保理に入ろうとしている。その国の首相が国連で難民問題について聞かれても、トンチンカンな答えしかできない。それで良いんですか?という話です。

受け入れた経験がない、というのは理由にはなりません。経験がない方がおかしいのです。難民を組織的に受け入れてていくことで、難民問題を世界と共有し、イスラムとの関わり方も理解できるようになってきます。

すぐに大勢受け入れるのは難しいでしょうが、100単位の家族からでも受け入れられる体制を作ることから始めるべきでしょう。

今は、世界から日本が外されてしまっている状況です。だから「じゃあお金だけ出してね」という扱いをされてしまう。日本の最大の問題は、「世界と問題を共有していないことに危機感を持っていない」ということになります。 

難民問題を通して国際社会と意識を共有することは、本当に大切です。もちろん積極的に受け入れているドイツでも、これからもいくつもの困難があるでしょう。でもドイツは、その危機を乗り越えることで社会の経験値が高まっていく。

日本はこのままでは、経験値がすごく低いままです。こういう平和的な問題は、もっと日本が積極的に関わっていかないといけません。政治家だけではなく、一般の人たちも関心が薄いように思います。

状況は日々、ネットやニュースで入ってきますから、何も知らないということはないでしょう。行動を起こす人が少ないのは、単に関心がないからではないでしょうか?

「受け入れるべきではない」という批判

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
中東からの密航希望者が集まるイスタンブールのアクサライ。アラビア語が飛び交う(©川上泰徳)
編集部:難民を受け入れるかどうかについては、異論もありますね。

川上:ぼくが「日本も難民を受け入れるべきだ」と言うと、毎回ツイッターなどで批判してくる人がいます。批判のひとつは、「日本でも困っている人がいるのに、外国の困った人を優先するのか」というものです。

先ほど言ったように、日本の人は生活しているだけで国際社会に大きく依存しています。日本人が普通に国内で生活していることさえ、外とのつながりがなければ生きていけません。だから国境という概念で「内と外」という分け方をしても意味がないんです。

もうひとつ別の反論として「日本だって苦しいのだから、人道的な見地だけで支援はできない。そんな余裕はない」というものがあります。でも、これは「人道的」かどうかという問題ではありません。

「良いことをするか、しないか」という議論になると問題を取り違える。これは国際社会の中で、誰かが引き受けなければならない責任の問題です。日本が生き残っていくために戦略的にするべきことと言ってもいい。「日本だけそこには目を向けないんだ、見ない事にしていればいいんだ」、などという発想はまったく通用しません。

世界と自分をつなぐ、ピースボートの役割

【interview】日本は難民を受け入れ、世界と問題を共有すべき-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(3)
編集部:今の反論の話にも関係していますが、ピースボートの立場から見ても、日本の人が年々内向きになっている感じがします。日本だけ見ていればいいんだというような発想が広がってきているのではないかと。

川上:ぼくの周りでも日本の外には出たくない、という若い人は多いですね。外国は怖い、というイメージもある。でも日本はそういう国に支えられているのだから、無視することはできません。外に目を向ければ、知ったつもりになっていたことでも実は知らなかった世界が広がっている事がわかります。

留学したりピースボートに乗ったりすれば、そのような世界が広がるのですが、最近は社会の中で外国に行く動機が見つけられなくなっているのかもしれません。かつては海外の情報そのものが希少でした。でも今はいろんな情報がネットなどで手に入るから、外国のことは分かったつもりになって、自ら実感しようとする動機がなくなってしまうのです。

ピースボートは、船に乗った人に対してはいろいろなテーマを提供していると思うのですが、日本での発信がまだまだ改善の余地があるような気がします。もっと日本国内で、海外情報へのアクセスの仕方を発信する必要があるのではないでしょうか?それをやらないと海外情報に無関心になっている人たちが多いという状況は変わりません。

ピースボートが日本でもそのあたりを耕していくことで、一人一人が関心のあるテーマを見つけたり、実際に見てみようという興味が湧いてくる。それがないと、せっかく船に乗っても普通の海外旅行で終わってしまう人もいるかもしれません。

また船では関心を持ったとしても、日本に戻ったら関心がなくなってしまう人もいる。船に乗る前にどういう情報を提供できるか、そして船から降りた人については、世界を直接体験してそれを日本の日常の中で世界への関心としてどうつなげていくか、という働きかけをしていくことが大切だと思います。 

そういう意味では、世界と自分とをつなぐ場としてピースボートは発展が見込めると思っています。実際に世界の現場を訪れて発見する機会は、日本にはあまりありません。その場を提供しているピースボートは、重要な役割を持っているのではないでしょうか。

※川上泰徳さんの2016年最新刊『中東の現場を歩く:激動20年の取材のディテール』(合同出版)についてはリンクをご覧ください。

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