【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)

プロジェクト:パレスチナ・中東 寄港地エリア:中東
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【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)川上泰徳さん
中東ジャーナリスト川上泰徳さんへのインタビュー2回目は、世界が注目するイスラム国(IS)の問題を取り上げます。イスラム国はなぜ生まれたのか、そしてシリアなどを中心に犠牲者が増え続ける中で、どのような対策をすればいいのかについてお聞きしています。

イスラム国はなぜ生まれたのか?

【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)イラクのラマディで米軍の銃撃で死んだ若者の弔問にあつまった部族関係者=2003年7月、ラマディにて(©川上泰徳)
編集部:難民が大量に発生している理由の一つが、世界が注目するイスラム国(IS)の存在です。イスラム国はどのように誕生したのでしょうか?

川上:2つの要素があります。一つは、イスラム教徒の中の厳格主義者で戦闘的な人たちです。彼らは「サラフィー・ジハーディ」と呼ばれています。イスラム国が生まれたイラクでは、かつてサダム・フセイン政権の時代には厳格主義者も、戦闘的な人たちもどちらもいませんでした。

フセイン政権は宗教的ではなく世俗的だったので、イスラム厳格主義の組織が育ちませんでした。また軍事独裁国家だったことで、アルカイダのような武装闘争をするグループも入って来れなかった。

ところが米国が2003年にイラク戦争を起こしたことで、イラクが紛争地になりました。混乱する社会で家族の命を自分で守る必要に迫られ、個人レベルで銃を持つ人が増えました。当然、外国から過激派も入ってくる。またスンニ派とシーア派の宗派間の対立も激化する。そんなふうに、イラク全土が軍事化していったのです。

特に、イラク戦争後に生まれた米国主導のシーア派政権(多数派)のもとで冷遇されたスンニ派(少数派)の地域では、政権への不満が高まりました。政権側に利権が独占されたからです。

このように、米国の起こした戦争とその後の占領政策の失敗がイラク社会の軍事化を推し進め、スンニ派勢力が過激化し、軍事化して、イスラム国の誕生を促したという面があります。

若者たちの不満が過激主義をもたらす

【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)バグダッド西方の町ラマディに駐留した米軍車両=2003年7月(©川上泰徳)
編集部:イスラム国が生まれ、多くの若者が参加するようになった理由は何でしょうか?

川上:イスラム国が生まれたもうひとつの要因は、アラブの春です。独裁政権に対して若者たちが反乱を起こし、チュニジアやエジプトでは政権を倒しました。リビアやシリアでも内戦状態になった。

アラブの春を起こした若者たちのスローガンは「公正さ」です。アラブで格差が広がり、格差と権力が結びついています。そこを何とかしたいという若者が行動を起こしました。貧しい物売りの青年が自殺したことから始まったチュニジアの政変は、その典型です。

公正さというのは、イスラムが大事にしてきたことでもあります。かつてはその公正さを求める政治体制は社会主義でした。でも社会主義が力を失った今、世直しのスローガンを実現できるイデオロギーは、イスラムになっているのです。 

だから政権を倒した後で選挙をすると、公正な社会を実現しようとしているイスラム組織が政権を握ることになります。ところがこれまで権益を握っていた人たちからすると、公正な社会を実現されると困るわけです。

軍は強権時代の富裕層とつながっていますから、イスラム組織や公正さを求める若者たちは軍に潰される。それが分かりやすい形で起きたのがエジプトです。ムスリム同胞団という穏健なイスラム組織が軍に潰されたから、今度はより過激なイスラム組織が台頭してくるという悪循環が起きています。

シリアでは平和的なデモが政権によって武力制圧されたことで、内戦化していきました。政権に抵抗していく中心的な役割を、イスラム組織が担いました。それとともに、イラクからイラク戦争後に生まれたイラク・イスラム国(のちのイスラム国)が入ってきました。

まとめると、イラク戦争後にアルカイダ系組織が米軍と戦うためにイラクに入り、スンニ派勢力と結びつく。それがシリアに入り、アラブの春の若者のエネルギーを吸収する形で肥大化する。その流れの中でイスラム国が形成されてきたということになります。

空爆をしてもイスラム国はつぶれない

【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)カイロのタハリール広場のデモにきたエジプト人の親子連れ=2011年2月(©川上泰徳)
編集部:そのイスラム国対策として、米国やロシアなどは空爆を続けていますが、事態は一進一退です。抜本的に解決するにはどのような方法があるのでしょうか?

川上:イスラム国対策として空爆をしてもほとんど意味がありません。先ほど言ったように、この問題が広がった原因にはアラブの春で噴き出した若者問題があります。アラブ世界では人口の半分が20代です。

そして彼らの多くが失業しています。そんな状況に矛盾を感じた若者たちが起こしたアラブの春は、中東民主化に希望を与えたかのように見えましたが、結局は力でつぶされました。そこで若者の中の一部が、過激なイスラム国に流れている。

一時的に軍事力でつぶしたとしても、不満を持っている若者はアラブ世界のどこにでもいます。イスラム国が排除されたとしても、彼らは別の組織に流れるだけです。だから、イスラム国や過激な武装組織に参加する若者たちが抱える不満を解消する働きかけをしなければいけない。

今は中東全体が軍事化しています。政府による弾圧が激しさを増し、紛争が起こり、外国からの武装勢力が侵入している。そこで欧米などが空爆という軍事的選択をとり続けることは、軍事化のレベルを高めることにしかなりません。空爆をしても暴力は拡散していくだけなので、非軍事的な解決策を探らないといけません。

本質的なイスラム国対策とは

【interview】空爆は「イスラム国」対策にならない-中東ジャーナリスト川上泰徳さんに聞く(2)ムバラク大統領の辞任を求めて、カイロ(エジプト)のタハリール広場を埋めた若者たち2011年2月(©川上泰徳)
編集部:ではどのような対策を取るべきでしょうか?

川上:例えばイスラム国を支持しているスンニ派部族の地域と積極的に関わって、イスラム国を支持しないでいいように支援し、働きかけるという方法があります。

イラクのスンニ派の失業率は、政権を主導するシーア派の倍くらいあります。その不公正な構造を変えないと、イスラム国を支持する人たちは減りません。シリアにしても同様です。

若者たちが望んでいるのは、仕事を持って結婚して家族を持って、という誰もが望むようなごく普通の人の願いです。それができなくなっているからどんどん過激化しているのです。 

ぼくはイラク戦争の直後から現地に入り、米軍の対テロ戦争が地域を荒廃させていく姿を目の当たりにしてきました。今のイスラム国対策を見ても、同じことを繰り返しているようにしか見えません。

国際社会が真剣に取り組むべきことは空爆ではなく、イラクとシリアの社会を正常化することです。一人でも多くの若者が、将来への希望を持てるようにするにはどうしたらいいかを考えることなのです。そう考えたら、日本のできること、やるべきことはたくさんあるはずです。

※川上泰徳さんの2016年最新刊『中東の現場を歩く:激動20年の取材のディテール』(合同出版)についてはリンクをご覧ください。

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