グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)

寄港地エリア:ヨーロッパ クルーズ: 第92回 地球一周の船旅
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グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)この夏は、世界中の教育現場へ!
「世界中の教育現場を見て、子どもの未来について熱い想いを持った人に、教育界で活躍してほしい!」。そんな情熱から、国際NGOピースボートと教育NPOコアプラスがタッグを組み、新たな試みを始めます。その名も「グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)」。本インタビューでは、そのコーディネーターとして乗船する武田緑(たけだみどり)さんに話を伺います。聞き手は、洋上のモンテッソーリ保育園「ピースボート子どもの家」スタッフの小野寺愛(おのでらあい)です。

「働くのは、社会で自分を生かすため」

グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)デンマークのフォルケホイスコーレにて
小野寺:グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(以下GTC)では、洋上でのトレーニングプログラムと寄港地での教育現場視察が2本柱になっています。インタビュー前編で、そのプログラム内容をご紹介いただき、中編では、シンガポールの教育事情を伺いました。

本編では、旅のハイライトともなる北欧とオランダの教育について伺います。武田さん、北欧は、教育だけでなく、社会福祉制度全般が手厚いことで有名ですね。

武田:はい。日本でなら、働く理由の第一は「生計を立てるため」「子どもの教育やじぶんの老後のため」ということになりますよね。でも、高福祉の北欧では、教育や老後の心配はとても少ない。

失業者にも手厚い保障があるので、生活が底崩れしてしまう不安はほとんどないようです。貯金もほとんどしない。ちょっと貯まったらすぐ旅行に行くのだそうです(笑)

小野寺:お金のために働く必要がなかったら、「なんのために働くか」は、イコール「生計を立てるため」ではない。哲学的な問いになりますね。

武田:そんな制度があったら国民全体が怠け者になるんじゃないかと考える人もいますが、そうではない。フィンランドで出会ったある人は「自分が働くのは、自分の学んできたことを社会で生かすためだ」と言っていました。

「働かなくても暮らしていけるとしても、それでは人生が面白くない。仕事は楽しいよ」と。

小野寺:暮らしの安定が保証されていれば、大人たちは「ほっといても働く」わけですね。お金のためではなく、社会のために動くのが楽しいから、と。豊かですね。

教室や学校を、もっと「生活の場」に

グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)
武田:そうですね。同様に、本来、子どもたちも、「ほっといても遊び、学ぶ」存在だと思います。でも、残念ながら日本の、特に都会には、自然豊かな環境も、大人に「ほっといてもらえる」環境も、少なくなってきています。

子ども時代に豊かな経験を積めるかどうかは、生まれた家庭環境に左右されてしまう。

小野寺:確かに。日本の都会で、すべての子どもたちに「体験」の機会を届けるために、例えば学校の先生たちにできることって、何でしょうか。

武田:総合的な学習の時間などももちろん活かせると思いますが、教室の中や学校の中をもっと「生活の場」としてデザインするということが必要なのではないかと思います。教科書に載っていることを覚えるだけが学びではないですよね。もっと家庭や地域での暮らしと、地続きのものだと思います。

小野寺:本当に。今回、オランダで訪れる予定の「イエナプラン教育」では、教室を「リビングルーム」と捉えていると聞きました。

武田:そうなんです。イエナプランの学校において、教室は「無機質な勉強部屋」ではなく、自分たちで居心地のよい、学びやすい環境を整えていく空間です。

日本では「学校に遊び道具を持ってこない」というルールに象徴されるように、「学校でふさわしい振る舞い」や「学校での感覚」と、それ以外の日々の暮らしの感覚には、断絶があるように思います。
  
イエナプランの学校の教室は、「おうちの感覚」「暮らしの感覚」を、教室に持ち込んでいくようなイメージ。子どもたちも、友達に見せたいものやもっと知りたいものを、物理的にも、テーマ的にも、気軽に持参します。見た目にも明るくて、とても素敵ですよ。

「子どもの幸福度世界一」を生んだ「教育の自由」

グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)オランダのイエナプラン校視察時の様子
小野寺:面白いですね。イエナプランの他にも、特色ある教育が多い国なのでしょうか?

武田:オランダは、ユニセフの調査で子どもの幸福度が世界一となり注目されています。「教育の自由」があるというのが特徴で、教育理念を掲げて一定人数を集めると学校を設立でき、運営費も助成もされるので、 それによって多種多様な学校ができています。

自転車で通えるエリアにそれぞれ特色の違う学校が複数あって、子どもと保護者は自分たちの考えかたにあう学校を選ぶことができます。

私が過去に見学させてもらったイエナプランの学校は、3階建てのビルの1階だったのですが、2階はダルトンプラン、3階はカトリック、と同じビルに他にも2つ学校が入っていました。あれは驚きましたね。

小野寺:いわゆる「オルタナティブ」な学校が、とにかくたくさんあるのですよね。公立の学校は、どんな雰囲気ですか?

武田:オルタナティブ教育が一定の影響力をもっていることが、メインストリームの教育にも影響を与えていて、一人ひとりに合わせた支援をするという「個別化」と、友達とともに学び合う「協同化」の両方が進んでいるようですね。

ただ、公立のオルタナティブスクールもありますし、日本のように公立、私立、という分け方にはあまり意味がないのだと今回現地コーディネーターとして協力いただいているリヒテルズ直子さんから教わりました。

小野寺:公立でも、オルタナティブスクールでも、親子で選んだ学校に無料で通うことができる。いいなあ。

武田:オランダの教育事情については、私は現地在住の教育研究者、リヒテルズさんから多くを学ばせていただきました。今回、GTCでオランダを訪問する際には、そのリヒテルズ直子さんも同行してくださいます。

小野寺:それは、充実した滞在になりそうですね!オランダの見どころはどんな点ですか?

イエナプラン学校の魅力

グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)自分で学ぶ時間も、個人の机ではなくみなで囲んだテーブルで学習
武田:やはり、イエナプランの学校ですね。イエナプランの特徴は、前述した「リビングルーム」での異学年混合クラスと、「自立と共生」の哲学。

自分で計画を立てて自分の学習をする時間と、皆で学ぶプロジェクト学習=ワールドオリエンテーションなどがあります。自分で学ぶ時間も、個人の机ではなくみなで囲んだテーブルで。教えあい、学びあいをしながらそれぞれに学習する風景や、学びの中で対話が大事にされていることが、印象的です。

小野寺:家庭のような雰囲気でリラックスして、自立した学びを行う環境。羨ましいです。

武田:私は「どんな人も、世界にたった一人しかいない人です」という一文からはじまる、「イエナプラン20の原則」を読んで本当に感動しました。この原則には、一人ひとりにかけがえのない価値があるという「人間観」と、こんな世界にしたいのだという「社会観」がある。

それがあってはじめて、「だから学校はこういう場なのだ」という哲学が導き出される構成になっているんですね。学校とか教育って、本来そうやってつくられていくものだよなぁって思って。

小野寺:なるほど。それは訪問が楽しみですね。他には、どんな場所を視察するのでしょうか。

武田:着いたらまずハーグへ向かい、学校を何校か見学します。「ピースフル・スクール」という、校内のもめごとや対立の解消を子ども自身ができるようになるためのプログラムを導入している学校や、生徒の半分以上が移民、という学校などを見学する予定です。

オランダは移民を多く受け入れてきた国。移民問題は、日本もこれからは他人事ではありません。多文化の子どもたちが共生する学校のあり方を考えることも、これからの日本を考える上で大事だと思っています。

教育を学校だけに任せないこと

グローバル・ティーチャーズ・カレッジ(GTC)コーディネーター、武田緑さんに聞く「これからの教育者に必要な力」(3)
小野寺:そういう話を聞いていると、学びの場が、現実の暮らしと地続きであるところに共感します。そんな場づくり、日本の学校でもできるでしょうか?

武田:日本でも、素敵な取り組みはたくさんあると思います。ただ、学校発の取り組みには、どうしても「評価」がつきまとうので、それによってせっかくの子どもたちの体験や感じたことが、矮小化されて面白くなくなってしまうことも多いとおもいます。

先生たちも大変で「見栄えよくまとまった実践」を求められるがゆえに、体験活動自体の自由度が下がってしまうこともよくあると思います。

小野寺:面白いなと思う実践もありますか?

武田:もちろん。手前味噌ですが、「暮らしづくりネットワーク北芝」というNPOで、まさに、地域での暮らしの中で多様な学びの機会をつくる仕事をしていたことがあります。

子どもたちが地域で稼いで使える地域通貨「まーぶ」というのをつくって、子どもたちが「まーぶ」を媒介として、多様な「遊び」と「学び」にアクセスできる環境をつくっていました。

地元の学校とも連携しているNPOだったので、提案しようと思えば早々に学校を巻き込んだ取り組みにすることもできたかもしれませんが、あえてしませんでした。あくまで、学校生活ではなく、地域生活の中に位置付けたかった。

小野寺:なるほど。学校の時間内に体験活動を取り入れよう、という路線ではなくて、学校そのものを地域に開いていこうという考え方でしょうか。

武田:そうですね。ほんとは学校はもっと小さくなったほうがいいんじゃないでしょうか。学校に全部やらせようとすると、苦しくなると思います。

小野寺:学校にすべてを任せず、うまく保護者や地域に開いている成功例など、あるのでしょうか?
 
武田:たとえば、千葉の秋津という町では、学校の活動を地域が支援したり、学校を拠点にして、とってもおもしろい地域活動が展開されています。

秋津では、元PTA会長の岸裕司さんという方が呼びかけ、「子どものために」という”正論”からスタートするのではなく「学校を基地に大人も遊ぼう!」などと嘯きながら、お父さんたちが中心になってまちづくりを始めました。

学校の菜園をつかって地域の人が趣味の園芸を楽しんだり、ドラム缶風呂を作って、「こどもらも入れ~」とか。そのかたわらで、大人はプシュッと一杯…なんていうふうに、地域の一部として、地域の人々が出会う”交差点”として、学校がいきいきとした活動を生み出す場になっている。

学校をハブにして地域を再構築するような取り組みです。そういう環境の中で、結果として子どもたちの生きる力が育まれていく。ほんとに素敵だなと思います。

小野寺:GTCは、寄港地で、現地の学校や教育機関を訪れて取り組みを視察したり、その国の子どもたちを取り巻く社会環境や教育システムについて学べるのが魅力です。一方で、日本にも、素晴らしい取り組みがいくつもあること、あらためて浮き彫りになることもありそうですね。

武田:はい。その国の教育のよい部分や、具体的な取り組みを学ぶことはもちろんですが、他国と日本を比べることによって国のあり方や社会システム、文化そのものを相対化して眺めることができるようになる。

船内での事前学習や、事後の振り返りなどもしっかりと行う中で、日本の教育の現状についての理解を深めることができます。
 
小野寺:共に旅する仲間との時間も、貴重なものになりそうですね。

武田:同じ現場を見ても、思うこと・感じることは十人十色。そこからお互いが学び合うことで、現場で実際に子ども達に対して持てる手立ての選択肢も広がっていきますから。

小野寺:参加を考えている人に、背中を押す一言をお願いします。

武田:世界や社会がどうなっていくか不透明なこれからの時代に、教育の世界に飛び込んでいく人たちには「教育観を広げ、磨くこと」と、「現場でサバイバルするための力やスキルを身につけること」の両方が絶対に必要です。

GTCではピースボートの地球一周の船旅の中という特殊な環境を最大限に活用しながら、この両方にしっかり取り組んでいきます。これは、国内はもちろん、留学したってなかなか得られない貴重な経験・機会です。 ぜひ一緒に3ヶ月間学びましょう。

小野寺:ありがとうございました。

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北アイルランド / 1976年ノーベル平和賞受賞者
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