ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)

プロジェクト:「旅と平和」エッセイ大賞 寄港地エリア:ヨーロッパ クルーズ: 第87回 地球一周の船旅
ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)濱田直翔さん。洋上大運動会団長を務めたときの様子。
第9回エッセイ大賞で大賞を受賞した濱田直翔さんが、その後ピースボートの船旅(第87回地球一周の船旅)に乗船しました。その船旅で最も印象に残ったアウシュビッツ平和博物館(ポーランド)を訪れた際の話を当ホームページに寄稿していただいたので、ここに紹介いたします。

※濱田さんのエッセイは、下記のおすすめ記事「第9回エッセイ大賞入賞者発表」からご覧になることができます。また、第10回エッセイ大賞の大賞は、アウシュビッツについての作品が選ばれました。合わせてご覧ください。

負の世界遺産・アウシュビッツ強制収容所

ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)アウシュビッツ強制収容所跡地が、平和博物館になっている
この広い世界を旅するには、様々なスタイルがある。

歩き、ヒッチハイク、バックパッカー。僕自身、色んな形で旅をしてきた。

それでも“地球一周の船旅”は、まさに初体験。4月から7月末まで乗船させて頂いた、この105日間は新しい発見の連続だった。一言で表すなら、ピースボートはまさに「地球をまるごと教材にした学び舎」だった。

105日の船旅の中で、もっとも大きな学びとなったのがポーランドにある「アウシュビッツ強制収容所」を訪れるオーバーランドツアーだった。

「ホロコースト」という言葉をご存じの方も多いだろう。アドルフ・ヒトラーが率いる政党「ナチス」がドイツの政権を握り、「人種的に純粋」な社会を築くために“ユダヤ人”を始めとする、他の民族を絶滅させようと計画していた。アウシュビッツ強制収容所はその思想のもと、ユダヤ人や刑事犯が収容され、推定約110万人もの命が犠牲になった。この世界の、大量虐殺や暴力の象徴とされる場所だ。

“平和のためにできることを探す”ことをテーマに旅を続ける僕にとって、ここを訪れることは船旅の最大の目的だった。

みんなで知り、伝え、共有し合える船内

ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)ポーランドの学生たちとの交流会
僕の旅のスタイルはいつも“知らないからこそ飛び込め”だ。平和を志している割に、歴史に弱い。だから、開き直って、まずは現場に飛び込んでみる。そうすれば知らざるを得ないし、よくわからなかったとしても後から悔しくなって勉強する意欲が湧くからだ。

しかし、今回の旅は違った。なんと船内では、同じツアーをとっている仲間達が参加する勉強会が、ツアーの前に開かれている。日本の押しつけがましい教育のように一方的に“教えてもらう”のではなく、集まったメンバーで自主的に学び合い、伝えあう空気感が魅力だ。

アウシュビッツを研究するゲストや、すでに訪れたことのある方に疑問をぶつけることも出来た。予習することは、どんなところにも飛び込めるガッツと同じくらい大切だと痛感した。

アウシュビッツを語り継ぐ唯一の日本人

ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)中谷剛さん
予習は万全だったことも追い風となり、負の世界遺産めぐりは、感情を揺さぶられる学びの連続だった。数えきれない程の人が詰め込まれたであろうガス室の残骸、遺体の焼却炉、収容された人の遺品や髪の毛、収容者が命がけで残した当時の盗撮写真。

どれも、あまりに生々しく、本当にそんなことが起こったのか?と疑いたくなるほどだった。だが、ここを訪れて最も僕の感情を揺さぶったのは収容所を案内して下さった日本人、中谷剛さんの存在だった。

 中谷さんは、アウシュビッツ博物館を公式にガイドできる唯一のアジア人で、歴代ガイドの中で初めての外国人だ。ガイドが始まって当初は、「案内しすぎて仕事に飽きてしまったんじゃないか?」と思ってしまうほど、冷静で淡々とした印象を受けた。

だが、終わる頃には自分が中谷さんと同じ日本人だということが、誇らしくなるほどの名ガイドだった。

グローバリズムが抱えるリスクと弊害

ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)中谷さんから説明を受ける
中谷さんのガイドは、その時訪れた人に合わせていくスタイルだ。と、いってもただ単に話を合わせるわけではない。アウシュビッツから導き出した様々な問いかけを、一人一人に投げかけていく。しかも、現在の日本社会や世界が抱える問題に関連させてくるから、憎いほど考えさせられる。

「ホロコーストは、ヘイトスピーチから始まったと知っていますか?」と始まった、禅問答。「今、日本で起きているヘイトスピーチの問題。じつは、ドイツはホロコーストの反省から、日本に警告をしているんです」と中谷さんは言う。

確かに僕が住んでいる大阪では、在日の方々への強烈に排他的なスピーチが、警察に保護されたデモ活動により公然と行われている。「急速にグローバリズムが広がっている今、様々な文化や民族が国境を越えて入り混じっている。そうなっても結局、それぞれの文化や民族が固まってコミュニティをつくる。そこで、どうしても排他的な運動が起きる」。

もしあなたが突然、「明日から隣の家のご家族と強制的に同じ家で生活しなさい」と強制されたとしよう。そうすると、まず家の中をそれぞれの家族が落ち着ける空間にわけるだろう。そうなっても、お互いの暮らし方を尊重し合い、支え合えば気持ち良く生活できるだろう。

だが、お互いの悪いところを批判し合ってばかりなら、すぐに生活は崩壊するだろう。それが世界で起きているグローバリズムの弊害、ヘイトスピーチの原因。国境を失くしても世界は平和にならない。

心の中にある国境を失くさなければ、ホロコーストはこれからも世界で起き続けるだろう。
僕はそれを常に意識するためにフンドシを履いている。これは、自分の文化を大切にし、他の文化も尊重するという誓いの現れなのだ。

 “この歴史をどう理解して、どう将来につなげていくか?”

“伝える”ことを追求し続ける中谷さんの問い掛けは戦争体験者のお話を直接伺える最後の世代である僕たちに、大きなヒントをくれた。

“アウトプット”が一番大切な“インプット”

ピースボートだからこそ出来る世界の学び方(第9回エッセイ大賞受賞者・濱田直翔さんエッセイ)ツアー参加者による報告会
船内では、僕たちがツアーから帰ってくると、すぐさま報告会の準備が始まる。メンバーのみんなでホロコーストのこと、アウシュビッツ強制収容所のことを全く知らない人にも伝わるように試行錯誤する。自分達で撮ってきた写真や映像を使うのはモチロンだ。

イメージが湧きやすいように、強制収容所に収容された様々な立場の人の役を、メンバーがパネルを持って演じたり。生還者の方の証言を再現したり。数百人の前で、“何かを伝える”というのはいい意味でのプレッシャーになる。

何より、人に伝えるためには、自分の中で理解を深めておかなければできない。つまり、伝える事が何より学びを深めてくれる。自分が受け取ったメッセージを、また誰かに伝えていくことで、大切なことは広がっていく。アウトプットをしないインプットは便秘なんだ。報告会が終わって張感から解放されたら、モチロン居酒屋「波へい」で打ち上げだ。

「ここに来て、歴史を学ぶことの大切さを知った」
「無関心も個人の自由だと思っていたけれど被害者からすれば加担しているのも同じだとおもった」
「自由な社会だからこそ、選択するということには勇気・責任・尊重が必要だと思った」
「正直、人間ってなんなのか分からなくなった」

ツアーに参加したメンバーの感想はさまざま。ただ一つ、共通することはアウシュビッツを訪れたからと言って、そこに何かの答えがあるわけではない。ぼくたちは自分達の人生を通して、ここで感じたことをどう活かしていけるかを問い続けなくてはならないようだ。

知らない世界へ行き、その土地で学ぶ。

1週間ほどのツアーだけでも、ここに書き切れない程の学びがまだまだあった。105日間の船旅で自分に訪れる学びは、計り知れない。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉があるが、ピースボートの旅は、経験を通して歴史を学べる。最高の学び舎だ。

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