【interview】世界を揺るがすシリア難民問題にどう向き合うのか?−国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(1)

プロジェクト:パレスチナ・中東 寄港地エリア:中東
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【interview】世界を揺るがすシリア難民問題にどう向き合うのか?−国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(1)高橋和夫さん(放送大学教授、国際政治学者)
緊迫するシリア情勢と、それにともなって大量に押し寄せる難民が、いまヨーロッパを始め、世界を揺るがせています。

難民とは、人道的な危機に直面して故郷を離れなければならなくなった人たちのことですが、私たちは、この新たに発生した難民問題をどのように受け止めれば良いのでしょうか?

難民の状況から、最大の受け入れ国であるドイツの事情などを、ピースボートの水先案内人で、国際政治学者の高橋和夫さん(放送大学教授)に2回に渡って伺いました。

シリア難民の特徴とは?

Q:ヨーロッパに押し寄せるシリア難民が、世界的な問題になっています。難民はこれまでも世界各地で出ていましたが、今回は何が違うのでしょうか?

高橋:シリア難民の特徴は2つあります。ひとつは、人数が過去最大であることです。シリアの人口は2200万人ですが、国内避難民も含めると、その半分にあたる1000万人以上が難民になっています。

国の半分が難民というのは異常なことです。また規模としても東京都民が全員難民になったのと同じことなので大変な数と言えるでしょう。 

もうひとつの特徴は、2015年に入って急激にヨーロッパに逃れる人が増えた事です。2011年にシリアが内戦状態になって数年間は、トルコやヨルダン、レバノン、イラクといった周辺国が難民をひき受けてきました。

トルコの200万人を筆頭に、周辺国に400万人が逃げ、人々は難民キャンプなどで暮らしていました。その周辺国を支えてきたのは国際社会の支援ですが、最近それが足りなくなってきました。

難民キャンプの状況もひどくなったため、周辺国を出てヨーロッパを目指そうという人たちが増えたという背景があります。

レバノンなどは人口が400万人程度の小国です。すでにパレスチナ難民もいます。そこに新たな難民が波が押し寄せているのは大変なことです。イラクで難民が逃げてきている地域は、安定している北部のクルド人地域です。そこにはシリアのクルド系の人が、親近感もあって逃げてきています。

より悲劇的なのは、シリアに暮らしていたパレスチナ難民です。1948年にパレスチナ地域にイスラエルという国ができたことで、そこに暮らしていたパレスチナ人が難民となり、中東諸国にバラバラに移住します。

シリアにもその難民の子孫を含めて約50万人のパレスチナ難民が暮らしていました。その人たちが、今回の混乱でもう一度難民となっているのです。

難民はヨーロッパを目指す

【interview】世界を揺るがすシリア難民問題にどう向き合うのか?−国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(1)難民を支援する世界の医療団ギリシャ支部が運営する診療所を訪問(第88回ピースボートにて)
Q:難民の多くはヨーロッパ、EU諸国を目指しています。その理由を教えてください。

高橋:難民の多くは、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンなど、経済が好調で賃金が高く、難民の扱いが比較的良い条件の国々を目指しています。特にドイツは、かつて大量のトルコ移民を受け入れてきた実績があります。

そうしたイスラム教徒のコミュニティもあるということで、シリア難民にとっても親近感があるし、頼りたいところはあるでしょう。

難民の側も、口コミやインターネット、ソーシャルメディアなどを通じてそのような情報をよく知っています。だからまったく知らない所に行くわけではないという感覚なのかもしれません。

難民がやって来るルートは?

Q:難民はどのようなルートでヨーロッパにやってくるのでしょうか?

高橋:シリアからヨーロッパに移動できる人は、難民の中でも比較的お金を持っていたり、ネットワークを持っていて親戚中からお金を集めてきた人です。

そういった人たちの多くは、英語を話し、スマートフォンで情報を共有しながら、トルコやレバノンといった周辺国のアパートに住んでいました。

状況の悪化に伴って密航業者などにお金を渡し、船に乗って海路でヨーロッパへ移動しています。とはいえ、もちろん怪しい業者も多く、犯罪に巻き込まれたり、人身売買の対象になるリスクもあります。

また、お金のない人たちは逃げたくても周辺の難民キャンプに留まっています。

国ごとに温度差のあるEU諸国の対応

【interview】世界を揺るがすシリア難民問題にどう向き合うのか?−国際政治学者・高橋和夫さんに聞く(1)世界の医療団ギリシャ支部代表に船上で集まった難民への支援金を渡す(第88回ピースボートにて)
Q:ヨーロッパの国々の反応はどうでしょうか?

高橋:国によって反応は分かれています。ドイツはできる限りの支援をしよう、という態度に出ています。しかしEUの他の国、特に最近加盟したような東欧諸国は消極的です。

自分たち自身も経済的に大変なのに、難民の面倒まで見られないという思いがあるからです。

他にもポーランドなどは隣のウクライナ情勢が大変なことになっています。これからウクライナから難民が出る可能性があり、それに備えないといけないから、シリア難民の受け入れは難しいと言っている。各国の事情が違うのです。

しかしドイツは、EUに加盟した事でそれなりの補助金をもらっているのだから義務を果たしてもらわないと困るという立場です。

なぜドイツは難民支援をするのか?

Q:ドイツはなぜ受け入れに積極的なのでしょうか?

高橋:ドイツのメルケル政権は、2015年の年末までに80万人とも言われる難民を受け入れるためにできる限りの対応をしようとしています。

もちろん国内では反発もありますが、現在までその方針はドイツ社会でおおむね受け入れられているように見えます。少なくとも政権はそれで倒れているわけではないという事実は、非常に大きな事です。

その理由としては、もちろん経済が好調ということがあるのですが、別の理由として、第二次世界大戦の後に、ドイツ人国民の多くがチェコのズデーテン地方や現在のポーランドとなった地域から難民となって帰国した経験があります。

難民問題を自身のこととして受け止めているのです。また、ホロコーストの加害者だったということから、人道的な問題で貢献したいという思いもあるかもしれません。いずれにしても、国際貢献という意味では評価するべき決断だと思います。

Q:これまでトルコなどから移民を受け入れてきた経験も、活きているようですね。

高橋:そうですね。ドイツでは移民や難民を受け入れる事は、長い目で見ると人口問題を緩和し、国のプラスになるという認識されています。

ドイツは日本ほどではないにしろ、少子高齢化が進んでいるので、難民を受け入れて若い労働力を確保し、人口問題の解決につなげたいという思わくはあるはずです。

EU圏内に入ってくる難民は、比較的資産があって教育レベルも高いので、ドイツは教育投資をせずに、教育を受けた国民を手に入れるという考え方もできます。それは長期的にはドイツ経済のプラスになるはずです。

※次回は、受け入れ国の課題やシリア情勢、そして日本に何ができるのかについて取り上げます。

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